表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/14

第1話:無能と断じられ、虚無が目覚める

視界が白い光に包まれた。


まばゆい閃光の中で、黒崎レイはゆっくりと目を開けた。


「……ここは……?」


目の前には、大理石でできた荘厳な大広間。金と宝石で装飾された王座。整列する騎士たち。そして――


玉座の前に立つ、一人の女神。


金髪碧眼、背に光の翼を持つその存在は、まるで神話から飛び出したような美しさだった。


「……あれ、俺たち……呼ばれた?」


隣で誰かがそう呟く。


そう、ここにいるのはクラスメイトたち――高校三年生、24人。


どうやら、俺たちは異世界に召喚されたらしい。


---


「皆さん、よくぞお越しくださいました」


女神は微笑み、語りかける。


「この世界は魔王によって滅びの淵に立たされています。皆さんには“勇者”として、この世界を救っていただきたいのです」


それを聞いたクラスメイトたちは騒ぎ始める。


「マジかよ、異世界転生!?」

「うお、チートスキルとかあるんじゃね?」

「俺、やっと主人公になれるのか……!」


だが、レイだけは黙っていた。周りと違って、心が浮き立つことはなかった。むしろ、胸の奥に嫌な予感が渦巻いていた。


---


「では、皆さんのスキルを確認しましょう」


女神が杖を掲げ、光が生徒一人一人に降り注いでいく。


火炎剣フレイムソード――攻撃型Sランク」

「聖光魔法――回復型Sランク」

「絶対防御――守備型SSランク」


次々と強力なスキルが告げられ、歓声と羨望の声が上がる。


そして、レイの番が来た。


女神は光を彼に向け、杖を振る。


だが――


「……?」


女神の表情が曇る。


もう一度、彼女は確認する。


だが結果は変わらなかった。


> 「黒崎レイ――スキルなし。確認不能。評価:無能」



一瞬、時間が止まった。


「え? マジで?」

「無能って……何それ」

「バグ? それとも……まさか、呼ばれるべきじゃなかった?」


静寂の中、誰かが笑った。


「ぷっ……はははっ、マジで無能かよ! お前、なんのために呼ばれたんだよ!」

「いやー、こんなやつと一緒に来たとか運悪っ」


クラスの人気者、剣士ケンが嘲笑を隠そうともしない。


だが、もっともレイの胸を刺したのは――


「やっぱり、あんたって……そういう人だったんだね」


そう言ったのは、ミナ。


クラスの中心にいた少女。かつてレイが、ただ一人、好意を抱いていた存在。


「静かにしてて影が薄いと思ってたけど……まさか、何も持ってないなんて。存在してる意味ある?」


彼女の言葉は、レイの胸に深く突き刺さった。


だが――もっと残酷なのは、女神だった。


> 「役に立たぬ者に、加護は与えられません。彼は“世界のため”には不要です」

「王よ、この者を魔境へ追放してください。自然の摂理に任せましょう」


---


――そして、レイは捨てられた。


氷と闇に包まれた魔境。ここは、生きる者のいない死の大地。


息が白く霧になる。風が骨に刺さるほど冷たい。


レイは一人、雪に膝をついていた。


> 「……無能、か」



> 「存在してる意味、ある? だと?」



ゆっくりと、彼は笑った。


薄く、冷たく、壊れたように。


> 「ふざけるなよ……この世界が」


---


その時だった。


胸の奥が、黒い炎に包まれるような感覚に襲われる。


世界が揺らぎ、視界が反転する。


> 【スキル《虚無きょむ》が発動条件を満たしました】

【条件:世界への信頼の喪失、存在の否定――達成済み】



その瞬間、彼の中にあった“何か”が目を覚ました。


虚無。

すべてを飲み込み、すべてを消し去る“無”の力。


そして、目の前に現れたのは、漆黒の魔獣。


牙を剥き、レイに飛びかかってくる。


だが――


レイは微動だにしなかった。


その瞳は、すでに人間ではなかった。


> 「喰らってやるよ。お前のスキルも、命も、全部な」



手を伸ばした瞬間、黒い霧が魔獣を包み――


【スキル《影喰い》を吸収しました】


一瞬で、全ては“無”に帰した。


---


レイは立ち上がった。


冷たい風が吹き抜ける中、彼の中には確かな熱が宿っていた。


> 「俺は無能なんかじゃない……虚無なんだ」

「この世界を喰らい尽くすまで、俺は止まらない」



彼の影は、闇よりも濃く。

彼の心は、氷よりも冷たく。


そして――

ここに、“虚無の覇者”が生まれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ