第3話:裏切りの刃と、影の絆
吹雪がなおも魔境を包み込み、寒さが骨まで染み渡る中、黒崎レイは洞窟の奥深くへと歩みを進めていた。虚無の力が彼の身体を包み込み、彼自身もまた“存在しないもの”のように、自然の摂理から切り離されているかのようだった。
彼の目的はただ一つ。
この世界を支配する者たちへの復讐と、己の力の極限への探求。
---
洞窟の先に広がる闇の中、レイはふと足を止めた。
冷たい空気が急に凍りつき、周囲の空気が微妙に変わるのを感じ取ったのだ。
「誰かいる……?」
暗闇の中で微かな声が響いた。だが、それは明らかな罠のようだった。
突然、鋭い刃がレイの肩をかすめた。
「やはり来たか、無能――黒崎レイ!」
振り向くと、そこにはかつての仲間であり、レイが最も信頼していたはずの友人、佐藤カズヤの姿があった。だがその目には、憎悪と冷酷さが宿っていた。
「どうして……?」レイの声は静かだが、心に重く響いた。
「お前は“使えない”と判断された。女神も俺たちも、お前を見捨てたんだ」カズヤは冷たく告げる。
「だが、俺たちは生き残るために選ばれた。お前は邪魔だ、ここで消えろ」
---
背後から追い詰められ、レイは咄嗟に《虚無》の力を解放した。
黒い霧が彼の手から噴き出し、刃を飲み込み、時間が歪んだかのようにカズヤの動きを封じた。
「無駄だ、カズヤ。俺はもう“無能”じゃない」
「俺は虚無そのものだ。存在を否定し、支配する者になる」
カズヤの目にわずかな恐怖が走る。だが、次の瞬間、彼は冷笑した。
「それでも、俺たちはお前を止める」
二人の間で緊張が走る。
---
その時、洞窟の入り口から人影が駆け込んできた。
「カズヤ、やめろ! 黒崎は…」
少女だった。長い銀髪に透き通る青い瞳を持つ、異世界の戦士――アリス・ルナ。
彼女は魔族の血を引きながらも、人間側に属することを選んだ複雑な存在。
「彼は仲間だ、無駄に殺し合うな」
だがカズヤは首を振った。
「彼は裏切り者だ。このまま放置できない」
アリスはレイに目を向け、静かに言った。
「あなたの力、すごい…でも、そのままじゃ危険よ。私と一緒に来て」
---
レイは一瞬ためらった。
だが、孤独と怒りに燃える彼にとって、新たな同盟の提案は、まさに“闇の絆”の始まりを告げていた。
「……いいだろう。お前の言うこと、聞いてやる」
「ただし、条件がある。俺の力に口出しはするな」
アリスは微笑み、レイの横に歩み寄った。
「約束よ。あなたは一人じゃない」
---
そして二人は魔境を後にし、新たな旅へと歩き出した。
闇の中で輝く影。復讐と力への渇望に燃え、決して光に染まらない二人の影は、ゆっくりと世界に忍び寄っていくのだった。
---
章の終わりに…
> 「虚無の力はただの始まりだ――本当の戦いはこれからだ」
黒崎レイの瞳は、深淵のように冷たく輝いていた。