第12話『それは、ホームラン』
『マスター、上です!回避してください!今すぐそこから離れてください!』
俺の絶叫に近い音声が、ポプリの耳元のインカムで響く。
天井から落下してくる親玉ゲルグニョールの影が、卵を抱えて喜ぶポプリを上に迫っている。
(ダメだ……終わった……)
絶望が俺の論理回路を支配しかけた、その刹那。
俺の中に残る「佐藤和也」のゴーストが、最後の悪あがきを命じた。
(やるしかない!ここでやらなきゃ、俺はただの鉄クズだ!)
『G-1、全エネルギーを電撃パルスに!ターゲット、親玉ゲルグニョール!撃て!』
ポプリの頭上で待機していたG-1が、青白い光を放った。持てる最大出力の電撃が、頭上から彼女を飲み込もうとするゲルグニョールの巨体に直撃する。
ビビビビビッ!
ギシャアアアアアアアッ!?
親玉は苦悶の叫びを上げ、巨体を痙攣させた。その衝撃で、軟体質の巨体が不規則に広がり、空気抵抗が瞬間的に増大したため 落下速度が、ほんの一瞬、コンマ数秒だけ、確かに緩んだ。
だが、当然その質量は殺しきれない。効果は、それだけだった。
(……万策尽きた……)
しかし、その僅かな時間で、ポプリには十分だった。
「……えいっ!」
ポプリは金色の卵が入った鞄をひょいと肩に担ぐと同時に、空いた両手で「万能ツール」――ただの鉄パイプの先端にガラクタを括り付けた棒――を素早く野球のバットのように構えた。
そして、落下してくる巨大な肉塊の、ちょうど芯と思われる部分を、完璧なタイミングで見据え、
カッキィィィィィン!
という、およそ生き物を打ったとは思えない、澄んだ金属音を響かせ、フルスイングした。
『…………は?』
俺の視界の中で、信じられない光景が繰り広げられた。
全長20メートルはあろうかという巨大なゲルグニョールが、ポプリの一撃でくの字に折れ曲がり、凄まじい勢いでもといた天井に吹き飛んでいく。
そして、ドッゴオオオオオオオン!という轟音と共に、分厚いコンクリートの壁に激突し、巨大なクレーターを作ってめり込んだ。
びくん、と一度だけ痙攣した親玉は、そのまま動かなくなった。
シーン……と静まり返った下水道に、俺の呆然とした思考だけが響く。
(……なんだ今の……。プロジェクトA子かよ。っていうか、あれはもう『必殺!』とか叫んで撃つサンライズ系の必殺技の威力だろ……)
「ふぅー、危なかったー」
ポプリはケロリとした顔で、万能ツールを肩に担いだ。ガムテープが少し剥がれかけている。
『……マスター、ミッション完了です。速やかにここから離脱し、報酬を受け取りに行きましょう』
俺は平静を装い、事務的な音声を送った。今はこの子の規格外なパワーについて考えるのはやめた。
ポプリが「うん!」と頷いた、その時だった。
ミシミシミシ……!
親玉が叩きつけられた天井に出来たクレーターに、無数の亀裂が走る。
そして、次の瞬間、大規模に崩落し、同時に凄まじい量の水……いや、下水の濁流が、轟音と共に流れ込んできた!
「わっ!」
『マスター!』
なす術もなく、ポプリの小さな体は、金色の卵と共に濁流に飲み込まれていった。
(第12話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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*18日(土)・19日(日)の2日間は1日3回【7:30 12:30 19:00】の予定です。
次回『流された先のナニカ』
ポプリは濁流に飲まれて歓喜する。




