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第6話:王国の影と、空虚なる刃

深夜の月が、黒く歪んだ。

まるで、この世界が何かを恐れて怯えているように。


森の奥――レイは、地を踏みしめていた。

虚無の力が、静かに脈動する。まるで、彼の怒りと同調するかのように。


「……気配が増えている。尾行か」

レイの目が、獣のように細められる。


背後から、微かな足音。

森に紛れるように動く、黒衣の人影。

――王国の秘密機関《影衛》。


「対象、確認。黒髪の異邦者。即時排除を開始する」

「命令は絶対。生存の余地なし」


五人の影が、闇に紛れて跳び出す。

殺気は迷いなく、動きは無音。


だが――


「……お前たちも、世界の歯車か」


レイの右手が、静かに掲げられる。

空間が軋み、闇が裂けた。


虚無断きょむだん


刹那。五つの身体が、音もなく“存在”を絶たれた。

血もなく、死体もない。彼らはもう、どこにもいない。


まるで最初から、この世にいなかったかのように。


「……処分完了。次は誰だ」


静かに呟いたその時、アリスが木陰から顔を出した。

彼女の表情は、もはや怯えよりも――興味に染まっていた。


「レイ……あなた、本当に何者なの?」

「まるで、世界を壊すことにためらいがないみたい……」


「壊す? 違うな」


レイは空を見上げた。

どこまでも冷たく、どこまでも静かな瞳。


「俺はただ、否定するだけだ。

この世界にとって“都合のいい存在”じゃないものを」


「……じゃあ、この私も?」


問いかけに、レイは初めて微かに口元を歪めた。


「お前は……“まだ”だ」


その言葉に、アリスはなぜか安堵する。

同時に、不可解な胸の高鳴りを覚えていた。



その夜、王都の城壁の奥――


「五人の影衛が、一瞬で消えた? そんな馬鹿な!」


貴族たちがざわつく中、

玉座の上で静かに目を細める女神の姿があった。


「ふふ……あの“無能”と呼んだ異世界人、やはり面白いわ」

「虚無、か。最悪のスキルにして、最高の破壊因子ね」


彼女は、楽しげに指を舐めるように笑う。


「さあ、レイ……あなたはどこまで壊せるかしら。

私が“選ばなかった者”が、どこまで世界に抗えるのか――」


月が、血のように赤く染まっていった。

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