第18話『デブリーフィング(事後報告です)』
機能停止したゴーレムの背中で、司令官モードのポプリが静かに佇んでいる。
その姿は、いつもの天真爛漫な彼女とはかけ離れた、孤高の戦士のようだった。
『……マスター?』
俺は恐る恐る、インカムで呼びかけた。
「報告します。敵性体『墓守』の機能停止を確認。これより当宙域からの離脱フェーズに移行します」
司令官は、まるで俺の内心の混乱など意に介さず、淡々と状況を報告する。
(即デブリーフィングかよ!どこの海江田四郎だよ!亜白隊長かよ!?)
『あ、あの……マスターは一体……?』
「質問は却下します。今はミッションの遂行が最優先です。オマモリさん、G-1のソナーを最大出力に。この遺跡の構造材は、特定の低周波音波に共鳴する特性があります。その反響を解析すれば、地上への最短ルートが割り出せるはずです」
『は、はい!了解しました!』
俺は、もはや彼女の指示に従うしかなかった。言われた通りにソナーを操作すると、複雑怪奇だった遺跡の構造が、嘘のようにクリアな3Dマップとして俺のスクリーンに構築されていく。
(……なんでそんなことまで知ってるんだ……?)
「ルート算出、急いでください。タイムリミットが迫っています」
『算出完了しました!こちらです!』
俺は慌てて、地上へと続く最短ルートを彼女の視界に表示した。それは、先ほどの濁流が流れ込んできた崩れた壁の、さらに奥へと続く別の通路だった。
「よろしい。行きますよ」
司令官はゴーレムの背中から軽やかに飛び降りると、金色の卵が入った鞄を拾い上げ、寸分の迷いもなく歩き出した。
俺はG-1を追従させながら、彼女の背中を見つめることしかできない。
その小さな背中が、今はどんな巨大な戦艦よりも頼もしく見えた。
通路を抜ける途中、司令官はふと足を止め、壁に刻まれたハートの紋章のレリーフに、指先でそっと触れた。その横顔には、いつもの笑顔も、今の冷徹さとも違う、何か郷愁に似た、読み取れない表情が浮かんでいた。
やがて、長い通路の先に、地上から差し込む微かな光が見えてきた。
どうやら、ジャンクヤードの裏手にある、別のマンホールに繋がっているらしい。
『マスター、出口です!これで地上に……』
俺が安堵の声を上げた、その時だった。
地上への梯子に手をかけた司令官の体が、ぐらり、と大きく傾いた。
「……あれ……?」
その声は、先ほどまでの冷徹な響きを失い、いつもの気の抜けた、ポプリの声に戻っていた。
『マスター!?』
「うぅ……オマモリしゃん……?あたまっ、ぐっるぐるするぅ……」
ポプリは梯子の前でへなへなと座り込むと、両手で頭を押さえた。その顔はまだ真っ赤で、焦点の合わない翠色の瞳が、とろんとしている。
(戻った……のか?魔法少女の変身が解けたみたいに!)
俺のシステムが、タイムリミットを非情に表示する。
【船体没収まで:残り1時間30分15秒】
目の前には、巨大なゴーレムを一人で解体した英雄(?)。
しかし、その中身は、完全に記憶を失った、ただの酔っぱらいに戻っていた。
(第18話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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次回『報酬と新たな誘惑』
ポプリに、ピリオドを打てない。




