第13話『流された先のナニカ』
『マスター、意識をしっかり!G-1を掴んでください!』
俺のメインスクリーンは、濁流に揉まれるポプリの視界で激しく明滅し、平衡感覚が狂いそうになる。
俺はG-1を全速で彼女の元へ飛ばし、その機体を掴ませた。
「きゃー!すごい、ウォータースライダーみたい!」
(この状況で楽しめるのか、この子は……!)
ポプリは片手でG-1に掴まり、もう片方の手で金色の卵が入った鞄を必死に守っている。食い意地だけは、どんな状況でも揺らがないらしい。
俺はドローンの出力を最大にして、なんとか彼女の体ごと脱出しようと試みるが、濁流の勢いは凄まじく、なす術なく流されていく。
どれくらいの時間、流されただろうか。
やがて水の勢いが弱まり、俺たちは広大な地下空間に流れ着いた。
「ぷはっ!……わー……」
ポプリが顔を上げ、その視界に映った光景に、俺も息を呑んだ。
そこは、ただの下水道ではなかった。
ぼんやりと発光する苔に照らされた空間に、巨大な石柱が林立し、壁には見たこともない幾何学模様のレリーフが刻まれている。まるで、ゲームの中にだけ存在する、忘れられた古代遺跡のダンジョンだった。
『……なんだ、ここは……?』
俺のデータベースの、どの銀河マップにも該当する場所はない。
「見てオマモリさん!キラキラしてる!」
ポプリが指さす先には、濁流が運び込んだガラクタに混じって、古代のものと思わしき装飾品や土器の破片が転がっていた。
『マスター、今は感心している場合ではありません。ここがどこか分かりませんが、一刻も早く地上に戻らなければ、タイムリミットが……』
俺がそう言った瞬間、スクリーンに表示された時計を見て、血の気が引いた。
【船体没収まで:残り1時間37分14秒】
(まずい!かなり時間をロスした!)
『マスター、急いで出口を探します。私のナビゲーションに従ってください!』
俺はG-1のソナーを使い、反響音からこの空間の構造をマッピングしようと試みる。だが、構造が複雑すぎて、正確な地図を作るには時間がかかりすぎる。
焦る俺をよそに、ポプリはくんくんと鼻を鳴らしていた。
「ねえ、オマモリさん」
『何ですか、今はそれどころでは……』
「あっちの方から、すっごくいい匂いがする!」
ポプリが指さしたのは、遺跡のさらに奥、暗闇が口を開けている巨大な通路だった。
『匂い……?G-1のセンサーには何も……』
俺の科学的な分析を遮り、ポプリはもう駆け出していた。
「きっと、美味しいものの匂いだよ!行ってみようよ!」
『お待ちくださいマスター!論理的根拠のない行動は危険です!罠かもしれません!』
だが、俺の警告は、ポプリの食欲と好奇心には勝てなかった。
彼女が向かう暗闇の先から、本当に、何か甘く、そして芳醇な香りが漂ってくるような気がした。
それは、俺のセンサーが感知できない、不思議な匂いだった。
(第13話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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*18日(土)・19日(日)の2日間は1日3回【7:30 12:30 19:00】の予定です。
次回『王の酒と墓守』
AIはもう誰も愛さない。




