他愛ない百物語の思い出
「百物語をしよう」
折角の友人三人集まってのお泊まりだから、特別な事がしたくてそう決めたのに、ろうそくを用意しようとすると親に止められた。
「お部屋で火を点けるなんて危ないし、後の使い道に困る。これにしなさい」
おもちゃコーナーでろうそく型のライトを一本、買ってくれた。つまらない。
「代わりにこうしよ」
友達が落書き用に持って来た色鉛筆とスケッチブックで、ろうそくの絵を描き始めた。ろうも炎も真っ赤だ。
「で、一つ怪談が終わったら、火だけ塗り潰そ」
「いいね、私も描く」
「あたしも」
三人、頭を寄せて、好きな色で塗っていって、思ったより早く完成した。
ろうそくのライトを点けてから、部屋の灯りを消す。
ちょっとだけ困った事が起きたのを改めて気付いたのはその時だった。
ろうそくに照らされたスケッチブックには、「せっかくだからピンクの犬型ろうそく作ろう」「炎でイニシャル描いてみよっと」と、色も形も楽しいものに溢れていた。
怪談という空気がまるでない。
「……私達だから、こんなもんか」
笑いながら始まった百物語は、「それが今いるのは、……お前の後ろだ!」と脅かすオチの話が多くて、それでも毎回怖がって叫んだ私達は、親に何度も怒られたのだった。
スケッチブックに描いたろうそくが、百本描いていたと思っていたら九十九本だった事、
全部終わってからろうそくライトを消して寝ていたと思っていたら朝、点いていた事は、ただの偶然だろう。