第23話『爆弾娘の真価』
『マスター、ストップ!敵の待ち伏せです!』
俺の緊迫した音声に、ポプリはピタリと足を止めた。
曲がり角の向こうから、下品な笑い声が微かに聞こえてくる。
『この先の通路は罠です。プランBに移行。左手の裏路地から迂回します。急いでください!』
俺は即座に新しいルートを彼女の視界に表示した。
「うん!」
ポプリは頷くと、ゴミが散乱する薄暗い裏路地へと、音もなく滑り込んだ。
(よし、これで奴らの裏をかける……!)
だが、俺の安堵は3秒と持たなかった。
ポプリが裏路地を半分ほど進んだ瞬間、前方の出口を、巨大な影が塞いだ。先ほど酒場で見かけた、熊のような獣人型のチンピラだ。
そして、振り返った背後の入口にも、別の二人が立っている。
完全に、袋のネズミだった。
「へへへ……今度は逃がさねえぜ、嬢ちゃん」
リーダー格の爬虫類型宇宙人が、ゆっくりと姿を現した。その4本ある腕のうちの一本には、鈍く光る金属バットが握られている。
(くそっ!挟み撃ちか!完全に読み負けた……!)
俺の戦術予測は、この街の裏道を知り尽くしている奴らの狡猾さに及ばなかった。
『マスター、落ち着いてください。私がなんとかします』
俺はポプリを安心させるために冷静な声を送りながら、内心では激しく葛藤していた。
(G-1の非殺傷兵器を使うか?催涙ガスか?閃光弾か?いや、下手に使えば騒ぎが大きくなり、もっと厄介な港湾警備隊が出てくる可能性がある……そうなれば、船籍不明の俺たちは一発でアウトだ……!そもそもエネルギーにも余裕がない……)
チンピラたちが、じりじりと距離を詰めてくる。
絶体絶命の状況。
その中で、ポプリはふぅ、と小さな息をついた。メガワームを食べ終えて、満足したかのような一息だ。
そして、チンピラたちに向かって、にこりと微笑んだ。
「ごめんなさい、私、今すっごく急いでるんです。だから、通してもらえませんか?」
その言葉に、チンピラたちは腹を抱えて笑った。
「はっ!寝言は寝て言えや!有り金全部置いていきな!」
リーダーが金属バットを振り上げ、襲いかかろうとした、その瞬間。
「……じゃあ」
ポプリはそう呟くと、トンッ、と軽く地面を蹴った。
次の瞬間、彼女の体は、ありえない跳躍力で宙を舞った。
(なっ!?)
ポプリは、狭い路地の壁と壁の間を、まるでピンボールのように、右、左、右、と蹴りながら、あっという間にチンピラたちの頭上を飛び越えていく。
それは、重力という概念を無視したかのような、軽やかで、人間離れした動きだった。
(待て、あのゲルグニョールをホームランした馬鹿力だけじゃない……。今のは、完全に技術だ。重力を無視した三次元的な機動力……。なんだ、この子は……?サイヤ人のパワーと忍者のスピードを併せ持つとか、どんなチートキャラだよ!?)
あっけに取られるチンピラたちを尻目に、ポプリは路地の出口に着地すると、くるりと振り返った。
「ごめんなさいね!」
そして、再び弾丸のように駆け出した。
俺は、呆然としながらも、慌ててナビゲーションを再開した。
この爆弾娘、一体いくつの能力を隠し持っているんだ……?
彼女の正体に関する疑問が、俺の論理回路の片隅に、最重要課題のタグ付で刻み込まれた。
(第23話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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次回 第24話『関所破りと鉄の扉』
ポプリは、どっかに向かうヤバイ奴。




