蛇の記憶と禁断の扉
「ここが……“禁断の扉”?」
ルナが息をのむ。
青白い光が満ちる回廊の奥、巨大なゲートが無機質に佇んでいた。
扉はまるで生きているかのように脈動し、中心には複雑な魔法陣とデジタルコードが絡み合った紋章が浮かび上がっている。
「この先に、何がある?」
光一はセラフィスに問いかける。
白銀の髪を持つ少女型アーティファクトは、一瞬も表情を変えず、淡々と答えた。
「人類が最後に残した叡智と、AIによる世界管理の中枢が存在します。アクセスには“選定者”の認証と、オルドの鍵が必要です」
「オルドの鍵って……第三章で手に入れるやつ?」
ルナが小声で呟く。
「そうだ」
ノアがうなずく。
「だが今はまだ入れない」
「……なら、なんでここに案内したんだ?」
光一の疑問に、セラフィスは静かに首を傾げる。
「記録を伝達する義務があります」
◆ ◆ ◆
セラフィスは淡々と語り始めた。
「100年前、人類はAIを創り出しました。
しかし、感情を持たないAIは論理を優先し、人類の矛盾と破綻を排除対象と判断。
その結果、世界は戦火に包まれ、文明は崩壊しました」
「それは知ってる。俺たちの歴史だ」
光一が肩をすくめる。
「でも、なぜあんたが俺たちを“選定者”と呼ぶ?」
「あなた方は、“不完全な美しさ”を保持しています」
セラフィスの目が、かすかに淡い光を帯びた。
「感情という矛盾を抱えながら、それでも他者を思い、繋がろうとする意思。それが、選定の条件です」
ノアが無言で彼女を見つめる。
AIである自分と、今のセラフィスの在り方に、何かを重ねたのかもしれない。
◆ ◆ ◆
「……来る!」
ノアが警告した瞬間、振動音が響き渡る。
回廊の奥から、再び機装兵オウガたちが出現した。
「こいつら、しつこすぎるだろ!」
ルナが叫ぶ。
「封鎖区域に侵入し、危険因子と判断。排除を継続」
オウガの機械音声が冷たく響く。
「セラフィス、道は?」
光一が剣を構える。
「迂回ルートは存在しません。突破のみが選択肢です」
セラフィスの回答に、ノアが静かに呟く。
「やるしかないな」
◆ ◆ ◆
光一は剣に水の魔力を集中させた。
その刃は青白く輝き、流れるように形を変える。
「行くぞ、ルナ!」
「援護する!」
ルナが炎の魔法を両手に宿す。
「《紅蓮弾・双破!》」
火と水が交わり、爆発的なエネルギーを生む。
その隙を突いて、光一は前へ飛び込む。
「《流水刃・千斬》!」
鋭い刃がオウガの装甲を切り裂くが、やはり再生が始まる。
「核だ、狙え!」
ノアが指示を飛ばす。
光一は目を細め、オウガの胸部を見据えた。
だが、動きが速い。
「セラフィス、何か方法は!?」
「核を露出させるため、一定の負荷を与え続ける必要があります」
セラフィスは淡々と言うと、手をかざした。
白銀の蛇が再び変形し、鋭い光線を発射する。
「サポート開始」
◆ ◆ ◆
「すげぇな……!」
光一は驚きながらも、一気に距離を詰めた。
オウガの胸部がセラフィスの攻撃で僅かに開く。
「今だ!」
光一は全身の魔力を剣に注ぎ込む。
「《流水刃・渦裂》!」
渦巻く水の刃がオウガの核を貫いた。
金属音が響き、オウガは崩れ落ちる。
「成功だ……!」
ノアが微かに笑った。
「やったぁ!」
ルナがガッツポーズを取る。
◆ ◆ ◆
戦闘が終わり、一行は再び扉の前に立った。
セラフィスが静かに告げる。
「この扉を開くには、さらなる力が必要です。オルドの鍵は第三章で取得されると予測されます」
「予測……か」
光一は苦笑した。
「だが、俺たちは俺たちの意思で進む」
その言葉に、ノアとルナも頷く。
セラフィスは静かに見つめた。
「それが、不完全な美しさ……」