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「えっと・・・ビオレッタ・スターリーです、
じゃない!ビオレッタ・スターリーと申します」
最後の方は語尾が消えかけていたが、
何とか挨拶をし、相手の顔色を伺う。
(はわわわ~、失敗した?もう駄目?)
王都からの身分証明書を持って、
辺境伯領主の屋敷に足を踏み入れ、
玄関で挨拶をしている所だ。
中央にドンと立っているのが、間違いなく、
辺境伯のレイナルド・ロイドブルクその人だろう。
周りには男性2人、女性3人が控えている。
私はこのロイドブルク辺境伯の妻となるべく、
王都からはるばる来たのだが、
妻となる女性を迎えるにしては、笑顔もなければ、
歓迎している雰囲気はかけらもない。
私は型どおりの挨拶をしたものの、
レイナルドは私を睨むだけで、一言も発しない。
(ふぎゃああああ~怖い怖いよ~
歓迎されないかな~とか思ってたけど、
予想以上?追い出されたらどうしよ~)
見かねたのだろう、初老の男性が声をかけてくれた。
「この館に来て下さった事を感謝致します。
遠路はるばるお疲れでしょう
お部屋へご案内します」
その声と表情が優しくてほっとする。
(完全に歓迎されてない訳じゃないんだ~
少なくとも1人はいい人がいる~)
その言葉に勇気をもらって、声を絞り出す。
「いいえ、結界を張りにいきます」
その言葉に、無言で怖い表情を張り付かせていた
レイナルドが、初めて声を発した。
「普通、歓迎パーティをしてもらって、
報酬の確認をして、だいたい3日後だと思っていたが?」
きつめの声に怯えながらも、
これだけは引けないと、声を振り絞る。
「今もモンスターと戦っている人がいるはずです、
結界は早い方がいいです」
これだけはゆずれないと、しっかりとレイナルドの
目を見て答える。
「ほう、では馬を用意しろ!」
とレイナルドが周りに指示を出す。
周りにいる人は慌てたようだが、
私はぎゅっと手を握りしめる。
そう、ここに来たのも、辺境伯と結婚するのも、
全ては結界の為・・・
私はほうと息を吐くと、自分の魔力を感じていた。
(絶対に皆を守らなきゃ!)