第16話『兵は神速を尊ぶ』
ゴゴゴゴゴゴ……
墓守ゴーレムが、その巨体を揺らしながら、ゆっくりとこちらに歩みを進めてくる。一歩ごとに、床がビリビリと震えた。
「オマモリさん、応答は?」
ポプリ――いや、「司令官」は、冷徹な声で俺に問いかける。その声で、弾かれたようにフリーズしていた俺の機能が戻ってきた。
『は、はい!』
俺は慌てて応答した。
「よろしい。では念の為に再度現状を整理します。敵は単体。武装は両腕の破砕用クローと、胸部中央に内蔵された熱線砲(チャージに時間を要するタイプ)と推測。こちらの戦力は、マスターである私と、あなたの遠隔操作する護衛ドローンG-1が1機。そしてガラクタが少々」
彼女はただただその口調に圧倒されていた。こころなしかポプリの声が田中敦子さんの声に似て聞こえた。
「敵の行動パターンは単純。侵入者を認識し、最短距離で接近、物理的に排除する。知能は低い。ならば、こちらの取るべき戦術は一つです」
司令官は、祭壇からひらりと飛び降りると、手に持っていた「万能ツール」――ただの鉄パイプ――を、まるで騎士の剣のように構えた。
「兵は神速を尊ぶ。敵が行動を開始する前に、その機能を停止させます」
慌てて俺が答える。
『それは無茶です!敵の装甲データが不明です!G-1の電撃パルスですら効果は薄いと予測されます!』
「問題ありません。装甲が厚いなら、その内側を叩けばいい」
司令官はそう言うと、俺に最初の、そして信じがたい命令を下した。
「G-1は、敵の足元に接近。床と足首の僅かな隙間に、閃光弾を『転がし』なさい。爆発させる必要はありません」
『閃光弾を?ですが、それでは……!』
意味が分からない。閃光弾は、光と音で敵の感覚を麻痺させるためのものだ。転がすだけでは何の意味もない。
「実行しなさい」
その声には、有無を言わせぬ響きがあった。
俺は混乱しながらも、彼女の命令に従うしかなかった。
G-1がゴーレムの足元に高速で接近し、ピンポン玉ほどの大きさの閃光弾を、その巨大な足首の隙間にそっと転がし入れた。
ゴーレムは、足元の小さな球体に気づくこともなく、腕を振り上げ、ポプリに殴りかかろうとしていた。
(第16話 了)
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元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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次回『ピタゴラ式戦闘術』
劇的なるものが牙をむく。(ママ)




