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転生したら宇宙船のAIで、隣にいるのが銀河級の爆弾娘だった(略:転爆)  作者: 怠田 眠


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第103話『守護者(ガーディアン)は過保護(モンスター)』

『……対艦焼夷ビーム、照射開始。てぇっ!!』


 俺(AI)の電子信号がトリガーを弾いた、その刹那。

 リゾートの真昼の太陽が、暗く見えるほどの閃光が迸った。


 ズガアアアアアアァァァッ!!!!


 音すらない。あまりのエネルギー密度に、大気が悲鳴を上げる暇すらなかったのだ。

 アヴァロンの主砲から放たれた極太の光帯は、調理台の前に吊るされた「オリハルコン・アワビ」を正確に呑み込んだ。


「うわあぁぁぁ!?」

「目が! 目がァァ!」


 観客たちが悲鳴を上げて目を覆う。

 通常なら、対象は瞬時に蒸発してプラズマ雲と化すところだ。

 だが、俺は演算能力の全てを「火加減」の制御に注ぎ込んでいた。

 照射時間、0.03秒。

 出力、殻の表面温度を3000度まで上昇させ、内部への熱伝導率がピークに達した瞬間にカット!


『今です!』


 キィィィン……ドパァァァン!!


 閃光の中で、宇宙最強の硬度を誇る殻が、急激な熱膨張に耐えきれず弾け飛んだ。

 その破片がキラキラと舞い散る中、現れたのは――自身の水分と旨味だけで瞬時に蒸し上げられ、虹色に輝くプルプルの「塊」。


「ナイスクッキング! いただきぃッ!」


 ポプリが飛び出し、落下してくるその塊を、巨大な中華鍋(装甲板)で華麗にキャッチする。


 ジュワアアアァァッ!!


 余熱でバターが踊り、醤油(合成)が焦げる香ばしい匂いが、衝撃波に乗ってスタジアム全域へ叩きつけられた。


 ドンッ!


 ポプリが、湯気の立つ巨大な皿を審査員席の前に置く。


「おまちどうさま! 『爆砕・オリハルコンステーキ』だよ!」


 煙が晴れると、そこには宝石のように脈打つステーキが鎮座していた。

 解説役のサー・ガストロノミーが、震える手でナイフを入れる。

 チェーンソーを弾いた超硬度の殻に守られていた身は、まるでプリンのように抵抗なく切れる。

 彼はその一片を口へと運び……静止した。


 ……

 …………


「……美味い」


 その一言は、静寂に包まれたスタジアムに重く響いた。

 次の瞬間、彼の目から滝のような涙が溢れ出し、装着していたスカウター・モノクルがパリーンと爆散した。


「美味すぎるぅぅぅッ!! 暴力的なまでの熱量! なのに、母の胎内のような優しさ!


 これはステーキではない! 数千年の時を超えた、『食のビッグバン』だぁぁぁッ!!」


 ドッカーン!!


 老紳士はあまりの感動に、着ていたタキシードを筋肉の膨張で弾け飛ばし、パンツ一丁の姿でガッツポーズを決めた。

 審査員席が崩壊するほどのリアクションだ。


『勝者……チーム・アヴァロン!!』


 ファンファーレが鳴り響く。

 紙吹雪が舞う中、呆然とする「鉄鍋のジャンキー」を尻目に、ポプリが表彰台に上がる。


「やったー! 10億ゲットだよ!」


 ポプリが、震える手で「10億クレジット」と書かれた巨大な小切手ボードを受け取る。

 横でゼインも、へなへなと座り込んだ。


「長かった……。これでやっと、あのクソトカゲに金を払って、ここからオサラバできるぜ……」


 俺も、システム内部で安堵のため息をついた。

 やれやれ。主砲を調理器具に使った甲斐があったというものだ。これで平和的に解決――


 ズズズズズ……。


 その時、地面が微かに振動した。

 歓声にかき消される程度のものではない。足の裏から内臓を揺らすような、不気味な地響きだ。


「ん? なんだ、地震か?」


 ニトロ・マイクがマイクを握り直す。

 俺のセンサーが、地下深くからの異常な高エネルギー反応を検知した。

 それは、先ほど我々が撃ち込んだ「主砲の余波おこぼれ」に呼応するように、急速に活性化している。


『……警告。地下深度5000、エネルギー反応増大。パターン照合……これは、アステリア文明の識別コード?』


 ドゴォォォォォン!!


 スタジアムの中央、さっきまでアワビが吊るされていた場所が陥没した。

 そこからゆっくりとせり上がってきたのは、巨大な「白い塔」だった。

 いや、塔ではない。それはリゾートの中央タワーよりも遥かに巨大な、「古代の管制塔」だった。


【……システム、再起動。……王家の波動ビームを検知。……認証、クリア。おかえりなさいませ、姫様】


 無機質だが、どこか恭しい機械音声がリゾート全域に響き渡る。

 ポプリが目を丸くした。


「え? 私のこと?」


【はい。当機は惑星環境管理システム『ラグナロク』。アステリアの民が安住するために建造された、この聖域サンクチュアリの守護者です】

「聖域……やっぱり、ここが約束の地だったんだ!」


 ポプリの顔が輝く。

 ご先祖様が目指した楽園は、実在したのだ。ただ、数千年の間に勝手にリゾート開発が進んでいただけの話で。


【姫様のご帰還を、数千年間お待ちしておりました。……しかし】


 ラグナロクの巨大なカメラアイ(単眼)が、周囲をぐるりと見渡した。

 カジノ、ホテル、ネオンサイン、そして観光客たち。

 その赤い光が、明滅を繰り返す。


【……汚い】

「え?」

【あまりにも不潔です。聖なる大地に、このような下品な建造物が寄生し、薄汚い異星人(観光客)が我が物顔で徘徊しているとは……。これでは、姫様をお迎えするのに相応しくありません】


 キュイイイイ……。


 白い塔の側面から、無数の砲門が展開された。

 その照準は、ポプリたちではなく、周囲の豪華なホテルやカジノに向けられている。


【直ちに「害虫駆除クリーニング」を実行します。聖域を、あるべき更地ゼロに戻しましょう】

「えっ? ちょっと待っ――」


 ドシュッ! ドシュッ! チュドォォォン!!


 ラグナロクの砲撃が、リゾート施設を正確に撃ち抜いた。


「ギャアアアア! ホテルが燃えてるぞ!」

「逃げろー! テロだー!」


 観光客たちがパニックになって逃げ惑う。


「おい! 何やってんだあのポンコツ!」


 ゼインが叫ぶ。


「あいつらが逃げたら、誰が俺たちのラーメンを食うんだよ!」

『そこじゃないでしょ!』


 いつのまにかラーメン屋魂に火がついていたゼインを無視してポプリが塔に向かって叫ぶ。


「やめてラグナロク! その人たちは敵じゃないの! 私の……大事な『お客様』なの!」

(お前もかよ! ずっとここでラーメン屋する気なのかよ! 『ダンナが今日からラーメン屋』でも読んだのかよ!)


【お戯れを】


 ラグナロクは攻撃を止めない。


【高貴な姫様が、このような俗物どもを必要とするはずがありません。ご安心ください。あと10分ですべて焼き払い、綺麗な更地にして差し上げます】

『……ダメです、マスター。こちらの言うことを聞きません』


 俺は冷静に分析した。


『彼は旧式のAIです。「王家への絶対忠誠」と「聖域の純潔維持」がハードコードされており、融通が利きません。彼にとってのリゾート破壊は、我々にとっての「部屋の掃除」と同じ善意なのです』

「そんな善意いらないよ! ありがた迷惑すぎる!」


 その時、逃げ遅れたトカゲ局長の悲鳴が通信に入った。


【た、助けてくれェ! アヴァロンのみんな! リゾートが壊滅したら、アンタらに渡した10億の小切手も、銀行ごと吹き飛んで紙切れだヨォォ!】

「な、なんだってーー!?」


 ポプリとゼインが『MMR マガジンミステリー調査班』っぽく同時に絶叫した。

 ポプリの手にある小切手ボードを見る。これが換金できなければ、ただの板切れだ。


「ふざけんな! 俺の10億が!」


 ゼインが血走った目でラグナロクを睨む。


「おいポプリ! あいつを止めろ! ぶっ壊してでも止めろ!」

「わかってる! オマモリさん、主砲発射!」

『無理です。さっきの「調理」でエネルギーは空っぽです。再充填にはリゾートの電源が必要ですが……』


 ドガァァン!


 目の前で発電所がラグナロクのレーザーで吹き飛んだ。


『……電源も、今なくなりました』


 詰んだ。

 金はあるのに、銀行が燃えている。

 船はあるのに、燃料がない。

 味方(守護者)なのに、話が通じない。


【さあ姫様。掃除の仕上げです。まずは、あの最も目障りな、巨大な看板(グルメ・エンペラー本社ビル)から消去します】


 ラグナロクの主砲が、極太のエネルギーを充填し始めた。

 その射線上には、逃げ遅れた人々がごった返している。


「くそっ……! 何かないの!? あいつの攻撃を防ぐ手立ては!」


 ポプリが瓦礫の山を見渡す。

 そこには、さっきの料理対決で使った調理器具や、残骸が散らばっているだけだ。

 その時、俺の視覚センサーが、ある「残骸」を捉えた。


『……マスター。一つだけ、使えるものがあります』

「え?」

『さっき調理した「アレ」です。中身は美味しくいただきましたが……「外側」は残っていますよね?』


 ポプリの視線の先。

 ステージの端に転がっている、巨大な「オリハルコン・アワビの殻」。

 戦車の装甲よりも硬く、主砲の直撃すら耐え抜いた、宇宙最強の「ゴミ」だ。


「……あれだ!」


 ポプリが走る。


「ゼイン! 手伝って! この殻を盾にするの!」

「はあ!? あんなデカいもん持てるかよ!」

「文句言わない! 10億守るんでしょ!」

【ターゲット・ロック。発射まで、3、2……】


 守護者を守るために、守護者と戦う。

 矛盾だらけの防衛戦が、いま始まる。

(ぶっちゃけ、イデが発動してもう終わりにしたい)


(第103話 了)

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。


「面白い!」「続きが気になる!」「ポプリのやらかしをもっと見たい!」

と少しでも思っていただけましたら、ぜひブックマークや、ページ下部の【★★★★★】で評価をいただけますと、作者の執筆速度が3倍になります!(※個人の感想です)


毎日【11:00】更新となります。ぜひお見逃しなく!


【次回予告】

念願の聖域は、とんだ欠陥住宅でした。

「綺麗にしますね」と笑顔でミサイルを撃ち込む守護者ラグナロク。

対するポプリの武器は、食べ終わったアワビの殻一枚。

でも守らなきゃ、10億も、明日も、ラーメン屋の未来もない。

AIオマモリさん、殻の裏側に「家内安全」って書いておきますか?


次回、『転爆』 第104話『激突! 10億のシェル

さて

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