第101話『激突! 鉄鍋のジャンキー』
「いらっしゃいませぇぇぇッ!! 銀河の歴史が詰まった奇跡の一杯! 食わなきゃ損だぜぇぇッ!」
リゾートの浅瀬に鎮座する巨大戦艦アヴァロン。その格納庫ハッチの前で、やけくそ気味な怒号が響いていた。
声の主は、銀河最速のレーサー候補、ゼインだ。
彼は今、パイロットスーツの上から「ラーメン」と書かれた法被を着せられ、必死の形相で客引きをしていた。
その甲斐あって客足は途絶えない。
アヴァロンの広大な格納庫を改装した即席フードコートは、観光客で溢れかえっていた。
「お待ちどうさま! 『アステリア風・特製ロイヤルチャーシュー麺』だよ!」
ホール担当のポプリが、どんぶりを両手に持って客席を駆け回る。
「う、うまい!」
「なんだこのスープは!? 濃厚なのに、舌の上で銀河が爆発するような……!」
厨房(元・ミサイル整備室)で、俺(AI)は数百本のロボットアームを操りながら、次々と注文をさばいていく。
古代文明の叡智であるバイオ技術とナノマシンを、とんこつスープの乳化と麺の湯切りにフル活用する。先代AIが見たら泣くかもしれないが、背に腹は代えられない。
夕方になる頃には、用意した5000食が完売していた。
「……ふぃ〜。疲れたぁ〜」
ポプリが空になった寸胴鍋の横にへたり込む。ゼインも喉を枯らして戻ってきた。
「で、どうなんだAI。儲かったのか?」
『……集計完了。本日の売上、250万クレジット。材料費はタダなので、純利益です』
「250万! すごい!」
ポプリが喜ぶが、ゼインの顔色が曇る。
「おい、待てよ。250万じゃ、10億稼ぐのに400日かかるぞ? 期限は一週間なんだぞ! お前、10億稼げるって言ったじゃねえか!」
『ええ、言いました。ですが、「ラーメンの売上だけで」とは言っていませんよ』
「は?」
俺はメインモニターに、ある広告データを表示した。
『銀河リゾート・グルメ・グランプリ開催!』
『優勝賞金:10億クレジット(副賞:リゾート全域での永久営業権)』
『これです。この大会の賞金こそが、我々の真のターゲットです』
「じゅ、じゅうおく……!」
ポプリの目が輝く。
『ですが、この大会には参加条件があります。「リゾート内で高い評価を得ている人気店であること」。……つまり、今日のラーメン営業は、この「参加資格」を得るための実績作り(フェーズ1)に過ぎません』
「なっ……! 最初からこれを狙ってやがったのか!」
ゼインが呆れつつも感心する。
『ええ。SNSの分析によると、我々の店はすでに「幻の戦艦ラーメン」としてトレンド入りしています。招待状が届くのも時間の問題でしよ――』
その時だった。
格納庫の入り口から、けたたましい爆発音と共に、数人の男たちが乱入してきた。
ドガァァァッ!!
頑丈な軍用テーブルが吹き飛び、スープが飛び散る。
「きゃっ!?」
ポプリが身構える。
現れたのは、黒いスーツにサングラスをした男たちの集団。その胸には、黄金のフォークとナイフが交差したエンブレム――このリゾートの飲食業界を牛耳る巨大組織「グルメ・エンペラー」のバッジが輝いている。
「……おいおい。許可なく店を開いてるネズミは、ここか?」
男たちが左右に割れると、中から一人の小男が進み出てきた。
中華鍋のような丸いサングラスに、油で汚れたコックコート。背中には、身長ほどもある巨大な「鉄のお玉」を背負っている。
「ヒヒッ……。俺様はグルメ・エンペラー四天王が一人、『鉄鍋のジャンキー』だ。……テメェら、ウチのシマで随分と派手に稼いでるようじゃねえか」
ジャンキーと呼ばれた男は、客が残したラーメンのスープを指ですくって舐めた。
「……ペッ! なんだこの化学調味料臭いスープは! 古代の味だァ? 笑わせるんじゃねえ! こんな餌、グルメ・エンペラー様への冒涜だ!」
「なっ!?」
ポプリがムッとする。
「餌じゃないもん! 美味しいもん! みんな美味しいって食べてくれたもん!」
「うるせェ! ……いいか、今すぐ店を畳んで消えな。さもなくば、この鉄鍋でミンチにしてやる!」
ジャンキーが巨大お玉を構え、殺気を放つ。
ゼインが青ざめるが、ポプリは引かない。
「……ご飯を粗末にするやつは、許さない」
ポプリの瞳が、ラーメン屋の看板娘から、戦士の目に戻る。
「謝らないなら、ぶっ飛ばす!」
一触即発の空気。
その時、俺はスピーカーのボリュームを上げた。
『ジャンキーさんと言いましたね? ……我々に文句があるなら、「料理」で決着をつけませんか?』
「あぁ? 料理だと?」
『ええ。我々は明日の「グルメ・グランプリ」にエントリーします。そこで我々が優勝したら、文句を言わないでいただきたい』
「ギャハハハ! 面白え! 素人が俺様に料理で勝とうってか?」
ジャンキーは狂ったように笑った。(まあ、名前的には正しい気もするが)
「いいぜ、その勝負乗ったァ! 俺様がステージで公開処刑してやるよ! ……ただし、負けたらそのデカい船、ウチの組織が貰い受けるぜ?」
『構いません。……その代わり、あなたが負けたら、10億の賞金に加えて、あなたの組織が持つ「食材ルート」もいただきましょう』
「ケッ、強欲なAIだぜ。……明日の正午、メインステージで待ってるぜ!」
グルメ・エンペラーの一団が去っていく。
残されたのは、砕けたテーブルと、途方に暮れるゼイン。
「おいAI! 相手はプロだぞ! 勝算はあるのか!?」
『勝算? 愚問ですね』
俺は、厨房のファブリケーターを「戦闘モード」へと換装させながら答えた。
『こちらは「アヴァロン」ですよ? 火力(物理)も、分析力も、次元が違います。……見せてやりましょう、古代兵器による「究極の調理」を!』
「やる!」
ポプリが拳を突き上げた。
「私の胃袋と、オマモリさんのハイテクがあれば、負けないもん! 目指せ、宇宙一の料理人!」
こうして、伝説の戦艦アヴァロンは、翌日の「グルメ・グランプリ」に向けて、全システムをフル稼働させた。
相手は悪の料理人。賭けるチップは船と未来。
火花散るキッチン・ウォーズの幕開けだ!(なんだこの、漲る昭和感は!?)
(第101話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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【次回予告】
さて、売り言葉に買い言葉。
10億の賞金を懸けて挑むのは、地獄の料理バトル「グルメ・グランプリ」。
対戦相手の「鉄鍋のジャンキー」が繰り出すのは、食べた者を爆発させる殺人麻婆豆腐。
対するポプリチームのメニューは、アヴァロンの主砲で焼き上げる「超火力チャーハン」。
どっちも人が食べる物なのか? という疑問はさておき、
AIさん、審査員の胃袋が心配ですが、保険は効きますか?
次回、『転爆』 第102話『主砲発射! アルティメット・チャーハン』
さて




