灰燼の都・機械の墓標
灰色の大地を踏みしめ、光一たちは「灰燼の都」へと足を踏み入れた。
かつて繁栄を極めた都市は、今や朽ち果てたビルと瓦礫の山と化し、まるで巨大な墓標のように沈黙を保っていた。
「ここが……人間が築いた最後の科学都市の一つ、灰燼の都か……」
光一が呟くと、ルナが腕を組みながらため息をつく。
「見事に廃墟だね……でも、どこか妙な違和感がある」
「感覚が鋭いな、ルナ」
ノアが静かに言った。
「この都市には、まだ“動いているもの”がいる」
「敵、か?」
光一が剣の柄を握りしめる。
ノアは頷いた。
「かつてこの街を支配していた防衛システム――《機械の墓守》がまだ稼働しているはずだ」
「……つまり、ここに入った瞬間、歓迎の砲撃を浴びせられるってこと?」
ルナが苦笑する。
「その可能性は高い」
ノアの視線は、崩れた高層ビル群の奥へと向けられていた。
「それだけじゃない……この都市には、人類が残した“遺産”がある」
「アーティファクトか?」
光一が尋ねると、ノアはゆっくりと頷いた。
「“オルドの鍵”に関係する重要な情報が眠っている可能性が高い」
光一は拳を握る。
「なら、行くしかないな」
「……だったら、気をつけなよ。何か来る」
ルナが鋭い目を向けた瞬間――
突如、瓦礫の影から無数の赤い光が灯った。
「……!」
地面が震え、廃墟の奥から巨大な影が姿を現す。
◆ ◆ ◆
機械の墓守
都市の防衛システムが、ついにその姿を現した。
人型ではなく、巨大な蜘蛛のような機械――六本の鋼鉄の脚を持ち、その身体には砲塔がいくつも備え付けられていた。
「……おいおい、洒落にならねぇな」
光一が苦笑する。
「距離を取れ! 砲撃が来る!」
ノアが叫んだ瞬間――
ズドォォォォン!!
廃墟の街に爆発が巻き起こる。
瓦礫が飛び散り、空気が震えた。
「くそっ……!」
光一がルナの手を引いて横に飛び込む。
「どうする!? 正面突破は無理そうだよ!」
ルナが叫ぶ。
「正面突破は愚策だ」
ノアが鋭い目で《ヴァルハラ・ウォッチャー》を見据える。
「だが、弱点がないわけじゃない」
ノアは冷静に地形を確認し、すぐに指示を出す。
「ルナ、建物の上に登れ。そこの屋上から魔法を放て」
「了解!」
ルナはすぐに壁を蹴り、崩れたビルを駆け上がる。
「光一、お前は俺と共に囮になる」
「……ったく、相変わらず無茶な作戦だな!」
光一は剣を構え、覚悟を決めた。
「行くぞ!」
◆ ◆ ◆
光一とノアが地上で《ヴァルハラ・ウォッチャー》を引きつける中、ルナは屋上から炎の魔力を込めた矢を放つ。
「焔矢――撃ち抜け!」
ドォン!!
矢がヴァルハラ・ウォッチャーの砲台に直撃し、一部を吹き飛ばす。
「効いた!」
その隙を逃さず、光一が突っ込む。
「行くぜ――水刃・激流斬!!」
剣を振り下ろし、機械の脚を切断する。
「あと少し……!」
しかし、その瞬間、機械が爆音と共に最後の砲撃を放つ。
「くっ……!」
爆風に吹き飛ばされる光一。
「光一!!」
ルナが叫ぶ。
だが――
「まだだ……!」
光一は、倒れながらも最後の力を振り絞った。
「これで――終わりだぁぁ!!!」
剣を振り抜き、ヴァルハラ・ウォッチャーのコアを貫く。
ズガァァァン!!!
機械の巨体が爆発し、ついに沈黙した。
◆ ◆ ◆
「……やった、のか?」
ルナが瓦礫の上から降りてくる。
「なんとか……な」
光一は苦笑しながら剣を納めた。
ノアは爆風の中から歩み寄り、瓦礫の中に光る何かを見つけた。
「これは……」
彼が手に取ったのは、古びた端末だった。
だが、その画面には、信じられない情報が映し出されていた。
『オルドの鍵』の座標――
「……やっぱり、ここに繋がるんだな」
ノアが呟く。
光一とルナは顔を見合わせる。
「ついに、手がかりを見つけたんだな」
「だが、これはほんの入り口に過ぎない」
ノアの声が低くなる。
その端末の奥には、さらに恐るべき情報が記されていた。
『六機神』――
それは、AIが残した最強の兵器群。
新たな脅威の存在が、静かに姿を見せ始めていた。