第21話『ハイエナの時間』
『マスター、危険です!すぐにそこを離れてください!何者かに狙われています!』
俺は最大限の警告をポプリに送る。
だが、彼女はメガワームの美味さに完全に心を奪われていた。
「んー?なぁに、オマモリしゃん?これ、すっごくおいひいよぉ?」
(ダメだ、食い物に夢中で聞こえてない!)
その間にも、チンピラ風の宇宙人たちが、じりじりとポプリへの包囲網を狭めてくる。
先ほどジャンクヤードでヤジを飛ばしていた連中の一部だ。
リーダー格らしき、腕が4本ある爬虫類型宇宙人が、ヌラリとポプリの前に姿を現した。
「よぉ、嬢ちゃん。いいモン持ってんじゃねえか。さっきの報酬かい?」
「え?あ、はい!これ、美味しいですよ!」
ポプリは、まだ相手の意図に気づかず、食べかけのメガワームを差し出した。
「ハッ、そんなゲテモノに用はねえよ。俺たちが欲しいのは、そっちのキラキラしてる方と鞄の中身だ」
男は、ポプリが握りしめるクレジットチップの束と鞄を、いやらしい目で見つめた。
『マスター、すぐに逃げてください!私がルートを指示します!』
ここでようやく、ポプリも状況を理解したらしい。彼女はクレジットチップをギュッと握りしめ、警戒するように後ずさった。
だが、背後からは別のチンピラたちが回り込んでおり、完全に退路を断たれていた。
(まずい……!このままでは、金と卵を奪われ、最悪の場合は……!)
俺のプロセッサが、最悪の未来を予測し、オーバーヒートしそうになる。
(くそっ!俺に手足があれば……!いや、あるじゃないか!俺の手足が!)
俺は即座に、G-1の制御に意識を集中させた。
攻撃は許可されていない。だが、陽動なら!
『G-1、プランC!目標、チンピラたちの頭上のネオンサイン!電撃パルス、出力3%で照射!』
チンピラたちの頭上で、古びたネオンサインが明滅している。
俺の指示を受け、G-1の機体から、ごく微弱な電撃が放たれた。それは生物には何の影響もない、ただの静電気のようなものだ。
だが、不安定な安物のネオンサインの電子回路をショートさせるには、それで十分だった。
バチチチチッ!ボンッ!
ネオンサインは大きな音を立ててショートし、無数の火花を散らしながら落下した。
「うわっ!?」「なんだ!?」
チンピラたちが、頭上の騒ぎに一瞬だけ気を取られる。
その隙を、俺は見逃さなかった。
『マスター、今です!右です!全力で走ってください!』
「うん!」
ポプリは、弾丸のように駆け出した。
チンピラたちが「あっ!待ちやがれ!」と叫ぶが、もう遅い。
人混みをすり抜けるポプリの小さな体を、ガタイのいい連中が捕まえられるはずもなかった。
『そのまま直進!次の角を左!その先の階段を駆け上がってください!』
俺のナビゲーションとポプリの脚力、そしてG-1による上空からの交通整理(他の宇宙人の進路を微妙に妨害する)が完璧にシンクロする。
数分後、俺たちはチンピラたちを完全に振り切り、船の停泊する第13ドックへと、息を切らしながら帰り着いた。
プシュー……
船のハッチが閉まり、外の喧騒が遮断される。
「はぁ……はぁ……びっくりしたぁ……」
ポプリは床にへたり込んだ。肩には卵が入った鞄を下げ、その手には、食べかけのメガワームと、クレジットチップの束が、まだ固く握りしめられていた。
『……よくやりました、マスター。さあ、支払いましょう。これで、私も解体されずに……』
俺が安堵の息をつき、支払いシステムを起動した、その時だった。
【警告:船体が外部アームにより物理的に拘束されているため、全ての外部アクセスポートがロックされています。停泊料の支払いは、ドック管理事務所にて、直接行う必要があります】
俺のメインスクリーンに、無慈悲なシステムメッセージが表示された。
『…………は?』
タイムリミットまで、残り1時間05分。
どうやら、この地獄からは、まだ出られないらしい。
(第21話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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第22話『賽は投げられた(二度目)』
夜の闇もへそで茶を沸かす。




