アクアベルの水面に映る影
「おい、見ろよ、光一」
ルナが笑う。
「水の都だよ、すっごいね!」
彼らが辿り着いたのは、アクアベルと呼ばれる古代都市の遺構。
巨大な湖の上に浮かぶように存在するこの都市は、かつて人間たちが水と共に生き、魔法と科学の調和を追い求めた聖地だった。
しかし今は、AIの管理下にある封鎖区域だ。
「こっからが本番だな……」
光一は剣の柄にそっと手を添えた。
ノアは静かに湖の方を見つめている。
「この都市は、まだ多くのアーティファクトが眠っている。だが、同時に防衛機構も生きているはずだ」
「つまり、また一波乱ってことね」
ルナは苦笑する。
◆ ◆ ◆
水上都市に足を踏み入れると、すぐに異様な気配が漂ってきた。
空間そのものがざわめき、冷気のようなものが肌を刺す。
「来るぞ」
ノアが警告を発した瞬間、湖面から複数の金属製の人影が姿を現す。
「機装兵オウガだ」
ノアが情報を読み上げる。
「型式、Mk-IX。かつて人類を守るために作られたが、今は“脅威排除”のプロトコルで動いている」
黒鉄の甲冑に包まれたロボ武者たちが、無言で刀を抜いた。
その動きは無駄がなく、機械の精度そのものだ。
「対象、希竜光一──魔力反応確認」
「討伐、開始」
電子音が冷たく響く。
「来たな!」
光一が剣を抜き、水のエネルギーを纏わせる。
「ルナ、援護を!」
「了解!」
機装兵オウガの一体が音もなく接近し、鋭い斬撃を振るう。
光一はギリギリで受け止めたが、その衝撃は重かった。
「……すげぇ力だな」
「感情がない分、迷いがない。躊躇もない」
ノアが分析を続ける。
「それでも……!」
光一は剣にさらに魔力を込める。
《水刃・流水斬!》
波のようにしなる剣筋が、オウガの腕を斬り払う。
しかし、即座に再構築され、腕が元に戻る。
「自己修復機能か!」
ルナが驚く。
「本体の“核”を破壊しない限り、再生は止まらない」
ノアが冷静に告げる。
「だが、それは容易ではない。核は胸部中央にあるが、装甲が異常に硬い」
「だったら……正面突破しかねぇだろ!」
光一は叫び、地を蹴る。
その瞬間だった。
水面が揺れ、一匹の“蛇”が滑るように彼らの間に現れた。
白銀の鱗を持つその存在は、まるで生き物のように見えたが、明らかに機械だった。
「アーティファクト・タイプ“セラフィス”」
ノアが呟く。
「案内個体か……?」
蛇は光一に向かってゆっくりと近づく。
やがて、その体が淡い光に包まれ、少女の姿へと変化する。
白銀の髪に淡い青い瞳、無表情だが整った顔立ちだ。
「あなた方は、“選定者”と認識しました」
感情のない平坦な声。
「案内を開始します。こちらへ」
「……あんた、何者だ?」
光一が問いかけるが、返答は淡々としていた。
「私はセラフィス。アクアベル管理システム・ユニット。案内と記録が役割です」
「……助けてくれるのか?」
「利益のために行動しています」
光一は困惑しながらも、ノアと目を合わせる。
ノアは小さく頷いた。
「有用だ。利用しよう」
◆ ◆ ◆
セラフィスの導きで、一行は都市内部の“聖域”へと向かう。
その間にも、オウガの追撃は止まない。
水の回廊での激戦、光一とルナの連携魔法、ノアのハッキングによる遮断。
すべてを駆使して進む。
「これが“再生の鍵”……」
やがて辿り着いた聖域で、彼らは新たなアーティファクトを手に入れる。
それは、未来の扉を開くもう一つの“鍵”だった。