9 (メリッサ視点)
「なんなのよ!」
中央教会の一室、ガチャンという音と共に花瓶が割れる。
どうしてこの私が離婚なんてされないといけないの?
伯爵令嬢であり、
結界も張れるこの私を中央教会につき返すなんて!
だいたい、災害用の備蓄金を使っただけじゃない、
まあ、それなりの金額だったとは思うけど、
私がいるおかげでモンスターが来ないのよ?
そのお金を使うのは正当な権利じゃない!
「まあ、荒れているわね」
「煩いわね!」
「ビオレッタとは大違いね」
「ビオレッタ?」
「あの平民よ、辺境伯に取り入って、
今はお姫様らしいわよ」
聞くと、昔王都で一斉を風靡したマダムの服を着て、
メイドにそれはそれは大切にされ、
領民もビオレッタを心から慕っているのだという。
メリッサはぎりっと爪を噛む。
この私がこんな思いをして、
あの平民風情がいい思いをするなんて・・・
「許せないわね」
そうよ!全部奪ってしまえばいいわ!
前みたいに。
私は辺境に行く算段を立てた。
辺境に行くには5日程かかる。
正直私にはもっといい馬車が合うと思うが、
これも辺境伯の妻になるまでの事。
辺境に着くと、明るい髪をした男に声をかける。
「あなた、ビオレッタを呼んできなさい」
「ビオレッタ様をですか?」
「さっさとしなさい!」
「あの・・・申し訳ございませんが、
身分証などは・・・」
グズね!と思いながらも、中央教会の身分証を見せる。
「あ、はい、お約束などは!」
その言葉に顔を思いっきり叩く。
バシン!という音が響く。
「何もたもたしているの!グズが!
呼べって言っているの、
さっさと呼んでくればいいのよ!!!」
「申し訳ありません、
主人の許可のない方をお通しできません」
叩かれてなお、断る男に、荷物をぶつける。
こんどは「うぐっ」と言って、倒れ込んだ。
「もういいわ!勝手に入るから!」
「いけません!」
そうして言い争っていると、
ガチャンとして戸が開いた。
「凄い音したけど、ディーノ大丈夫?」
ビオレッタだ!
シンプルすぎるが、あれが今流行りのマダムの服だろう、
いかにもいい生活をしているのが分かって、
血がかっとなるのが分かる。
「お前はこれでも飲んでればいいのよ」
私は隠し持っていた瓶を、
ビオレッタの口に強引に入れる。
「うぐ・・?」
ビオレッタは驚いたようだった。
そしてすぐに咳込み、地面に崩れ落ちる。
「ビオレッタ?どうした!?」
男が出てきて、ビオレッタの口に手を突っこみ、
胃の中の物を吐き出させる。
まあ、余計な事を!
「ちょっと、何してくれるの?」
「それはこちらのセリフだ、お前は誰だ?」
お前ですって?辺境の地は、
身を弁えない者ばかりなの?
「この人は中央教会の人です」
ディーノと呼ばれた、さきほど殴った男が、
よろよろと答える。
「俺は、この辺境伯の領主だ、お前を逮捕する」
ビオレッタを館の中に運び、
医者と薬師を手配するよう指示をだしてから、
私を振り返る。
逮捕?どうゆう事かしら?
それよりこの男性が辺境伯なのね、
まあ、さっきお前呼ばりした事は許してあげる。
私は、辺境伯の首に抱き着いて、甘えた声を出す。
「ビオレッタに飲ませたのは猛毒よ、
もうすぐ死んで結界は消える。
私と結婚すれば、結界は張り直してあげるわ」
「お前に結界が張れるのか?」
「穢れと両方は無理だけど、結界だけなら問題ないわ」
その言葉に、私を引きはがし、
いつの間にか駆けつけた、護衛団に辺境伯が告げる。
「辺境伯の婚約者の殺人未遂犯だ、
牢に入れておけ、
王都に送り返し、裁判にかける」
その言葉にぎょっとなる。
「どうゆう事?あの平民より、私の方がずっといいはず!
ちょっと!離しなさい!」
理解ができず抵抗するも、
私は牢の中に入れられてしまった。
私をこんな扱いにするなんて、
いくら辺境伯と言えど許せないわ!
中央教会に戻ったら、訴えてやらないと!
私は屈辱を我慢しながらも、
ビオレッタの死を願っていた。