第7話:虚無に抗う者、そして世界の理
王都から東、黒樹の森を越えた先にある廃墟都市――《オルグラム》。
かつて魔族の王が治めていたという、呪われた大地。
その廃墟に、レイとアリスの姿があった。
「……人の気配は、ないな」
「けど、何かがいる。虚無が……拒絶されている?」
レイの眉がわずかに動く。
この世界に来てから初めて、虚無が“届かない”感覚。
その瞬間、空間が波打つ。
廃墟の奥から、淡い光を放つ魔方陣が現れる。
「異邦者よ。我が領域に何の用か」
現れたのは、一人の男――
だがその姿は、半ば霊のようであり、しかし確かな意志を感じさせた。
「……誰だ、お前は」
「我が名は《リアナス》。虚無に抗う者、かつての叡智の番人」
彼の身体には、古の魔術が刻まれていた。
“虚無”の力が、彼には通じない。まるで、別の法則に従って生きているようだった。
「虚無の力を手にした者よ……
貴様が歩むその道の果てにあるのは、ただの破滅だ」
「破滅? それで構わない」
レイの目に、迷いはない。
だがリアナスは、何かを見抜いたように言葉を続ける。
「いや、違うな。お前は“壊したい”のではない。
この世界が、お前を“壊す前に”……否定したいだけだ」
沈黙。
そして――
「ならば、試すがいい」
「この世界の理、その一端を。お前の“虚無”が通じぬ力を」
リアナスが構えた瞬間、
周囲の空間が“封鎖”された。虚無の力が、届かない。
「……面白い」
レイが微笑んだのは、その時が初めてだった。