第24話『関所破りと鉄の扉』
『マスター、ナビゲーションを再開します!追っ手が来る前に、事務所へ急いでください!』
俺は混乱する思考を無理やり再起動させ、ポプリの視界に新たなルートを表示した。
(異常な怪力に、超人的な身体能力……。一体どんな環境で育てば、ああなるんだ……?宇宙遊牧民ってのは、みんなあんななのか……?)
「今の、すごいでしょ!」
ポプリは、まるで自慢の技を披露したかのように、得意げな声をインカムに響かせる。
『……非常に論理的ではない動きでしたが、結果的に危機を脱しました。評価します』
俺は平静を装ってそう返したが、内心の動揺は収まらない。
この少女、底が知れなさすぎる。
俺のナビゲーションに従い、いくつかの薄暗い通路を駆け抜ける。
G-1のセンサーが、後方からチンピラたちが追ってくる気配がないことを確認した。どうやら、あの超常的な動きを見て、追うのを諦めたらしい。
やがて、俺たちは通路の突き当たりにある、ひときわ物々しい場所にたどり着いた。
そこは、ジャンクヤードの酒場以上に威圧感を放つ、分厚い鋼鉄の扉で固く閉ざされていた。扉の上には、チカチカと点滅するランプで【第13ドック管理事務所】と表示されている。
扉には防弾ガラスがはめ込まれた小さな窓口があり、その向こう側から、一対の無愛想な目がこちらを覗いている。
そして、その窓口の前には、屈強な傭兵や賞金稼ぎ風の宇宙人たちが、10人ほどイライラした様子で列を作っていた。
『残り時間42分10秒……どうやら、手続きには順番待ちが必要なようです。ですが、列に並んでいてはタイムリミットに間に合わない可能性が……』
俺が状況を分析していると、ポプリは全くためらうことなく、列の脇をすり抜けて窓口に駆け寄った。
「すみませーん!停泊料の支払いをしたいんですけどー!」
窓口の向こうの主――ナマズのようなヒゲを生やした宇宙人――は、面倒くさそうに顔を上げた。
「あぁ?支払いだろうが何だろうが、順番に並びな。見てわからねえのか」
その言葉と同時に、列に並んでいた宇宙人たちが、ギロリとポプリを睨みつけた。
肩からバズーカを担いだトカゲ頭の傭兵が、低い声で威嚇する。
「おい、ガキ。横入りは死にてえ奴のやることだぜ、ここではな」
『マスター、下がってください!彼らを刺激してはいけません!』
俺は必死に警告するが、ポプリは全く動じなかった。
「でも、すっごく急いでるんです!あと……」
『40分18秒』
「40分18秒以内に払わないと、私たちの船が解体されちゃうんです!」
そのあまりにも正直な物言いに、列に並んでいたならず者たちが、逆に興味深そうな視線を向けてくる。
「へえ、船がカタになってるのか」「45分ねぇ……」「いい船なのかねえ、そいつは」
まずい。余計な情報を与えてしまった!
俺が冷や汗をかく(という感覚に襲われる)中、ポプリはさらにとんでもない行動に出た。
「お願いです!先に通してください!」
そう言うと、彼女は列の先頭にいた、サイボーグゴリラのような大男の腕に、ひょいと抱きついた。
その瞬間、ゴリラの顔が怒りに歪み、酒場の連中とは比較にならない、本物の殺気が、狭い通路に満ち満ちた。
(第24話 了)
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元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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次回 第25話『金歯の爬虫類の言い分』
ポプリは、歴史の裂け目に打ち込まれた食いしん坊万歳。




