5 (ジェシカ視点)
私はジェシカ。
辺境伯領主館で働くメイドだが、
今回婚約者であるビオレッタ様付のメイドとなった。
婚約者様が来られると聞いた時は、
退職も視野に入れる程、本当に嫌だった。
高圧的で、我儘、気に入らないと当たりちらし、
体罰も当然とする、
それが中央教会の貴族として知られていたからだ。
私はメイドとしてプライドを持っていた。
ハウスキーピングは当然として、
紅茶の入れ方から髪のセットまで、
メイドとして王宮でもやっていける自信はあるぐらい、
努力はかかさなかった。
その上、性格上、おしゃれ、流行が大好きで、
領地の流行りはもちろん、
王都の流行も常にチェックしていた。
部屋にはメイク道具が溢れ、
どんなドレスでも主人を飾り立てれるよう、
趣味以上に腕も磨いた。
なので余計、人間としてすら扱われない事に、
不満を抱いていたのだ。
しかし、そんな予想を裏切り、
辺境伯領主館にやって来たのは、可愛らしい女性だった。
「よろしくね、ジェシカ」
最初は警戒していた私に、
「友達みたいにして」
とほんわりと笑って言って下さった。
なんなの?噂と全然違うじゃない!
上司であり、メイド長のルーシィさんに話すと、
噂は間違ってなくて、単にビオレッタ様が特殊なだけ
との事だった。
もう私はビオレッタ様にメロメロだ。
普通髪の色は茶色だが、
ビオレッタ様は結界師特有の黄色の髪、
光が当たると金色に見えて、本当に天使かなと思う。
衣装に興味がないビオレッタ様の為に、
昔王都でブティックを運営し、
歳を取り引退し、故郷のこの領地にもどっているマダムに、
強引に連絡を取る。
ビオレッタ様がいかに可愛くて素敵かを話すと。
「じゃあ、一度会ってみてもいいかもねぇ」
と服のデザインを受け持ってくれた。
今日はそのマダムが来て下さっているのだが・・・
「ええっと、もっとシンプルというか・・・」
「これ以上かい?」
ビオレッタ様がこくこくと頷く。
ドレスは持って来てこられていたが、
普段用の服がほとんどなく、それも使い古した物、
これは・・・と思い、普段用と外出用の服を頼んだのだが、
普段用とは言え、貴族はそれなりに派手な服を着るもの、
しかし、何度も書き直したマダムのデザインは、
すでに平民の服とあまり変わりがない。
「これは難題だねぇ」
と言いながらも、マダムはにこにことしている。
「すみません」
体を丸めて、子猫みたいに謝るビオレッタ様。
「いいのですよ、着る人の好みを最大限取り入れるのは
当然の事なのですから・・・
しかし、ビオレッタ様は伯爵令嬢で
辺境伯領主の妻となられる方、
私が引退して腕が落ちたと言われない為にも、
それなりの物は用意させていただかないと」
マダムはさらさらと紙にペンを走らせる。
「これなんかはいかがですか?」
シンプルなワンピースに腰に大きなリボンがある服と、
足元にドレープが入った服が描かれる。
マダム!さすが!!!
ビオレッタ様の求めるシンプルでありながらも、
平民では絶対ないデザインに拍手喝采を送る。
その後も20着は作る予定だった私に対して、
そんなにいらない!とビオレッタ様が驚いて、
今回は5着に落ち着いた。
「手持ちのジュエリーにも合うようにデザインしましたが、
服の素材は私に任せて頂けないかしら?」
マダムの優しい声でありながらも、
どこか断る事を許さない雰囲気にビオレッタ様は、
「よろしくお願いします」
と返事をしている。
本来なら、デザインが終わった後、
生地選びをする物だが、全てマダムに丸投げ・・・
つまり最高級品で揃えられるという事だろう。
私はマダムと目を合わせる。
もう高齢だというのに、その目は少女のようにキラキラ
している。
やはりマダムに任せて良かった!
デザインが決まり、ほっとしてるビオレッタ様に、
紅茶と焼き菓子をお出しし、
マダムには好きだと聞いていた果物にチョコレート
をまぶした物を用意した。
「こちらにいらして困られた事などないですか?」
「はい!皆いい人で、天国みたいです!」
焼き菓子を頬張りながら、にこにこと答えるビオレッタ様に。
「それは良かった、後は任せてくださいね」
「よろしくお願いします」
こうして、ビオレッタ様が着られたシンプルな
デザインの服は流行の最先端として
貴族令嬢に驚きと共に迎えられ、
ビオレッタ様の評価はうなぎ登りに上がったのだった。