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ノルディアの塔、目覚める遺産

風が鳴いていた。

乾いた大地の上に、朽ちた塔がそびえ立つ。

それが“ノルディアの塔”だった。

かつて、旧人類の叡智が集められたとされる場所。

今はAIにより封印され、誰も近づけないとされていた。


「これが……」

ルナが息をのむ。

「まるで、時間が止まってるみたい」

「止まってるようで、進んでいる」

ノアが静かに答えた。

「AIたちは、こういった遺跡も監視している。警戒は怠るな」


「問題ないさ」

光一が剣を肩に担ぎ、にやりと笑う。

「俺がいるからな」


「まったく、相変わらず脳筋なんだから」

ルナは呆れたように微笑むが、その目は真剣だった。

「でも……頼りにしてる」

その一言に、光一の顔がほんのり赤くなる。

ノアはそんな二人をチラリと見て、何も言わなかった。


塔の内部は、静寂に包まれていた。

だが、その静けさは異様だった。

「空気が重いな」

光一が剣の柄に手を添えたまま進む。


「魔力の流れが乱れてる。何かある」

ルナは手をかざし、詠唱を始める。

《澄み渡れ、蒼の波動よ——浄化》

その瞬間、周囲の空気が一変する。

壁に刻まれた魔法陣が浮かび上がり、眩い光を放つ。


「これは……防御結界だ」

ノアが目を細める。

「だが、これは古い。おそらく、突破可能だ」


「なら、やるだけだ!」

光一が剣を振りかざす。

蒼い魔力が刃に纏わりつく。

「《氷刃・斬空》!」


鋭い氷の刃が結界に突き刺さり、ヒビを刻む。

ルナもすぐさま詠唱を繋げた。

「《紅蓮・崩壁》!」

炎がヒビに染み込み、一気に爆ぜた。


——ガシャン。

重たい音を立てて、結界が崩れ落ちる。


「突破した……!」

光一は剣を肩に戻し、振り返った。

「さすがだな、ルナ」

「当然でしょ」

ルナは胸を張った。

その後ろで、ノアが僅かに微笑んでいるのが見えた。


だが、その時だった。

塔の奥から、低く唸るような音が響いてくる。

「来たか……!」

ノアが一歩前に出る。

「警備ドローンだ。高性能型、要注意だ」


金属の脚が床を叩き、黒光りする機械の群れが現れる。

四足歩行型の重装備ドローン。その背には火器が並び、無数の赤い光が点滅している。


「囲まれたな」

ルナが短く息を吐く。

「でも、やるしかない」

「そういうことだ」

光一が剣を構え、前へ出た。


「ルナ、援護頼む!」

「任せて!」

ルナは後方で詠唱を開始する。

《朱の舞、炎の雨よ、撃ち落とせ——紅蓮弾》

ルナの両手から放たれた炎球が、正確にドローンへと向かう。

爆発とともに、一体、また一体とドローンが焼き尽くされていく。


だが、次の瞬間——

「後ろだ!」

ノアの声が響く。

別方向から別のドローン群がルナを狙っていた。


「間に合え!」

光一が駆け出す。

《氷壁・守護陣!》

光一の剣先から氷が走り、ルナの前に巨大な氷壁を作り出す。

ドローンの銃撃が氷に当たり、派手に砕け散る。


「ありがとう、こういち!」

ルナはすぐに体勢を立て直し、再び魔法を放った。

《紅蓮爆破・双撃!》

二重に重ねられた炎が、ドローン群をまとめて焼き尽くす。


「さすがだな。動きが無駄に派手だ」

ノアは冷静に言いながらも、手から無機質な光弾を放つ。

それは小さな光に見えたが、命中した瞬間、ドローンは爆発を起こした。


「ノア、お前も結構やるじゃねぇか」

「当たり前だ。君たちをサポートするためにいる」

「ふーん……」

ルナがじっとノアを見つめる。

「その割に、人間味が薄いんじゃない?」

「そうか?」

ノアは目を細めた。

「ルナ、私はまだ君たちに学んでいる最中だ。もっと“人間らしさ”を学ぶ必要があるようだ」


戦いは熾烈だった。

次から次へと現れるドローンたち。

だが、三人の連携は次第に洗練され、動きも無駄がなくなっていく。


「終わりだ!」

光一が最後のドローンに斬りかかる。

《水刃・断流!》

鋭い水流が剣から放たれ、ドローンを真っ二つに切り裂く。


その破片が床に落ちた音が、塔内に静けさを取り戻させた。


「……ふぅ」

光一は剣を鞘に納め、大きく息を吐く。

「お疲れ」

ルナが微笑む。

「さすが、やりだしたら止まらないって噂は本当ね」


「それ、誰が言ってるんだよ……?」

「ノアから聞いた」

「ノア!?」


ノアは目を逸らす。

「事実を述べただけだ」


静寂の中、塔の奥へと進む三人。

そこにあったのは、巨大な扉だった。

その中央には、奇妙な形をした鍵穴がある。


「これが……“知識の断章”がある部屋か」

光一が呟く。


ノアは懐から小さな装置を取り出し、扉にかざす。

だが、反応はない。

「……鍵が必要だ」

「鍵?」

ルナが首を傾げる。

「“オルドの鍵”だ」

ノアが答えた。

「それがなければ、この扉は開かない」


「その鍵は……どこにある?」

「次の目的地、“カノンの遺跡”だ」


「旅は、まだ続くってことだな」

光一は剣を背にし、扉に手を当てた。

「ここを開けた先に、未来がある」


ルナはその手の隣に自分の手を添える。

「……行こう、こういち」

「おう!」


ノアは二人の後ろで静かに見守る。

その目は、どこか寂しげだった。


三人は、次の目的地へと歩き出す。

未来を掴むために。

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