ルナの目覚めと、新たな決意
淡い光が差し込む、古代の神殿。
崩れかけた石壁の隙間から入り込む風が、静かにルナの髪を揺らしている。
「……ここは?」
ルナはゆっくりと瞼を開け、目の前に光一の顔があることに気づいた。
その瞳は、変わらない。優しく、まっすぐで。
でも、どこか遠いところを見つめるような、そんな表情をしていた。
「ルナ。気がついたか」
光一は笑った。
どこか泣きそうで、それでも安心したような顔だった。
「……また、助けられちゃった」
ルナは微かに笑った。
「相変わらずだな、こういち」
数刻後。
神殿の外に出た三人は、小さな焚き火を囲んでいた。
ルナは、温かなスープを口にしながら、二人の話をじっと聞いていた。
「AIが支配した世界。もう、100年だって?」
「そうだ」
光一が頷く。
「でも、まだ終わっちゃいない。俺たちは、共存できる道を探してる」
ルナはその言葉に目を細めた。
「変わったね」
「そうか?」
「前はもっと、無鉄砲でバカだった」
「それは今も変わらない」
ノアが静かに告げた。
「むしろ、進化している。悪い意味で」
「はは……!」
光一は照れ笑いを浮かべる。
ルナは、ノアという存在に目を向けた。
「……あなたは、何者?」
「俺はノア。案内人だ」
「それだけ?」
「今は、それだけで十分だろう」
ノアは目を伏せ、炎を見つめた。
その表情は読めない。だが、冷たくはなかった。
夜が更け、光一はルナのそばに座った。
「……どんな気分だ?」
「夢を見てた」
ルナは遠い目をする。
「世界が燃えて、何もかもが壊れて……それでも、誰かが手を伸ばしてくれた」
「それは、俺か?」
「さあ。どうだろう」
ルナは小さく笑った。
「これから、どうする?」
「決まってるでしょ。あんたに借りを返さなきゃ」
ルナはスープのカップを置くと、両手を広げて伸びをした。
「……それに。こんな世界、ほっとけない」
翌朝。
三人は神殿を後にする準備を整えていた。
ルナは、自分の装備を確認しながら、ふと口を開いた。
「“ミネルヴァの瞳”を取ったってことは、AIが動き出すんじゃないの?」
「そうだな」
光一が答える。
「だから、急ぐ」
「次はどこへ?」
「“ノルディアの塔”。そこに“知識の断章”がある。ルナを助けるための情報も、科学の失われた知識も、そこに集まっている可能性が高い」
ノアの言葉に、ルナは小さく目を見張る。
「……科学の知識、か」
「魔法も科学も、本来はひとつだったはずだ。どちらかだけでは未来は作れない」
光一の瞳は、まっすぐだった。
ルナは微笑む。
「じゃあ、あたしも行く」
「もちろんだ」
三人は歩き出す。
乾いた風が、渓谷を吹き抜ける。
遠くで、機械の羽音が響いていた。
「敵だ」
ノアが呟くと同時に、金属のボディを持つドローンたちが飛来する。
その目は冷たく、無感情な光を宿していた。
「やるしかねぇ!」
光一が剣を抜く。
ルナはすでに詠唱を始めていた。
「《紅蓮よ、我が手に舞い戻れ》!」
彼女の手から、紅い炎が放たれる。
「ルナ、お前……!」
「魔法だって、ちゃんと覚えたんだから」
ルナは笑う。
「援護する」
ノアは冷静に射撃魔法を放つ。
その正確さは、人間離れしている。
だが、誰もそこに疑問を持たなかった。
戦いの後。
機械の残骸を見下ろしながら、光一は剣を収めた。
「まだまだ、これからだな」
「ああ」
ノアが頷く。
ルナは、空を見上げた。
「……あたし達は、どこまで行けるかな」
「行けるさ。未来まで」
光一は笑った。
ノアはそのやり取りを黙って聞いていた。
ふと、彼の目がわずかに細められる。
「行くぞ。次の場所は遠い」
そして、三人は歩き出す。
荒廃した世界に、再生の光を求めて。