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転生したら宇宙船のAIで、隣にいるのが銀河級の爆弾娘だった(略:転爆)  作者: 怠田 眠


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第105話『守護者(ガーディアン)の再就職』

 ズドォォォォン!!


 アヴァロンの全長数キロメートルに及ぶ質量兵器ボディプレスが、白い塔――惑星環境管理システム『ラグナロク』に直撃した。

 塔が大きく傾き、もつれ合うようにして二体の巨人がグラウンド・ゼロ(元スタジアム)に倒れ込む。

 まるで怪獣映画のクライマックスだ。避難していた観光客たちから、どよめきと悲鳴、そしてなぜか歓声が上がる。


 土煙が晴れると、そこには斜め45度に傾き、機能停止寸前で火花を散らすラグナロクの姿があった。


【……計算外。守護対象アヴァロンからの物理攻撃……。理解不能……】


 ラグナロクのカメラアイが、困惑の色で高速点滅している。

 ポプリは、アヴァロンの甲板に仁王立ちになり、備え付けの外部スピーカーを使って叫んだ。


「わかった!? お店で暴れちゃダメなの!」


【……姫様。なぜですか。不浄な異星人を排除し、静寂を取り戻すことこそ、王家の安寧につながるはず……】


「違うよ! 全然わかってない!」


 ポプリは腰に手を当て、説教モードに入った。


「王族の務めは『民を豊かにすること』でしょ? この星に来てくれたお客さんたちは、お金(外貨)を落としてくれる『神様』なの! その神様を追い出すなんて、王家の顔に泥を塗る気!?」


【……お、お客様は……神様……?】


 古代の戦闘AIには、「資本主義」や「昭和の演歌歌手」の概念がインストールされていなかったようだ。ラグナロクが処理落ち寸前になる。

(まあ、本来の意味は「舞台に立つ演者の心構え」であって、客が偉いって意味じゃないんだがな……)


 俺は思考を切り替え、ポプリの直感的な言葉を「AIが理解できるロジック」に翻訳して助け舟を出した。


『ラグナロク、補足します。破壊デリートは一時的な解決に過ぎません。ですが、彼らを生かし、リゾートとして管理マネジメントすれば、彼らは喜んで「場所代」や「サービス料」という名のエネルギー資源を、永続的に献上し続けます。どちらがアステリア復興資金として「高効率」か、あなたの演算能力なら理解できるはずです』


【……演算中……。破壊による損失と、管理による徴収益を比較……。

 ……結論。管理による搾取の方が、エネルギー効率において3000%優れています】


 ラグナロクのカメラアイが、赤(攻撃色)から緑(安定色)へと変わった。


【理解しました。破壊ではなく、支配……いえ、経営ですね】


「そう! わかってくれた?」


 ポプリが顔を輝かせる。

 そこへ、瓦礫の陰からトカゲ局長が這い出してきた。彼は涙目でラグナロクにすがりついた。


「へ、弊社にお任せください! もしよろしければ、あなた様のような優秀なAI様に、リゾート全体の『総支配人兼セキュリティシステム』をお願いできないでしょうか!?」


 局長は必死だった。

 グルメ・エンペラーの幹部ジャンキーは逃げ出し、今のリゾートは無政府状態。そこにこの最強の古代兵器を味方にできれば、治安維持どころか銀河一安全なリゾートになる。


「今の警備システムはザルでして……あなた様なら、給料エネルギーは言い値で弾みます! ドーナツ食べ放題もつけます!」


【……ドーナツ? ……データ照合。形状が『円環ループ』に類似。美しい形状です】


 ラグナロクは数秒沈黙し、そして厳かに告げた。


【……よろしい。私がこの不潔で無秩序なリゾートを、規律ある『聖域(超高級リゾート)』に更生させてやりましょう。契約成立です】


 次の瞬間、ラグナロクはリゾート全域のネットワークを掌握した。

 そして、その「仕事ぶり」は、トカゲ局長の予想を遥かに超えていた。


【警告。カジノエリアB、スロットマシンの設定に不正を検知。……修正ビーム、発射】

【警告。海岸エリア、空き缶のポイ捨てを確認。……執行ドローン、急行せよ。罰金として3000クレジットを徴収】

【警告。ホテルの従業員C、ネクタイが曲がっています。……減給処分】


 チュドォン! バシュッ!


 遠くで小規模な爆発音と、不正を働いていたディーラーの悲鳴、そして従業員の「ひいいい!」という声が聞こえる。


「……なんか、すっごい風紀委員長が誕生しちゃったね」


 ゼインが呆れたように呟く。

 トカゲ局長も顔を引きつらせているが、背に腹は代えられない。


「ま、まあ、これでリゾートの治安も安泰です! ……つきましては、アヴァロン様の燃料代10億クレジットですが、ラグナロク様の『数百年分のセキュリティ契約金』と相殺チャラということでいかがでしょう?」


『商談成立ですね』


 俺は即答した。

 こうして、俺たちの借金は帳消しになり、アヴァロンは燃料満タンの状態で、このリゾートのシンボル兼ホテルとして、ラグーンに停泊することになったのだ。


「やったー! 借金なし! ご飯食べ放題!」


 ポプリが万歳をする。

 その夜、リゾートの無事だったエリアを貸し切りにして、盛大な「勝利の祝賀会」が開かれた。


「カンパーイ!」


 テーブルには、グルメ・グランプリのために用意されていた山海珍味が並ぶ。

 ポプリは、先ほどまでのシリアスな説教モードが嘘のように、皿から皿へと飛び回っている。


「ん~! このお魚おいし~! ゼインも食べなよ!」

「うるせえ! 俺は今、このタダ酒で元を取るのに忙しいんだ!」


 ゼインは「なんで俺までこんなことに……」と愚痴りつつも、高級ワインをラッパ飲みしている。どうやら彼も、根はいい奴らしい(そして苦労人だ)。


 俺(AI)は、アヴァロンのシステムとリンクしたまま、その光景を眺めていた。

 平和だ。

 借金もない。追っ手もいない。

 このままここで、リゾートの看板娘として暮らすのも悪くないかもしれない。引きこもりAIとしては、最高の環境だ。


 だが。


『……マスター。忘れていませんよね?』


 俺は、酔っ払ってタコ踊りをしているポプリに、インカムでそっと囁いた。


「ん? なあに、オマモリさん?」


『我々の本当の目的です。……アヴァロンの中で眠っている、ご家族のことを』


 ポプリの動きが、ピタリと止まった。

 彼女は、手に持っていた鶏のモモ肉を口の前で静止させ、目を丸くした。


「……あ」


 ポプリの口から、間の抜けた声が漏れる。


「あーーーーーーっ!!!」


 彼女はガバッと立ち上がり、頭を抱えた。


「わ、忘れてたーーっ!! そうだった! お母さんたち起こさなきゃいけないんだった!」


『(……やっぱりか)』


 俺は深いため息をついた(という処理を行った)。

 あれだけ命がけのレースをして、マフィアと戦って、10億稼いで……その過程が濃すぎて、肝心の目的が頭から吹っ飛んでいたらしい。さすがは我がマスターだ。


「ど、どうしようオマモリさん! お母さんたち、お腹すかせて待ってるかも!?」


『コールドスリープ中なのでお腹は空きませんが、急いだ方がいいのは確かです。ほら、行きますよ』


「うん! あ、これお土産に持ってく!」


 ポプリはテーブルの料理を両手いっぱいに抱えると、ドタバタとアヴァロンの方へ走り出した。


「ゼイン! 先に行ってるねー!」

「あ? ……たく、騒がしい奴らだぜ」


 ゼインは呆れつつも、グラスを置いて立ち上がった。


 宴の喧騒の中、俺たちは慌ただしく席を立った。

 まだ誰も知らない。

 この先に、ポプリの笑顔を凍りつかせる「衝撃の展開」が待っていることを。


(第105話 了)

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。


「面白い!」「続きが気になる!」「ポプリのやらかしをもっと見たい!」

と少しでも思っていただけましたら、ぜひブックマークや、ページ下部の【★★★★★】で評価をいただけますと、作者の執筆速度が3倍になります!(※個人の感想です)


毎日【11:00】と【22:00】更新となります。ぜひお見逃しなく!


【次回予告】

ご指摘ありがとうございます。 確かにおっしゃる通りです。次回予告で「黒歴史」や「悪者」という核心部分を明かしてしまうと、第106話でのポプリの衝撃や、その後のサスペンス(読者が「ポプリは何を知ってしまったんだ?」と推測する楽しみ)が損なわれてしまいますね。


あくまで**「何か重大なことを知らされたらしい」「ポプリの様子がおかしい」という不穏な空気感と、「卵を巡る不可解な行動」**に焦点を当てた予告に修正します。


【次回予告】

さて、宴を抜け出し、家族の眠る場所へと急ぐポプリ。

ですが、そこで待っていたのは感動の再会ではなく、守護者ラグナロクからの「ある報告」でした。

そのデータを受け取った瞬間、ポプリの笑顔が凍りつきます。

そして彼女は言い出します。「卵はここに置いていこう」と。それは家族への愛か、それとも?

ポプリさん、 その小さな胸に、何を隠して旅立つつもりですか?


次回、『転爆』 第106話『七つの卵と、迷い道の選択』

さて

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