4 (レイナルド視点)
ビオレッタが辺境伯の屋敷に来て3日が経った。
机には今交わしたばかりの婚約の書類が置かれている。
「歓迎パーティは不要との事でしたが、
驚かされる事ばかりですね」
部屋にはレイナルドとロベルトしかいない、
そして、のんびりとロベルトが続ける。
「中央教会にいる女性は貴族、
その中でも結界を張れる女性はそれはそれは
大事にされるので、気位の高い方が多いのですが・・・」
レイナルドもロベルトの言葉に心の中で同意する。
中央教会から伯爵令嬢を送ると聞いた時、
自己中心的で、使用人を見下げ、
民を愚弄し、自分は世界の中心と思っているような
女を想像していた。
しかし、ビオレッタは想像とはかけ離れた女性だった。
辺境伯に来るのに荷物はトランク3つとドレスが6個、
宝石もドレスに合わせた最低限のみ。
しかもそのトランクのうち2つは本。
物が少ないにしても程がある。
しかし、教育はきちんと受けていたようで、
最初はとちっていたが、
貴族としてのマナーはきちんと身につけている。
どうもちぐはぐ感がぬぐえない。
そんな事を考えていると、
ロベルトが窓際を見てぽつりと言った。
「これでエリス殿も報われるでしょう」
その言葉に胸が抉られるような気持ちを抑える。
2年前、結界を維持していた者が亡くなり、
領地にモンスターが溢れてくるようになった。
これはままある事なので、護衛団と共にモンスターを
退治していたのだが、
よりによって、このタイミングでヒドラが現れたのだ。
エリスは領地では名の知れた結界師だが、
完全に領地を守る結界を張れる程の力はなかった。
しかし、一時的にヒドラの攻撃を抑えられると、
自分の命と引き換えになると分かっても、
領地に結界を張ったのだ。
これが4ヵ月前の出来事。
領民1人が犠牲になり、穢れも受けるかもしれない、
それが分かっていても、ヒドラの脅威の前には、
レイナルドは許可を出す以外出来なかった。
エリスの犠牲のおかげで無事ヒドラが倒せても、
自分の無力さを呪うしかなかった。
しかし、ビオレッタが結界の地を浄化した時、
その光に包まれる美しい光景に、
自分の呪いも解けた気がして、心から息ができた。
今では、少なくともビオレッタが生きている以上、
大きな病気や怪我などを負う事がない限り、
モンスターの脅威に怯える必要はない、
そう思うと、感謝しかない。
びくびくした態度が多いが、
結界を張りに行くと言った時は、
俺の目を見て、強い意志を感じた。
民を守る者の目だった。
「辺境伯夫人に対する報酬だが、
領地運営に必要な分、災害に備える分など、
必要な分を除いて、最大限与えてくれ」
その言葉にロベルトは無言で頭を下げた。