表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら宇宙船のAIで、隣にいるのが銀河級の爆弾娘だった(略:転爆)  作者: 怠田 眠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/108

第104話『激突! 10億の盾(シェル)』

【姫様、そこを退いてください。……その不浄な看板シンボルは、聖域の景観を汚す最たるものです】


 守護者ラグナロクのカメラアイが、悲しげに、しかし断固たる意思を持って明滅する。

 白い塔の砲門から放たれた閃光は、ポプリたちを蒸発させるためではなく、その背後にそびえ立つ「グルメ・エンペラー本社ビル」の巨大なフォークとナイフの看板を貫くためのものだ。

 だが、その射線上には逃げ遅れた観光客や、トカゲ局長が避難している銀行も含まれている。ポプリたちが立ちふさがっている以上、結果は同じだ。


「退かない! 絶対に!」


 ポプリとゼインが、巨大なオリハルコン・アワビの殻を構えて射線上に割り込む。


 ドッゴォォォォォォン!!!!


 着弾。


 世界が白に染まり、鼓膜を劈く衝撃音が響き渡る。


「ぐっ……! お、重いぃぃッ!!」

「熱い! 手が焼けるッ!!」


 ビームの直撃を受けたアワビの殻が、赤熱し、凄まじい火花を散らす。

 二人は必死に踏ん張るが、その足はズズズ……と地面を削り、後退していく。

 背後では、グルメ・エンペラーの看板が熱波で歪み、その下の銀行でトカゲ局長が悲鳴を上げているのが見える。あと数メートル下がれば、全員まとめて消し炭だ。


【嘆かわしい……。姫様を盾にするとは、どこまでも卑劣な害虫どもめ】


 ラグナロクの認識では、「ポプリが自ら守っている」のではなく、「ゼインたちに盾にされている」と判断されたようだ。


【出力増大。……姫様には申し訳ありませんが、聖域の浄化が最優先です】


 ビームの輝きが一段階増す。

 殻が悲鳴を上げ、二人の足が地面にめり込む。


『マスター! ゼインさん! 耐えてください!』


 俺(AI)は、ただ祈ることしかできない無力さを噛み締めていた。


(くそっ! 俺にエネルギーさえあれば! アヴァロンが動けば!)


 その時、俺のセンサーが奇妙な数値変動を捉えた。

 灼熱のビームを受け続けているアワビの殻。

 その内側で、熱エネルギーが特殊な波長へと変換され、虹色の燐光となって漏れ出しているのだ。


『……解析。波長パターン、青方偏移。……これは!?』


 俺のデータベースが、ある事実とリンクした。

 古代アステリア王朝のバイオ技術で作られたこの「オリハルコン・アワビ」の殻は、受けた熱や衝撃を高純度の「エーテル・エネルギー」に変換して蓄積する性質を持っていたのだ。

 だからこそ、アヴァロンの主砲を受けても蒸発せず、そのエネルギーで自身を「蒸し焼き」にする熱源に変えることができたのか!


(……待てよ。この高純度エーテルは……)


 俺は、背後のラグーンに沈黙しているアヴァロンのスペックデータを参照した。

 アヴァロンの動力炉は、不純物の多い現代の燃料では動かない。だが、この殻によって濾過・変換された純粋なエネルギーならば……!


(いける……! 宇宙軍から逃げる時に使った「アイギス・システム」*の逆用だ!)

 *良い子は第98話を読み直しましょう。


 本来、敵の攻撃を吸収して跳ね返す「アイギス・フィールド」。システムがダウンしている今、フィールドは展開できないが、「エネルギー吸収板レシーバー」自体は物理的に船体に露出している!


『マスター! ゼインさん! 聞こえますか!』


 俺は最大ボリュームで通信機に向かって叫んだ。


『そのビーム、ただ弾くだけじゃジリ貧です! ……ここは「美味しくいただき」ましょう!』

「えっ!?」

「いただくぅ!? お前、正気か!」


 ゼインが脂汗を流しながら怒鳴り返す。


『正気です! その殻は今、敵の汚れた熱エネルギーを、純粋な燃料エーテルに変換しています! 角度を変えて、そのエネルギーを背後の海に沈んでいる「アヴァロン」にぶち込むんです!』

「ええっ!? 自分たちの船を撃つの!?」

『そうです! アヴァロンの艦首にある「アイギス・レシーバー」に直撃させれば、強制的に再起動キックスタートできる可能性があります! これが唯一の給油チャージ方法です!』

「わかんないけど、やる!」

『私がタイミングを指示します! 合図と共に、殻を右斜め後方へ傾けてください!』

「目印は!?」


 俺はとっさに、G-1のレーザーマーカーを起動した。


 ポプリとゼインが持つ殻の表面に、赤い照準ポイントを投影する。

『あの赤い点の場所を、ビームの中心に合わせてください! そうすれば角度は合います!』

「わかった!」

「チッ、やってやらァ! 失敗したら承知しねえぞ!」


【……消えなさい、不浄なる文明よ】


 ラグナロクのビームが最大出力に達しようとした、その瞬間。


『――今です! 角度変更リフレクトッ!!』


 俺(AI)の合図と同時に、ポプリとゼインが息を合わせてアワビの殻を傾けた。


 一瞬の静寂。


 そして、物理法則が悲鳴を上げた。


 ギャアアアアアンッ!!


 ラグナロクが放った灼熱のビームは、オリハルコンの殻に弾かれ、その進路を強引に捻じ曲げられた。

 だが、それはただの反射ではない。

 殻の内部で濾過された汚濁の熱エネルギーは、虹色に輝く純粋な「エーテル光流」へと変換され、リゾートの夜空を切り裂いて背後の海へと降り注いだ!


【な……!? バカな、我が浄化の光が……曲げられただと!?】


 ラグナロクのカメラアイが激しく明滅する。

 虹色の光流は、ラグーンに沈黙していたアヴァロンの艦首――露出していた「アイギス・レシーバー」へと、吸い込まれるように直撃した。


 ズズズズズ……!


 海が沸騰する。


 だが、爆発は起きない。


 光は全て、渇ききったスポンジに水が染み込むように、アヴァロンの船体へと飲み込まれていく。


『(来た……! エネルギー充填率、急上昇! 50%……80%……120%!? 波動砲かよ!)』


 俺のシステムに、歓喜のアラートが駆け巡る。

 アワビの殻のエネルギー増幅率は異常だ。満タンどころか、限界突破オーバーフロー寸前までチャージされている!


 ドクンッ!!


 リゾート全域の地面が跳ね上がった。


 海面が割れ、大量の海水と共に、白亜の巨神がゆっくりと身を起こす。


『――システム、オールグリーン。動力炉、臨界点突破。……おはようございます、マスター。これより、「しつけ」の時間です』


 アヴァロンの船体が、虹色のオーラを纏って浮上する。

 その威容は、先ほどまでの「沈黙の要塞」とは別物だった。溢れ出るエネルギーが物理的な圧力を生み出し、周囲の空気を震わせている。


「アヴァロン!」


 ポプリが殻を投げ捨て、歓声を上げる。

 ゼインがへたり込む。


「マジかよ……。あの船、敵のビームを餌にして蘇りやがった……」

【……バカな。そのエネルギー反応……。まさか、聖域の守護者たる私に刃向かうつもりですか?】


 ラグナロクの砲塔が、アヴァロンに向けられる。

 だが、アヴァロン(俺)は動じない。

 今の我々には、あのアワビの殻よりも強固な「10億クレジット(借金)」という守るべきものがあるのだ。


『マスター、指示を。あのおしゃべりな塔をどうしますか?』


 ポプリは、煤けた顔を拭いもせず、ニカッと笑って指を突きつけた。


「決まってるでしょ! ……お店で暴れる悪い子は、ツマミ出してお説教だよ!」

了解ラジャー!』


 アヴァロンの巨体が、スラスターを吹かして突進を開始する。

 主砲ではない。ミサイルでもない。

 全長数キロメートルの船体そのものを質量兵器とした、銀河最大級の「体当たり」だ!


(第104話 了)

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。


「面白い!」「続きが気になる!」「ポプリのやらかしをもっと見たい!」

と少しでも思っていただけましたら、ぜひブックマークや、ページ下部の【★★★★★】で評価をいただけますと、作者の執筆速度が3倍になります!(※個人の感想です)


毎日【11:00】更新となります。ぜひお見逃しなく!


【次回予告】

さて、ごビームを食べて元気いっぱいのアヴァロン。

「お店で暴れちゃダメ!」と、ポプリの怒りのタックルが炸裂します。

守護者ラグナロクもタジタジですが、彼にも「聖域を守る」という頑固なプログラムがありました。

AI同士の口喧嘩、物理による説得、そしてトカゲ局長の悲鳴!

戦いの果てに、ポプリたちは「共存」という名の妥協点を見つけられるのでしょうか?

AIオマモリさん、そろそろ「戦艦ラーメン」の夜の部、開店時間ですよ?


次回、『転爆』 第105話『守護者ガーディアンの再就職』

さて

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ