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君に触れる距離

作者: まつお

潮風が吹く駅のホームで、ひとつの出会いが始まった。幼なじみの凛、静かな目をした沙耶、そして揺れる心を抱えた悠人。同じ時間を過ごしてきたはずなのに、誰かの視線に気づいた瞬間、世界は少しだけ違って見える。この物語は、三人の高校生がそれぞれの“好き”に向き合いながら、すれ違い、迷い、そして少しずつ前に進んでいく恋の記録です。誰かを好きになること。

それは、誰かを傷つけることかもしれない。

それでも、心が動いた瞬間を、どうか忘れないでいてほしい。

第1章 出会った日


潮見坂駅のホームに、潮風が吹き抜ける。

悠人は、電車を待ちながらベンチに腰を下ろした。

ふと足元を見ると、小さな財布が落ちていた。

拾い上げて中を確認すると、学生証が入っていた。

名前は「沙耶」。見覚えはない。数分後、改札から現れた女性が、少し焦った様子で周囲を見渡していた。

白いブラウスに黒髪ロング。静かな目元が印象的な彼女は、まるで空気が変わるような存在感だった。

悠人は声をかけた。

「あの…これ、落としませんでしたか?」

彼女は財布を見て、少しだけ目を見開いた。

「…ありがとう」

それだけ言って、軽く頭を下げる。悠人は、なぜかその一言で心がざわついた。

初めて会ったはずなのに、目を離せなかった。その夜、幼なじみの凛にその話をすると、彼女は一瞬、固まった。

「…それ、うちの姉ちゃん」

悠人は知らなかった。凛に姉がいることも、その姉がこんなにも綺麗で、心を揺らす存在だなんて。


第2章 ざわめく心


「最近、なんか変だよね」

凛は、教室の窓から外を見ながらぽつりと呟いた。

悠人はスマホを見ていたが、顔を上げる。

「え、何が?」

「…悠人。姉ちゃんと、何かあった?」

悠人は一瞬、言葉に詰まった。

沙耶との出会いは偶然だった。でも、あの静かな目と、短い言葉がずっと頭から離れない。「駅で財布拾っただけだよ。ちょっと話しただけ」凛は笑った。でもその笑顔は、少しだけ引きつっていた。

「ふーん。姉ちゃん、あんたのことなんて気にしないと思うけど」

悠人は何も言えなかった。その頃、沙耶は自室で本を読んでいた。

ページをめくる手が止まる。「…悠人くん、か」あのとき、財布を差し出してくれた彼の笑顔。

まっすぐで、少し照れたような表情。沙耶は、誰かに優しくされた記憶が、ずっと遠くにあるような気がした。

それが、悠人の笑顔で少しだけ近づいた気がした。


第3章 メールの始まり


悠人は、夕方のスーパーで買い物をしていた。

カゴの中には、インスタントラーメンとスポーツドリンク。

ふと、野菜コーナーで誰かとすれ違った瞬間、心臓が跳ねた。

「…沙耶さん?」

白いシャツにジーンズ。髪を結んだ彼女は、少し驚いた顔で振り返った。

「あ…悠人くん」

ぎこちない会話のあと、店を出た二人は、近くの公園まで歩いた。

夕暮れの空が、少しずつオレンジに染まっていく。ベンチに並んで座ると、風が静かに吹いた。

「あのとき、駅で財布拾ってくれて…助かった」

「いえ…なんか、あの瞬間、すごく印象に残ってて」

沙耶は少しだけ笑った。

悠人は、心臓の音が聞こえそうなくらい高鳴るのを感じた。公園を出る前、沙耶がふとスマホを取り出した。

「よかったら…メール、交換する?」

悠人は、驚きながらもスマホを差し出した。

画面に表示された「沙耶」の名前が、まるで夢みたいに輝いて見えた。


第4章 既読の向こうにある微笑み


沙耶は、リビングのソファに座っていた。

スマホの画面には、悠人からのメッセージ。

「今日の夕焼け、めっちゃ綺麗でしたね」

沙耶は、少しだけ口元をゆるめた。

「ほんと。潮見坂の空って、時々びっくりするくらい綺麗」

画面に表示された「既読」の文字が、なぜか嬉しかった。その様子を、キッチンから凛が見ていた。

姉がスマホを見ながら、微笑んでいる。

「…悠人?」

沙耶は驚いたように顔を上げたが、すぐに落ち着いた声で答えた。

「うん。ちょっと話してただけ」

凛は、何も言わずに冷蔵庫を開けた。あんなに悠人と仲良かったのに。

くだらないことで笑い合って、何でも話せたのに。最近は、メールも減った。

話しかけても、どこか上の空。姉ちゃんと悠人が、何かを共有している。

自分だけ、置いていかれている気がした。凛は、冷たいジュースを一口飲んだ。

でも、胸の中は熱くて、苦しかった。


第5章 揺れた視線


「ねえ、悠人。今度の土曜、空いてる?」

凛は、学校帰りの坂道で、少しだけ早足になりながら聞いた。悠人は、リュックを背負い直して答えた。

「うん、特に予定ないよ。どうしたの?」

「潮見坂の水族館、行ってみたくて。…一緒に行かない?」

悠人は、少し驚いたように目を丸くしたが、すぐに笑った。

「いいね!久しぶりに遊びに行くの、楽しそう」凛は、その“遊び”という言葉に、少しだけ胸がチクッとした。

でも、うなずいた。

「じゃあ、決まりね」

土曜日。

凛は、少しだけ髪を巻いて、白いワンピースを選んだ。

悠人は、いつも通りのTシャツにジーンズ。水族館では、悠人がペンギンの前で笑っていた。

凛は、その横顔を見ながら、心の中で何度も言葉を探していた。「好き」って言いたい。でも、タイミングがわからない。その時。ガラス越しに、沙耶の姿が見えた。沙耶は、友達と来ていたらしく、手にパンフレットを持っていた。

凛と悠人を見つけた瞬間、足を止めた。凛と悠人が並んで笑っている。

凛が、悠人の腕に軽く触れている。沙耶は、何も言わずに目をそらした。その一瞬を、凛も見ていた。「…見られた」凛の胸が、ざわついた。

悠人は、沙耶の存在に気づいていない。凛は、笑顔を保ったまま、ペンギンの説明を読み上げた。

でも、心の中では、何かが崩れ始めていた。


第6章 夕焼けと、並んで歩く距離


悠人は、リードを軽く引いた。

茶色の柴犬が、波打ち際をぴょんぴょんと跳ねる。

「こら、海に入るなって」

夕方の海岸線は、人も少なくて静かだった。

潮の香りと、犬の足音だけが響いていた。その時。

「悠人くん?」

振り返ると、沙耶がいた。

白いパーカーに、ジーンズ。

髪が風に揺れていた。

「あ、沙耶さん。散歩?」

「うん。なんか、家にいるのがもったいなくて」悠人は、犬の頭を撫でながら笑った。

「この子も、そんな感じです」

二人は、並んで歩き始めた。

「…水族館、行ってたんだね」

悠人は、少し驚いた顔をした。

「ああ、凛に誘われて。久しぶりだったから、楽しかったよ」

沙耶は、うなずいた。

「ペンギン、可愛いよね。あの子たち、意外と速く泳ぐし」

「そうそう!凛がびっくりしてた」

沙耶は、少しだけ笑った。会話は、ゆるやかに続いた。

でも、沙耶の心の中では、ずっと一つのことが響いていた。

「悠人くんは、気づいてないんだろうな」

二人が並んで歩いていること。

同じ夕焼けを見ていること。そのことが、沙耶には嬉しかった。空は、オレンジから紫に変わり始めていた。悠人は、犬のリードを持ち直しながら言った。

「今日の夕焼け、綺麗だね」

沙耶は、うなずいた。

「うん。…一緒に見れて、よかった」


第7章 体育館裏の「好き」


放課後のチャイムが鳴ったあと、悠人は凛に呼び止められた。

「ちょっと…体育館の裏、来てくれる?」

凛の声は、いつもより少しだけ震えていた。体育館の裏は、夕陽が差し込む静かな場所だった。凛は、制服の袖をぎゅっと握りしめていた。

「悠人、私…ずっと、好きだった」

悠人は、言葉を探した。

「凛は、大事な友達だよ。でも…ごめん。恋っていうのとは、ちょっと違うかも」

凛は、何も言わずに走り出した。

「凛!」

悠人は、慌てて追いかけた。校門を抜けて、坂道を駆け下りる。その途中。

「悠人くん?」

沙耶が、コンビニの袋を持って立っていた。悠人は、立ち止まった。

「沙耶さん…ごめん、今ちょっと…!」

沙耶は、驚いたように目を見開いたが、何も言わずにうなずいた。悠人は、再び走り出した。その夜。悠人のスマホが震えた。

沙耶からのLINEだった。

「さっき、何かあったの?」

悠人は、画面を見つめたまま、しばらく動けなかった。「無視した…」血の気が引いた。そして、指を動かした。

「ごめん。凛に告白されて…断ったんだ。走って帰っちゃって、心配で追いかけてた」

既読がついた。少しして、沙耶から返信が来た。

「そっか。…大丈夫?」

悠人は、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。沙耶の言葉は、責めるでもなく、ただ優しかった。


第8章 恋の定義


次の日の教室。

悠人は、凛の席の近くで立ち止まった。

声をかけようか、迷っていた。その時、凛が先に口を開いた。

「昨日は、ごめんね。…びっくりさせちゃったよね」

悠人は、首を振った。

「俺こそ…ちゃんと答えられなくて」

凛は、少しだけ笑った。

「もし、好きになったら…言ってね」

悠人は、何も言えなかった。悠人は沙耶に電話をした

「悠人くん?」

「ごめん、急に。ちょっと…話したくて」

沙耶は、静かにうなずいた。

「…恋って、何なんだろうね」

悠人の声は、少しだけ揺れていた。

「凛に告白されたけど、友達としては大事としか言えなかった。凛のこと、大事だし、傷つけたくない。でも…好きって言われて、俺は何も感じなかった。それって、俺がおかしいのかな」

沙耶は、しばらく黙っていた。

「…おかしくなんかないよ。恋って、わかりにくいものだと思う」

悠人は、少しだけ笑った。

「沙耶さんは、どう思う?恋って、」

沙耶は、答えを探した。

「…一緒に夕焼けを見て、嬉しかった。」

それだけで、何かが胸に残った。

それが恋かどうかは、わからないけど…

でも、

「忘れたくないって思った」

悠人は、静かに息を吐いた。

「…俺も、あの夕焼け、すごく綺麗だったって思った」

二人の間に、言葉にならない何かが流れた。それは、まだ“恋”とは呼べないかもしれない。

でも、確かに心を動かしていた。


第9章 転びそうな瞬間


凛は、朝から熱っぽかった。

保健室で体温を測ると、38.2℃。

「早退するね…」

悠人は、心配そうに見送った。放課後、悠人はスーパーでリンゴとみかんを買った。

凛の家の住所は、前に聞いていた。ピンポンを押すと、出てきたのは沙耶だった。

「悠人くん?…来てくれたんだ」

悠人は、袋を差し出した。

「凛、大丈夫ですか?」

沙耶は、少し笑ってうなずいた。

「うん、寝てる。…よかったら、上がって?」

悠人は、少し戸惑いながらも玄関をくぐった。リビングで果物をテーブルに置いたあと、沙耶が言った。

「風邪薬、切れてて。…一緒に買いに行ってくれる?」

悠人は、すぐにうなずいた。

「もちろん」

二人で歩く道。

夕方の風が、少しだけ冷たかった。その時。沙耶が、転がっていた空き缶を踏んで、バランスを崩した。

「わっ…!」

悠人が、すぐに腕を伸ばして沙耶を支えた。沙耶は、悠人の胸に軽くぶつかっていた。

「…近い」

心臓が、ドクンと鳴った。悠人は、何事もなかったように言った。

「大丈夫?」

沙耶は、うなずいた。

「うん…ありがとう」

その後も、薬局までの道のり。

沙耶の心は、ずっと落ち着かなかった。悠人の横顔。

さりげない気遣い。

「やっぱり、好きなんだ」

沙耶は、自分の気持ちに気づいた。買い物を終えて帰る途中も、胸の鼓動は止まらなかった。


第10章 観覧車の沈黙


潮見坂商店街の福引で、沙耶は星見遊園地のチケットを2枚当てた。家族にはまだ言っていない。

誘いたい人は、決まっていた。

「悠人くん、今度の土曜、空いてる?」

メールの画面に、沙耶のメッセージが届いた。

「遊園地のチケットが当たって…よかったら、一緒に行かない?」

悠人は、少し考えてから返信した。

「凛と行けばいいのに」

その言葉に、沙耶は指を止めた。

「…悠人くんと行きたいの」

その一文を見た瞬間、悠人の胸がドキッと鳴った。土曜日。

二人は、電車で遊園地へ向かった。ジェットコースターでは、沙耶が意外にも楽しそうに笑っていた。

悠人は、その笑顔に何度も目を奪われた。夕方。

観覧車に乗った。二人きりの空間。

少しだけ、沈黙が流れる。

「悠人!」

「沙耶さん!」

声が重なった。二人は、顔を見合わせて、すぐに目をそらした。

外の夕焼けが、窓いっぱいに広がっていた。沙耶は、悠人が何か言ってくれるのを期待していた。でも、悠人が言ったのは——

「今日は、すごく楽しかったです」

沙耶は、少しだけ悲しかった。

告白じゃない。でも、そのあと。悠人は、窓の外を見ながら、ぽつりと続けた。

「…好きってほどじゃないかもしれないけど、沙耶さんのこと、気になってて」

沙耶は、目を見開いた。

悠人は、転けそうになった沙耶を受け止めたときのことを思い出していた。あの瞬間、心臓が跳ねた。でも、それを隠していた。今、隠す必要はないのかもしれない。観覧車は、ゆっくりと地上へ戻っていった。二人の距離は、少しだけ近づいていた。


第11章 ペアキーホルダーの意味


遊園地の帰り際、沙耶は売店でペアキーホルダーを見つけた。小さな星型のチャーム。

「これ、記念に買わない?」

悠人は少し戸惑いながらも、頷いた。沙耶は、自分のバッグにつけた。

悠人は、カバンのファスナーにそっとつけた。翌週。

学校の朝。凛は、沙耶のバッグに揺れるキーホルダーに目を留めた。そして、教室で悠人のカバンにも、同じものがついているのを見つけた。

「悠人、そのキーホルダー…どうしたの?」

凛の問いに、悠人は一瞬固まった。

「え、あ…いや…」

そして、逃げるように教室を出ていった。放課後。

凛は、沙耶に聞いた

「ねえ、沙耶。あのキーホルダーって…ペアなの?」

沙耶は、言葉に詰まった。

「…そうだけど」

凛は、静かに言った。

「悠人も、つけてたよ」

沙耶の心臓が跳ねた。どうしよう。

隠していたつもりだった。でも、もう誤魔化せない。

「…ごめん。遊園地、一緒に行ったの。チケットが当たって…悠人くんを誘った」

凛は、黙って沙耶を見つめていた。沙耶は、視線をそらさずに言った。

「…だって、この恋は悠人くんの争奪戦だから」凛の瞳が、少しだけ揺れた。その言葉に、何かが始まった気がした。


第12章 デートの誘い


数日後の夜。

悠人は、スマホの画面を見つめていた。何度も文章を打ち直して、ようやく送った。

「沙耶さん、よかったら…デートしてくれませんか?」

凛と出かけた時は、ただの遊びだった。でも今回は違う。送信ボタンを押したあと、悠人は心臓の音がうるさく感じた。一方その頃——沙耶は、スマホの通知に気づいた。メッセージを開いて、目を見開いた。

「…デート…?」

驚きと、嬉しさが同時に胸に広がる。(本気なんだ…悠人くん)翌日。

沙耶は街へ出かけた。鏡の前で服を合わせながら、

悠人が好きそうな色、似合うシルエットを考える。(こんなに楽しいなんて…)その時間さえ、恋の一部だった。一方、悠人は部屋でスマホを握りしめていた。返事が来ない。(やっぱり、急すぎたかな…)その時——ピロン。通知が鳴った。

「いいよ。楽しみにしてる」

悠人は、思わずガッツポーズをした。

「よっしゃ…!」

でも、その喜びの片隅に、

凛の顔が浮かんだ。(…凛には、ちゃんと話さなきゃ)それでも今は、沙耶との時間を思い描いていた。初めての“本気のデート”。それは、悠人にとっても新しい一歩だった。


第13章 肩に触れた温度


土曜の朝。

悠人は、バス停で沙耶を待っていた。風が少し冷たくて、手をポケットに入れていた。そこに、沙耶が現れた。白いニットに、淡いベージュのスカート。

髪はゆるく巻かれていて、耳元には小さなピアスが揺れていた。悠人は、思わず呟いた。

「…可愛い」

沙耶は、聞こえていた。でも、何も言わずに微笑んだ。バスに乗って、鹿の森公園へ向かった。鹿に餌をあげると、沙耶は少し怖がりながらも笑っていた。

悠人は、その笑顔を何度も目で追った。大仏像を見上げながら、二人で静かに手を合わせた。時間がゆっくり流れていた。帰りのバス。沙耶は、少し疲れたように目を閉じた。そして、悠人の肩にもたれかかった。悠人は、心臓の音が聞こえそうなくらいドキドキしていた。そして、小さな声で呟いた。

「沙耶さん…好きです」

でも、悠人は気づいていなかった。沙耶が、ほんの少しだけ目を開けていたことを。そして、その言葉を、ちゃんと聞いていたことを。


第14章 背中を押す優しさと、見られたくない涙


悠人は、凛に話した。

沙耶とのこと。鹿の森公園での出来事。凛は、静かに聞いていた。そして、少し笑って言った。「悠人…の気持ち、沙耶に傾いてるの、前から分かってたよ」

悠人は、驚いたように目を見開いた。凛は、続けた。

「だからさ——全力でこの恋を取りに行け!」

その言葉に、悠人は胸が熱くなった。

「ありがとう…凛!」

でも、凛はその笑顔の裏で、現実を受け入れられずにいた。トイレの個室。一人きりで、声を殺して泣いていた。誰にも見せない涙。それでも、悠人の背中を押したのは——凛の優しさだった。夜。

悠人は、メールを開いた。沙耶にメッセージを送った。

「明日、散歩に行かない?」

少しして、沙耶から返信が来た。

「いいよ」

悠人は、スマホを胸に抱えた。その一方で、凛は部屋の電気を消して、静かに目を閉じていた。心の中で、何度も繰り返していた。

「大丈夫。悠人が幸せなら、それでいい」

でも、涙は止まらなかった。


第15章 告白


夕方

悠人は、沙耶の家の前に立っていた。ピンポンを押すと、沙耶が出てきた。白いブラウスに、淡いブルーのスカート。悠人は、少し照れながら言った。

「車道側は俺が歩くよ」

沙耶は、ふふっと笑った。その言葉が、嬉しかった。もう、悠人のことが好きだったから。悠人は言った。

「着いてきて」

二人は、海へ向かった。そこには、広がる水平線と、燃えるような夕焼け。波の音だけが、静かに響いていた。悠人と沙耶は、並んで腰を下ろした。少しの沈黙のあと、悠人が話し始めた。

「俺さぁ…財布拾った時から、沙耶さんのこと可愛いと思ってた」

「転けそうなところを助けた時も、ずっとドキドキしてた」

「そのドキドキが、止まらなくて——」

「だから…俺で良かったら、付き合ってもらえませんか?」

沙耶は、少し驚いた顔をしたあと、笑顔になった。

「はい。私でよければ」

悠人は、立ち上がって叫んだ。

「大好きだぁーー!」

そして、沙耶に抱きついた。沙耶も、そっと手を添えた。夕焼けの海が、二人を優しく包んでいた。



最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。

この物語を書きながら、私自身もたくさん揺れました。

うまく言えないけれど、誰かの心に少しでも届いていたら嬉しいです。ぜひ、感想お願いします

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