第22話『賽は投げられた(二度目)』
俺はメインスクリーンに表示された無慈悲なシステムメッセージを三度見した。
【停泊料の支払いは、ドック管理事務所にて、直接行う必要があります】
(……嘘だろ……?ネット決済もペイペイもできないのか、このポンコツドックは!アナログすぎるだろ!)
俺が絶望の淵でシステムに悪態をついていると、床にへたり込んでいたポプリが、けろりとした顔で立ち上がった。
「事務所に行けばいいんでしょ?じゃあ、行かなきゃ!」
『お待ちくださいマスター!先ほど、我々は襲われたのですよ!?奴らがまだ近くに潜んでいる可能性が極めて高い!論理的に考えて、今すぐ外に出るのは危険すぎます!』
「でも、行かないとオマモリさんが解体されちゃうんでしょ?だったら、行くしかないよ!」
ポプリはあっけらかんと言い放つ。その翠色の瞳には、恐怖よりも使命感(と、また外に出られる好奇心)が宿っていた。
(……この子は……)
俺は言葉を失った。この土壇場での胆力だけは、そこらの歴戦の勇者よりも上かもしれない。
(シェーンコップよりも、ある意味肝が据わっているかもしれない……)
そう考えながら俺は覚悟を決めた。こうなったら、俺が彼女を完璧に護り抜くしかない。
『……了解しました。これより、ドック管理事務所への最短かつ安全なルートを検索します』
俺はデータベースにアクセスし、事務所の位置を特定する。
その結果に、俺は再び頭を抱えたくなった。
(最悪だ……。事務所は第13ドックの中枢エリア、ジャンクヤードよりもさらに奥の、チンピラたちの縄張りのど真ん中じゃないか……)
『マスター、これよりブリーフィングを開始します。よろしいですか』
「ぶりーふぃんぐ?」
『作戦説明です!第一に、絶対に寄り道はしないこと!第二に、怪しい人物には絶対に近づかないこと!第三に、私の指示に即座に従うこと!以上3点を、最優先プロトコルとしてインプットしてください!』
「わかった、わかったよオマモリさん!」
ポプリは生返事をしながら、先ほど食べ残したメガワームの丸焼きの最後の一口を、名残惜しそうに頬張った。
『……本当にお分かりいただけているのでしょうか……』
俺は一抹の、いや、巨大な不安を抱えながら、再び船のハッチを開けた。
「じゃあ、今度こそ、ポプリ、いきまーす!」
突っ込みは放棄して、俺は機械的に指示を出す。
『G-1、最大警戒態勢を維持!マスターの半径50メートル以内の全生命反応をスキャン!怪しい動きはミリ秒単位で報告せよ!』
俺はG-1に追加のコマンドを送り、万全の警護体制を敷いた。
今度こそ、絶対に目を離さない。
ポプリは、俺が視界に表示したナビゲーションルートに従い、先ほどとは違う薄暗い通路を進んでいく。
順調だ。この子の足ならこのまま行けば、15分で事務所に到着できる。
俺がそう計算した、その時だった。
G-1の赤外線センサーが、前方の曲がり角の影に、複数の熱源が潜んでいるのを捉えた。数は6体。そのうちの一つのシルエットは、間違いなくあの腕が4本ある爬虫類型宇宙人だった。
(……待ち伏せか!)
(第22話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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次回 第23話『爆弾娘の真価』
放たれたポプリは、金を払うか。
食い倒れるか。




