第四章:学生会からの誘い
空気中では、あの嵐の狂暴なエネルギーが徐々に消え去り、恐ろしい力によって深く刻まれた溝が痛々しく残る、荒れ果てた地面だけが、先ほど起こった全てを無言で物語っていた。
生徒たちの顔には、まだ驚愕の色が残っており、固まった彫刻のようにその瞬間に釘付けになっていた。
高空には、もはや竜崎 厳の姿はなく、まるで世界に忘れ去られたかのように、跡形もなく消え去っていた。
ただ空っぽの青空だけが残り、地面と鮮明な対比をなしていた。
鹿島 小雨は人混みのやや前に立っていた。
その姿は陽光の下でやや華奢に見えたが、秋の水面のような美しい瞳には複雑な光が宿り、風間 悠真をじっと見つめていた。
彼女の表情は極めて複雑で、驚愕、疑問、警戒、さらには微かに察せられる興奮さえもが入り混じり、まるで静かな湖面に巨大な石が投げ込まれ、幾重もの波紋が広がったかのようだった。
彼女は生徒会長として、天賦の才に恵まれ、学園内でもトップクラスの実力者であり、学園の強者を熟知していると自負していた。
将来性のある、あるいは実力のある全ての生徒が、彼女の注目リストに載っていた。
しかし、風間 悠真……かつて彼女が「注目すべき落ちこぼれ」リストに入れ、ただ「教育」が必要な普通の生徒だと考えていた彼が、これほど恐ろしい力を示したのだ。
それは単なる力の増強ではない。
超能力レベルの向上だけでもない。
それは……それは法則の初期的な掌握ではないのか?
鹿島 小雨の超能力感知力は鋭敏で、彼女は風間 悠真が今放った旋風が、通常の超能力の範疇を超えていると感じた。
竜崎 厳の巨大化した体を完全に引き裂き、高空へ巻き上げるほどの恐ろしい絞殺力。
まるで空間を歪ませるかのようなエネルギーの波動。
それは、まるで人畜無害に聞こえる「上昇気流」という、せいぜい助走に使ったり、ちょっとした迷惑をかけたりする程度の能力でできることでは決してなかった。
そこには、きっともっと深遠な秘密が隠されている。
超能力の本質、ひいてはこの世界の根源に関わるような秘密が。
彼女は生徒会室での出来事を思い出した。
風間 悠真が彼女と対峙した時の、あの落ち着き払った様子。
彼女の威圧感の下でも、一歩も引かない強気な態度。
当時、彼女はその少年を世間知らずで傲慢だと思っていたが、今考えれば……それは世間知らずなどではなく、絶対的な実力に裏打ちされた自信だったのだ!
自身の力に対する明確な認識があり、だからこそどんな状況でも冷静さと落ち着きを保てる、強靭な心の内だった。
強い危機感が心に込み上げた。
異常事態が学園に蔓延し、変異した怪物が次々と現れ、その力は奇怪で強大だった。
竜崎 厳のような強者でさえ暴走し、制御不能となり、危機の犠牲者と化していた。
学園はこれに対処するため、強大な力を必要としていた。
窮地を救えるような存在が。
そして、風間 悠真は、彼女がこれまで見てきた中で、最も問題を解決する可能性のある人物であり、唯一の希望かもしれないと確信した。
本来、彼女が風間 悠真を生徒会に呼んだのは、生徒会長として彼をしっかり「教育」し、学園内で勝手に暴力を振るってはならないこと、ましてや級友を空に巻き上げてはならないことを理解させ、学園の秩序と規律を維持するためだった。
しかし今、その考えは完全に煙のように消え去り、滑稽なものと化した。
竜崎 厳をやすやすと打ち破る怪物に対して、規律や罰則を語るなど、自ら恥を晒すようなものだ。
「彼……彼がこんなに強いなんて?これがあの風間 悠真なのか?」
鹿島 小雨の傍にいた生徒会メンバーが、信じられないという思いと深い恐怖が入り混じった声で呟いた。
彼らもまた風間 悠真の力に衝撃を受け、自分の目を疑った。
そこに立っているのが、自分たちが知っている風間 悠真なのか、それとも彼に成りすました何かの怪物なのかと。
鹿島 小雨は深く息を吸い込み、無理やり自分を落ち着かせた。
今は風間 悠真の責任を追及する時ではない。
衝撃と恐怖に浸っている時でもない。
学園の安危は、一生徒の「規律違反」よりもはるかに重要だ。
それに、もし風間 悠真を生徒会に引き込み、学園のために尽力させることができれば、それは計り知れないほどの大きな力となり、危機に対処する最も効果的な手段となるだろう。
彼女は歩みを進め、ゆっくりと風間 悠真へと向かった。
一歩一歩が、決断と目的を帯びており、まるで深く熟考されたかのようだった。
彼女の眼差しは揺るぎなく、内なる傲慢さと偏見は、風間 悠真の絶対的な力の前で完全に打ち砕かれていた。
風間 悠真はそこに立ち、周囲から向けられる様々な複雑な視線を感じていた。
畏敬、恐怖、好奇心、そして……鹿島 小雨の目にある、品定めと変化。
彼は、自身の今までの行動が、学園内での自身のイメージを完全に変えたことを知っていた。
見向きもされなかった「落ちこぼれ」から、一躍学園の注目の的へ、さらには……ある意味での統治者へと。
鹿島 小雨が彼の目の前に来た時、風間 悠真は彼女から放たれる強大なオーラを感じた。
それは、生徒会長として長年培われた威厳と自信だった。
だが、以前生徒会室で感じたものとは異なり、今回のオーラには、鋭い圧迫感が減り、探究心と……引き込みたいという思惑が加わっている。
微かに、媚びるような気配さえも。
「風間 悠真。」鹿島 小雨が口を開いた。
声は相変わらず冷たかったが、そこに拒否できない威厳が伴っており、それは強者への敬意が加わっていた。
「あなたは深く隠していましたね。全ての人間の想像を……超えるほどに。」
風間 悠真は淡く微笑み、何も答えなかった。
隠す?彼はただ、真の力を覚醒させただけだ。
まるで眠っていた巨龍が目覚め、本来持っていた力を露わにしたかのように。
鹿島 小雨は彼の沈黙を気にしなかった。
いや、彼女は風間 悠真のそうした淡泊な態度に慣れていたのかもしれない。
彼女は言葉を続けた。「あなたの力は、私の予想を超えていました。学園は今、異常事態に直面しており、変異した怪物が次々と現れ、竜崎 厳でさえ制御を失いました。私たちは、これに対処するために、あなたのような力を必要としています。」
彼女は一拍置き、風間 悠真を真っ直ぐに見つめ、その眼差しは真剣そのものだった。「私は生徒会を代表して、正式にあなたを招き入れたい。そして、通常の範囲を超える権限と資源を与えることができます。あなたが望むものなら何でも、生徒会で可能なことなら、全て叶えましょう。」
この言葉が発せられると、周囲の生徒たちは再びどよめき、騒ぎ声が沸き立った。
生徒会長が自ら風間 悠真を生徒会に招き入れるだと?
しかも通常の範囲を超える権限を与えるとは?
これは前代未聞の出来事だ!
生徒会は学園内で最も権力のある組織であり、生徒会に入ること自体が多くの生徒にとって夢のようなことだ。
ましてや特別な待遇を得るなど、それは鯉が滝を登るようなもので、一足飛びに成功することに他ならなかった。
黄間 桐と紅羽 鷹は、この言葉を聞いて全身が震え、雷に打たれたかのようだった。
風間 悠真が生徒会に入る?
それでは、彼らは今後、ひざまずいて命乞いをする機会すらなくなるのではないか?
彼らの未来は、暗闇に閉ざされたように見えた。
風間 悠真は鹿島 小雨を見つめ、目に微かな遊び心を宿らせた。
この傲慢で強気な生徒会長が、彼を引き込むために、ここまでできるとは。
彼女の権力への渇望、いや、学園の安危に対する責任感が、かつての「落ちこぼれ」に頭を下げさせるほどなのか。
「通常の範囲を超える権限と資源、ですか?」風間 悠真は眉をひそめ、どこか無関心な調子で言った。
まるで自分とは関係ない話を聞いているかのようだった。「具体的にどんなものですか?私は、見せかけだけのものは欲しくありません。」
鹿島 小雨の目に微かな賞賛の光が宿った。
この少年はやはりただ者ではない。
突然の誘いや破格の条件に頭を冷やされなかった。
自分が何を求めているか、彼はよく理解している。
彼女は続けた。「あなたは生徒会の最高意思決定に直接参加でき、学園資源の一部を動かす権限も持ちます。修練に必要な資源、情報、さらには……いくつかの特殊な権限も。学園図書館の禁書区画は、自由に閲覧できます。そこには学園創立以来の全ての秘匿された資料が収められています。そして……学園の最も核心的な秘密、異常事態の真の根源についても、あなたに明かすことができます。」
彼女はとんでもない爆弾を投下した。
学園の秘密!
これは多くの学園上層部ですら知らないこと、学園の最も核心的な機密だ。
鹿島 小雨がこれらを風間 悠真に明かすという事実は、彼女が風間 悠真をどれほど重視しているか、そして異常事態を解決する決意の表れだった。
風間 悠真は「学園の秘密」と「異常事態の真の根源」という言葉を聞いた時、目を微かに細めた。
彼はこの学園がただならない場所であること、師匠もかつて遠回しに言及していたことを知っていた。
もしかしたら、生徒会を通じて、彼はこの世界の真実、三大勢力の因縁、そして自身の生い立ちの秘密をより早く知ることができるかもしれない。
これらの情報は、彼にとって極めて重要だった。
さらに、生徒会に加入することは、彼が資源をより容易に獲得し、実力を向上させ、システムの任務を達成する助けにもなる。
それは、将来学園を離れ、より広大な世界を征服するための基礎を築くことにも繋がる。
彼は心の中で既に決断を下していたが、その顔には依然として淡々とした表情を保ち、鹿島 小雨に自身の考えを容易に読み取らせなかった。
「悪くない、ですね。」風間 悠真はゆっくりと言った。
その口調には、何かを検討しているような、利害を天秤にかけているかのような響きがあった。
鹿島 小雨は彼が即座に拒否しなかったのを見て、心の中で喜んだ。
彼女は、風間 悠真が心を動かされたことを知っていた。
彼がその気になったのなら、引き込む可能性は十分にある。
「では、あなたの決断は?」鹿島 小雨は問い詰めた。
その目には、期待と、わずかな緊張が宿っていた。
風間 悠真の決断が、学園の未来に直接影響を与えることを、彼女は知っていたからだ。
風間 悠真は顔を上げ、鹿島 小雨を見つめ、口元に意味深な笑みを浮かべた。
その笑みは淡かったが、鹿島 小雨には言い知れぬ圧力を感じさせた。
「生徒会への加入、構いません。」
彼は一拍置いた。
そして、鹿島 小雨と全ての生徒会メンバーの緊張と期待、そしてやや不安げな視線の中で、言葉を続けた。
「ただし、いくつか条件があります。もし満たされないなら、話はなしで。」