カノンの遺跡とオルドの鍵
乾いた風が吹きすさぶ中、砂に覆われた巨大な構造物が姿を現す。
それが、“カノンの遺跡”。
100年前、科学と魔法の交差点だった文明都市の成れの果てだ。
「ここが……」
光一は、じっと崩れかけたゲートを見つめた。
かつて栄えた都市とは思えない、無機質で荒んだ空気が漂っている。
(でも……この奥に、希望がある)
彼は剣の柄を握り直す。
「遺跡の奥深くに、“オルドの鍵”がある」
ノアが淡々と説明する。
「それがあれば、ノルディアの封印を解くことができる。次のステージへ進む鍵だ」
「行こう」
光一は歩き出した。
「おいおい、そんなに張り切ると転ぶわよ」
ルナが肩をすくめる。
「……水属性のくせに、砂漠じゃテンション下がるって言ってたくせに」
「人は成長するんだよ!」
光一が振り返り、笑う。
その顔は、どこか楽しげで、頼もしさすらあった。
「……まったく」
ノアはわずかに目を細めた。
(その笑顔が、世界を変えるかもしれない……)
そんな考えがふとよぎるが、すぐに打ち消した。
◆ ◆ ◆
遺跡の内部は、時間が止まったような静けさに満ちていた。
崩れかけた階段、腐食した金属フレーム、それでもなお動き続ける発光パネルが、過去の繁栄を思わせる。
「……このあたり、気をつけて」
ノアが静かに警告を発した。
「中級防衛兵器、アームズ・ガーディアンがいる可能性が高い」
その言葉が終わるより早く——
壁の奥から、金属の擦れる音とともに巨大な影が現れる。
それは、四本の機械の腕を持つ、全身を装甲で覆った殺戮兵器だった。
「出やがった!」
光一は剣を抜き放つ。
その刃が水の輝きを帯び、うねるように形を変える。
「ルナ、援護を!」
「任せて!」
ルナは両手を組み、詠唱を始める。
《風よ、導け——疾風障壁!》
三人を囲むように風の盾が展開され、飛んできたレーザービームを弾いた。
「ノア、敵の弱点は?」
光一が叫ぶ。
「背面エネルギーコアだ。だが、動きが速い。攻撃は正面から引きつけるしかない」
「了解!」
ガーディアンが突進してくる。
光一はその勢いを真正面から受け止める。
《水刃・双牙!》
二本の水の刃が交差し、金属の剣と激突する。
火花が散り、衝撃が全身に響く。
「重い……でも、負けねえ!」
必死に押し返す光一。
その目には恐怖ではなく、闘志が宿っていた。
「ルナ!」
「雷撃、発動!」
ルナの魔法が炸裂し、雷光がガーディアンの関節を襲う。
その動きが一瞬鈍る。
「今だ、光一!」
ノアの声が飛ぶ。
「斬り裂け!」
光一は跳躍し、空中で刃を構える。
《水刃・裂波!》
水流が鋭い刃となり、ガーディアンの背面装甲を切り裂く。
露出したコアが明滅を始めた。
「ノア、頼んだ!」
「了解」
ノアは滑るように駆け寄り、手をかざす。
「《干渉・強制停止》」
淡い光がノアの手から流れ込み、AIのコアに侵入する。
一瞬、ガーディアンが悲鳴を上げるように軋む——
そして、動きを止め、崩れ落ちた。
「終わったか……」
光一が息を整えながら剣を戻す。
「無事でよかった」
ルナもほっと息をつく。
「まだだ」
ノアが前を指す。
「奥に、オルドの鍵がある」
祭壇の間に辿り着くと、そこに鎮座していたのは蒼く輝く鍵だった。
かつて人類が誇った技術と魔法の結晶——それが“オルドの鍵”だ。
「これが……」
光一は慎重に手を伸ばし、鍵を手に取る。
その瞬間、体の奥に温かい何かが流れ込んだ気がした。
「それは……世界を繋ぐ鍵でもある」
ノアが静かに言う。
「お前の選択次第で、扉は天にも地にもなるだろう」
光一は頷いた。
「なら、俺は……天に繋げたい」
ノアはその言葉に一瞬目を細めた。
(お前なら、きっと……)
遺跡を出る頃、空は夕暮れに染まっていた。
ルナが小さく笑う。
「次はどこに行くの?」
「ノルディアだ」
ノアが答える。
「だが、その前に……少し準備がいる」
「準備って?」
光一が聞き返すと、ノアは珍しく小さな溜息をついた。
「……水の都、アクアベルに寄る」
「おお!水の都!俺の属性じゃん!」
光一がはしゃぐ。
「温泉とかあるのか?!」
「……知らん」
ノアは肩をすくめた。
ルナがくすくすと笑いながら、二人の後を歩いた。