第17話『ピタゴラ式戦闘術』
ゴーレムの巨大な石の拳が、ポプリの小さな頭上へと振り下ろされる。
(ダメだ!間に合わない!)
『マスター、回避!』
俺が絶叫するよりも早く、司令官は冷静に次の命令を下した。
「オマモリさん。今です」
『今……?何を……え?』
「転がした閃光弾を、起爆しなさい」
俺は一瞬、命令の意味を理解できなかった。
足首の隙間で、閃光弾を?
(そんなことをすれば、敵にダメージはない!ただ、その衝撃で敵の体勢が……あっ!)
俺は司令官の意図を理解した。これは、破壊を目的とした攻撃じゃない!
俺は即座に閃光弾の起爆スイッチを入れた。
パンッ!
ゴーレムの足元で、小さな、しかし鋭い炸裂音が響いた。
その衝撃は、巨大なゴーレムに傷一つつけられない。
だが、その衝撃が、完璧なバランスで立っていたゴーレムの足首を、ほんのわずかに、数ミリだけ傾かせた。
それだけで、十分だった。
振り下ろされようとしていた拳の軌道が、わずかにずれる。
その結果、ゴーレムの巨体は、ほんの少しだけ、バランスを崩した。
その、ほんの少しの隙を、司令官は見逃さなかった。
「――そこ」
彼女は、振り下ろされた拳を紙一重でかわすと、バランスを崩したゴーレムの巨体を支える軸足……その膝の関節部分に、まるで吸い込まれるように駆け寄った。
そして、手に持っていた「万能ツール」の先端……ガムテープで固定されただけの、貧弱なナイフの刃を、関節の装甲の、ほんのわずかな隙間に、寸分の狂いもなく突き立てた。
ゴガッ!
「関節内部の駆動系ケーブルを切断。左脚部の機能、完全に停止」
司令官が冷静に戦果を報告する。
左脚の動力を失ったゴーレムは、バランスを完全に失い、轟音を立てて前のめりに倒れ込んできた。
「次です、オマモリさん。G-1は敵の背部に回り込み、動力炉の排熱口をスキャン。最も熱量の高いポイントを特定しなさい」
『りょ、了解!』
俺は、もはや彼女を「ポプリ」として認識できなかった。絶対「素子」だ。
倒れ込んだゴーレムは、右腕だけで起き上がろうともがいている。
その背後で、G-1のセンサーが、弱点である排熱口の場所を正確に特定した。
『ポイント特定!敵の背部、中央やや右上です!』
「ご苦労様」
司令官は、倒れたゴーレムの腕を足場にして、まるで蝶のように軽々とその背中に飛び乗った。
そして、俺が特定したポイントに、再び、万能ツールのナイフを――。
ブスリ、という鈍い音。
「……ミッション、コンプリートです」
次の瞬間、ゴーレムの赤い光がフッと消え、ただの巨大な石の塊と化した。
巨大なゴーレムの背中に仁王立ちするポプリを畏敬の念を込めて見つつ、俺は改めて(この少女は、一体何者なんだ?)と思っていた。
(第17話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
「面白い!」「続きが気になる!」「ポプリのやらかしをもっと見たい!」
と少しでも思っていただけましたら、ぜひブックマークや、ページ下部の【★★★★★】で評価をいただけますと、作者の執筆速度が3倍になります!(※個人の感想です)
今週は毎日【12:30 / 19:00】の2回更新となります。ぜひお見逃しなく!
次回『デブリーフィング(報告会です)』
変わらぬ酔っ払いなどいるのか。




