表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/14

第2話:魔境の王は、静かに牙を研ぐ

白銀の吹雪が、全てを呑み込むように荒れ狂っていた。


人の気配など一切ない。魔物ですら、生きていけぬとされる“死の領域”。

そこに、ひとりの少年がいた。


黒崎レイ。

この世界から見捨てられた“無能”の烙印を押された少年。

だが今、その瞳は静かに燃えていた。


> 「《影喰い》……他者のスキルを飲み込む能力か」



魔獣から吸収したばかりのスキルが、体の奥で脈打つように馴染んでいく。


> 「これが、虚無の力……」



満たされる感覚とは違う。

むしろ、空腹が深まっていくような錯覚。

もっと、もっと……と渇望がレイの中で唸りを上げていた。


---


彼は、雪に覆われた洞窟に身を隠していた。


小さな焚き火を作る術もない。だが、虚無の力を使えば――


> 「……この木、存在ごと消す。熱エネルギーだけ残して」



黒い靄が木片に絡み、瞬時に消える。代わりに、暖かい空気が広がった。


「なるほど。分解じゃない。否定か……存在を“なかったこと”にする力」


己の力の性質を、冷静に分析していくレイ。


だが、そのとき――


洞窟の奥から、鈍い気配が這い寄ってきた。


咆哮。

それは、先ほどの魔獣とは比べ物にならぬほどの威圧感を放っていた。


> 「……あれは」



現れたのは、漆黒の四足獣。

巨大な影の狼――“深淵狼アビス・ウルフ


Sランク級魔獣。

通常なら冒険者パーティーでも全滅するような存在。


レイの心は……震えなかった。


むしろ、彼は唇を吊り上げて笑った。


> 「いいな……その力、欲しい」



牙を剥いて飛びかかる狼。


だがレイは、その攻撃を半歩で回避し、右手をかざした。


> 「喰らえ、《虚無》」



一瞬、空間が歪んだ。


そして次の瞬間――


【スキル《深淵の咆哮》を吸収しました】

【スキル《魔影疾走》を吸収しました】

【スキル《夜眼》を吸収しました】


狼の肉体が崩れ、消えていく。

虚無に飲まれ、魂さえも喰らい尽くされたのだ。


---


レイは静かに息を吐いた。


> 「あれが、Sランク魔獣か……まだ足りない」


その言葉に、誰が震えるだろうか。

人が足を踏み入れてはならぬ魔境の中で、彼は確かに“進化”していた。


> 「あいつらの顔……まだ覚えてる」

「俺を無能と呼んだ、あの目。軽蔑と笑いと……吐き気がするほどの優越感」

「いいさ。全部、返してやるよ」


闇の中、レイの背に黒い影が羽のように広がった。


それは、まだ誰にも気づかれていない。

魔境にて静かに牙を研ぐ――次なる覇者の姿だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ