現在、炎上中!
「来たか!」エルフの王”グレミー”は、報告を受けて玉座から立ち上がった。
「タケル殿!<イーフリット>が帰ったら、あなたも<シャングリーの街>へ帰りなさい。」
エルフの王”グレミー”は、決意をした顔で俺に言った。
「・・・接近戦で、<イーフリット>の炎を防ぐ方法は無いんですか?」
俺は、エルフの王”グレミー”に聞いた。
「これは、エルフの里の問題で、人間のあなたには関係ありません。<シャングリーの街>へ帰りなさい。」エルフの王”グレミー”が答えた。
「これは俺の自己満足ですから、気にしないで下さい。。もう一度聞きます、接近戦で、<イーフリット>の炎を防ぐ方法は無いんですか?」俺は再び、エルフの王”グレミー”に聞いた。
「・・・2度目の戦闘から、耐火の護符のペンダントを装備して戦っていました。ただ、<イーフリット>の炎が強すぎて、戦いの途中で耐火の護符のペンダントが砕けてしまって、戦士達は大火傷を負って
しまい、戦闘後にその大火傷に苦しみました。」エルフの王”グレミー”は、悔しそうに言った。
「その耐火の護符のペンダントは、今は何個残っているんですか?」
俺は、エルフの王”グレミー”に聞いた。
「・・・5個残っています。ですが、それを聞いてどうするんですか、タケル殿。」
エルフの王”グレミー”が答えた。
「”殿”は止めて下さい。戦闘中に気が散る。”タケル”と呼んで下さい。俺が接近戦、”グレミー”様と
”プルーツ”さんが魔法で援護だから、俺が全部装備していも良いでしょう?」
俺は、そう提案した。
「こちらも、もう一度聞きます。何で、君は関係のないエルフの里の為に戦ってくれるのですか?」
”グレミー”様が、聞いて来た。
「俺の”心”を救ってくれた人との約束なんですよ。俺はその人に、認めてもらいたいだけなんです。」
俺は、素直に答えた。
「・・・今はその人に、感謝しかありませんね。”プルール”は、タケル君に耐火の護符のペンダントを
持って来て下さい!」”グレミー”さまは、”プルール”さんに命じた。
”プルール”さんは、玉座の後ろにある部屋に入って行き、見事な彫刻がされている、四角い盆を持ってきた。
「どうぞ、この耐火の護符のペンダントを、お持ちください。」
”プルール”さんがそう言い、俺に四角い盆を差し出したが、少し表情は暗かった。
自分の父親が死んだ原因の理由の1つである人間に、貴重なアイテムを渡すのは複雑な気持ちであろう。
「・・・スイマセン、ありがたく使わせてもらいます。」俺はそう言って、5個のペンダントを首に掛けた。
「お前!そのペンダントを持ち逃げしたら、私が後ろから魔法で撃ち抜くからな!」
”プルーツ”さんが、俺を睨みながら言った。
「”プルーツ”!止めなさい、タケル君は、これから一緒に戦おうとする仲間ですよ!!」
”グレミー”様が、”プルーツ”さんを注意した。
「タケル君、<イーフリット>と戦う時に、気を付ける事を言います。<イーフリット>の体の周りの炎も
危険ですが、1番危険なのは<イーフリット>の血液です。普通の怪我なら、<ポーション>で治りますが、
<イーフリット>の血液の怪我は逆に悪化します。特に、目は入ったら失明するので気を付けて下さい。」
”グレミー”様が、俺に言った。
「何で、<ポーション>使うと、怪我が悪化するんですか?」俺は、”グレミー”様に聞いた。
「<ポーション>は、使った本人の身体の細胞を活性化させて、怪我を治療します。ですが、理屈は
分かりませんが、<イーフリット>の血液の怪我も活性化されて、怪我が広がってしまって大変な事になるのです。」”グレミー”様が、答えてくれた。
「タケル君、<イーフリット>に接近戦を挑むという事は、<イーフリット>の返り血を浴びるという事だ。これは、タケル君が思っている以上の激痛だが、それでもタケル君は接近戦を挑むのかな。」
”グレミー”様が、俺に聞いて来た。
「・・・治せるんですよね?<ポーション>は駄目でも、治す薬が存在するなら、俺は戦えます。」
俺は、少し間を置いたが答えた。
「・・・何で、アンタはエルフの為に戦うの?同じ人間の罪滅ぼし?お金?それともエルフの秘宝?」
”プルーツ”さんが、聞いて来た。
「”プルーツ”さん、俺はね”勇者”になりたいんだ。”勇者”とは、”勇気ある者”なんだ。だから、”戦士”の俺も、
困っている人達を助け続ければ、”勇者”になれると、あの人は言ってくれた。だから、俺は困っている人は
助ける。誰であろうと関係無く。」俺は、そう答えた。
「その人って、タケルの”心”を救ってくれた人?」”プルーツ”さんが、聞いて来た。
「そう、俺の”心”を救ってくれた、大恩人だよ。その人が居なければ、俺は絶対に、ここまで来れなかった。」
俺は、そう答えた。
「・・・・・」”プルーツ”さんは、無言だった。
「さて!<イーフリット>を迎え撃つ為、外周の砦まで行きますよ!!」
”グレミー”様が、力強く俺達に言った。
”ディードリー”の木を出ると、”グレミー”様の風魔法で俺達の体は、地上から30センチほど浮き上がり、
ホバー状態になった。
「急ぎますので、このまま行きます!!」”グレミー”様がそう言うと、俺達は滑る様に外周の砦まで
移動し始めた。
エルフの里のエルフ達が、地上を滑る様に移動する俺達を見ている。不安な表情で見ている者、俺に憎しみの視線を送る者、様々であった。
「あまり気にしないで下さい、タケル君。君は、<シャングリーの街>の人間では無い。君が気に病む事は
何も無い。それよりも、<イーフリット>の戦いに集中して下さい。本当に、血液による怪我が大変な事に
なりますから。」”グレミー”様が言った。
”ディードリー”の木から、”転移魔法”の切り株まで帰って来て、さらに奥の方に進むと、木製の砦があった。
俺達は、砦の下まで来ると、”グレミー”様の風魔法で、10メートルの高さまで上昇して、砦の上に
着地した。戦闘の為、”グレミー”様が中央、右に俺、左に”プルーツ”さんが陣取った。
砦の上には、”ビチャール”達と10人位の若いエルフが居た。全員不安な表情をしていた。
木製の砦の中央から、半径30メートルほど、広場がある。多分、最初の戦いで木が邪魔をして、上手く移動出来なかったり、魔法が使えなかったので、開拓したのだと思われる。そして、この砦の材料にしたので
あろう。
「・・・!!”グレミー”様、<イーフリット>が来ました!!」
”ビチャール”が、<イーフリット>を指差しながら言う。
広場の奥の森から、オレンジ色の炎を纏った<イーフリット>が出て来た。
<イーフリット>の体高は、3メートル位の炎の狼である。
子供の頃、”どんどん焼き”で見た、内部からどんどん溢れ出てくる力強い炎に似ていた。
「今日は、私と”プルーツ”とタケル君で、<イーフリット>に引導を渡します!!激しい戦いになるでしょう、なので、皆は、砦やエルフの森が延焼しない様に、水魔法で消火して下さい。今回は絶対に、<イーフリット>との戦闘に参加しない様に!戦いに巻き込まれても、助ける事は出来ません!!」”グレミー”様が、
”ビチャール”達と10人位の若いエルフに言った。
<イーフリット>が、砦にゆっくり近づき、15メートルほどで停まった。そして、顔を上げて、
砦の上の”グレミー”様を見つけると、大きく吠えた。
”ヴォン!”と吠えると、目の前にバランスボール位の火球が発生し、”グレミー”様めがけて飛んで行った。
”グレミー”様は左手を前に出した。何か魔法を使うらしかった。
ドゴオオン!
俺達の2メートル位手前で、爆発が起こった。どうやら、無詠唱で魔法障壁を展開していたらしい。
爆発による熱も、爆風も感じられなかった。かなり高度の魔法障壁を無詠唱で展開できる”グレミー”様の実力を見せて貰った。
”ヴォン!ヴォン!ヴォン!ヴォン!ヴォン!”と5回連続で<イーフリット>が吠えた。
<イーフリット>の前に、5個のバランスボール位の火球が発生し、一気に”グレミー”様に撃ち出された。
ドゴゴゴゴゴオオオオオオン!!
5発の火球が魔法障壁で爆発したが、やはり、爆発による熱も、爆風も感じられなかった。
「無駄ですよ、<イーフリット>。あなたの攻撃を私が1人で、どれだけ防いでいたんだと思っているのですか。」冷静な声で、”グレミー”様が言った。
無駄だと分かったのか、<イーフリット>は走り出して、”グレミー”様の真下の砦の城壁に”ドカン!”と、
体の右側面で体当たりして来た。体当たりされた箇所に、炎が燃え移った。
「水魔法で、消火をお願いします!」”グレミー”様が、指示を出した。
<イーフリット>は、城壁から3メートル位離れると、こちらに振り返り座った。
ウオオオオオオオオオン!!
<イーフリット>が俺達を挑発するように、上を向いて”遠吠え”をした。
「あいつ!私達を馬鹿にしている!!」”プルーツ”さんが、挑発に乗って怒った。
「落ち着きなさい”プルーツ”!挑発に乗ってはいけません!タケル君もですよ!」
”グレミー”様が、俺達に言った。
「了解です。」俺は答えた。
<イーフリット>は立ち上がり、15メートル位まで戻り、もう1度同じ個所に体当たりをした。そして、城壁から3メートル位離れると、こちらに振り返り座り、また上を向いて”遠吠え”をした。
ウオオオオオオオオオオオオオオオン!!
「くそ!さっきよりも長く”遠吠え”している!!馬鹿にして!!」”プルーツ”さんが、激怒した。
「”プルーツ”、怒りを抑えなさい。怒っていては、連携が上手くいきません!タケル君も、タケル君?」
”グレミー”様が再び、俺達に言った。
俺は”グレミー”様に答えられなかった。何故なら俺はその時、砦の上から飛び降りて、<イーフリット>の首の左側に、<ファストールの剣>を思いっきり叩き込んで、落下速度を殺していたから。
ザシュウウウ! タン! ザシュ! ザン!ザン!
俺は両手で握った<ファストールの剣>に、肉を切り裂くかなりの衝撃を感じながら、無事に地面に着地し、<イーフリット>の血が落ちて来る前に、前方へ飛んだ。
前方には、首を切り裂かれた激痛で、後ろ脚立ちをした<イーフリット>の右前脚があったので、
真向斬りで斬り落とし、さらに前方に飛ぶ。<イーフリット>の右側に出ると、反転して、返り血が付かない様に、<イーフリット>の右脇に一文字斬りし、右大腿に逆袈裟斬りを流れるような動きで繰り出し、
<イーフリット>の身体を切り裂いた。
俺は、<イーフリット>の左側も切り裂こうと、<イーフリット>の尻尾の下をダッシュで移動していたが、突然、強烈な殺気を感じて、<ロ○クマン>の様に、スライディングをした。一瞬遅れて、俺の頭の上を、
オレンジ色の丸太が通り過ぎた。<イーフリット>の左後ろ脚だった。
スライディングをしていなければ、確実に俺の腹に<イーフリット>の後ろ蹴りが決まり、内臓破裂をしていただろう。俺は左手を地面に着き、スライディングにブレーキを掛ける。次の瞬間、足元に再び強烈な殺気を感じて、両脚と左手を使って、蛙の様に前方に緊急ジャンプした。
俺の居た場所を、直径2メートル、高さ3メートルの火柱が発生していた。俺は飛び受け身をして、急いで
立ち上がり、大きくバックステップを5回して、<イーフリット>と距離を取った。
俺は<イーフリット>は、吠えると攻撃魔法をしてくると思っていたので、吠えずに攻撃魔法が使えたのは、内心かなり恐怖していた。
「タケル君!大丈夫ですか!!」”グレミー”様が、心配してくれた。
「何、勝手に攻撃しているんだ!タケル!!」”プルーツ”さんが、俺に怒鳴った。
少しは、俺の心配してくれよ”プルーツ”さん、と思いながら、<ファストールの剣>を<イーフリット>に
向けて、正眼に構える。
「大丈夫です!時間を稼ぐので、2人は魔法の援護をお願いします!」俺は、2人に言った。
「分かりました!”プルーツ”!!」”グレミー”様が、答えた。”プルーツ”さんは頷いた。
右前脚を俺に斬り落とされた<イーフリット>が、”ヒョコヒョコ”と左前脚と使って俺の方に体を向けて来た。さっきよりも、体を覆う炎の勢いが増している。どうやら、かなり怒っているらしい。
”ヴォン!ヴォン!ヴォン!ヴォン!ヴォン!”と5回連続で<イーフリット>が吠えたが、1回1回を単発で
撃ち出して来た。火球をまとめて撃ち出したら、俺も避けられなかったが、単発なら余裕で躱せられる。
よっぽど頭に血が上っているのであろう。
「<雷の神、ラン・ティース!、雷の茨を我が敵に、雷の刃を我が敵に、神罰を与えたまえ!
”イグール・ラン・ティース・マブダ・チーサ”!!>」右手の杖を上に、左手を下に構えて、
”プルーツ”さんが呪文を唱えた。
<イーフリット>の上空に黒い雲が発生し、雷鳴が轟き始める。<イーフリット>が上を見上げた瞬間、
足元から無数の茨の様に、雷が<イーフリット>を捕らえて感電させた。
”ギャウウウウ!!”と感電している<イーフリット>に、上空から強烈な雷が落ちる。
”ギャウン!!”と悲鳴を上げて、感電して痙攣した<イーフリット>が地面にへたり込んだ。
「<風の王、ウイーン・ダーム!汝の偉大なる翼のはばたきを我が元に、螺旋を描いて、我が敵に!!
”ユーミ・ガーウ・メヨ・フーウ・サーン”!!>」左手を突き出し、”グレミー”様が呪文を唱えた。
”グレミー”様の突き出した左手に、ビーチボール位の太さの竜巻が4本発生して、俺が切り裂いた
<イーフリット>の右脇と右大腿に、竜巻が2本ずつ傷口に突っ込み、傷口を抉り広げた。
ギャウ!ギャウ!ギャウ!ギャウ!!
傷口を抉られて、悲鳴を上げて悶絶している<イーフリット>にダッシュで接近し、へたり込んでいる
<イーフリット>の左前脚を袈裟斬りで斬り飛ばした。
ギャウウウウ!!一際大きい悲鳴を<イーフリット>が上げた。そして、怒り狂った<イーフリット>が
血塗れの右前脚で反撃して来た。
俺はその攻撃に対して、左逆袈裟斬りで応戦した。・・・!?右前脚?
「目!!」”グレミー”様の焦った声が聞こえた。
俺は、左逆袈裟斬り中の左手を<ファストールの剣>から放し、手の甲と前腕で目と顔をガードした。
右手の<ファストールの剣>から、水を斬った様な感触があった。
次の瞬間、左の手の甲と前腕部、頭の頭頂部と右の頬と右の鎖骨に、熱湯をかけられた様な激痛に襲われた。血塗れの右前脚だと思っていたら、斬り飛ばされた右前脚を血液で作って攻撃して来たのだ。
俺は完全に<イーフリット>に騙された。
「あああああああああ!!」俺は、激痛過ぎて動けなくなった。
<イーフリット>も両前足を失って動けなかったが、また斬り飛ばされた両前脚を血液で作ろうとしていた。
「”プルーツ”!援護を!!」そう言って、”グレミー”様が呪文を唱え始めた。
「<海の王、セ・レース!清廉なる水を我が元に、聖なる流れを持つ水を我が元に!!”アース・
コット・コクーテ・ドン・マイーン”!!>」俺の方に左手を向けて、”グレミー”様が呪文を唱えた。
激痛で動けない俺の横に、直径3メートル位の水の球が出現した。
「タケル君!その水の球に入って!早く!!」”グレミー”様が、焦りながら言った。
俺は倒れる様に、水の球に入った。水の球に入ると、球の中で水流が発生していて、<イーフリット>の血液を俺の身体から、洗い流そうとしていた。
「調子に乗るからだ!!」”プルーツ”さんは怒りながら、杖の頭に左手を添えながら、呪文を唱え始めた。
「<雷の神、ラン・ティース!、雷の楔を我が敵に、雷の鎖を我が敵に、神罰を与えたまえ!
”ラン・ティース・エフティオ・ソージュ・ウ・メーナ”!!>」呪文を唱え終わると、”プルーツ”さんは
両腕を上げた。
再び<イーフリット>の上空に黒い雲が発生し、10本の片手剣位の雷の刃が<イーフリット>の身体に
突き刺さる。
「<”プリ・メー・ラ”>!!」追加の呪文を唱えながら、”プルーツ”さんが両腕を振り下ろす。
ピシャアアアアアアアアアン!!!
10本の片手剣位の雷の刃を目掛けて、極太の雷が<イーフリット>を打ち据え続ける。
俺が水の球から血液を流し終わって出ると、血液で両脚を作ろうとしていた、<イーフリット>が両脚を作るのを中断して、のたうちまわっていた。
「大丈夫ですか!?タケル君!!」心配そうに、”グレミー”様が言って来た。
「・・・大丈夫です!!」俺は、嘘を言った。本当は、左腕と頭が物凄く痛かった。
<イーフリット>を見ると、”プルーツ”さんの魔法で瀕死状態の<イーフリット>の後ろ姿が見えたので、俺は<イーフリット>の右側面にダッシュで移動し、右大腿を怒りを込めて一文字斬りで斬り落とした。
ギャウン!!悲鳴を上げた<イーフリット>だったが、即座に炎の尻尾で反撃して来た。攻撃が避けられないと判断した俺は、<ファストールの剣>の刀身を下に向け、刀身の腹に左腕の前腕部を付けて防御態勢を
取った。
ビシイ!!ギュルルルルル!!
<ファストールの剣>の刀身で、丸太で叩かれた様な衝撃の<イーフリット>の炎の尻尾の攻撃を受け切ったが、炎の尻尾が伸びて俺に巻き付いた。
「な!!」そう俺が叫んだ瞬間、炎の尻尾は俺をかなり高く持ち上げて、火力を増して巨大な火の玉になり、俺は全身が炎上した。
パリン!パリン!パリン!と耐火の護符のペンダントが、俺の胸元で3個も一気に砕けた。
「タケルの馬鹿!!」俺を罵倒しながら、”プルーツ”さんが呪文を唱え始めた。
”グレミー”様も、少し遅れて呪文を唱え始めた。
「<雷の神、ラン・ティース!、雷の刃を我に、全てを斬り裂く雷の剣を我に、稲妻招来!!
”ラン・ティース・ヒ・カールガ・スキナー・デス”!!>」右手の杖を上に向けて、”プルーツ”さんが
呪文を唱えた。
呪文を唱え終わると、”プルーツ”さんの右手の杖の先端に雷が落ちた。それは上空の黒い雲と繋がった、、雷の刃だった。
”ブルーツ”さんが、砦の上から<イーフリット>の炎の尻尾の付け根を狙って、雷の刃を振り下ろすと、
あっさり炎の尻尾は切断された。
切断された炎の尻尾と落下する俺の下に、先ほどの水の球が出現して、俺を焼き尽くそうとした炎は
消火された。俺は無事に水の球と共に地上に降りた。
「・・・よくも騙したな。それも、2度も!!」俺は、堪忍袋の緒が切れた。
<ファストールの剣>を握り直し、<イーフリット>の左側面にダッシュで向かう。”アドレナリン”が大量に
出ているのか、走っても痛みを感じなくなっていた。<イーフリット>腹を目掛けて、下を向きながら
袈裟斬りをする。
ギャウン!!と<イーフリット>が悲鳴を上げ、俺にも返り血が大量に掛かったが構わない。
<イーフリット>の腹の傷を目掛けて、両手で<ファストールの剣>を突き刺す。<イーフリット>が激しく悲鳴を上げた。再び、俺に返り血が大量に掛かったが構わない。両手を放し、<ファストールの剣>の柄頭に喧嘩キックを叩き込む。<イーフリット>が激しく悶絶した。
<イーフリット>の悶絶が収まるのを待って、俺は<ファストールの剣>の柄を下から思いっ切り蹴り
上げた。<ファストールの剣>の剣先が地面にめり込むのを足に感じた。
<イーフリット>が激しい悲鳴と悶絶をしているのを尻目に、俺は、抜け落ちた<ファストールの剣>を右手で拾い上げた。
「左!顔面!ガード!!」悲鳴に近い声で、”プルーツ”さんが叫んだ。
俺は咄嗟に、左手を握りこぶしにして耳をガードし、左前腕部で左顔面をガードした。
次の瞬間、俺の左肩と二の腕に衝撃が走り、爆発して右側に吹き飛ばされた。
ドコオオン!!ズザザザザザザ!!
俺は地面にうつ伏せに倒れていた。立ち上がろうと両手を使おうとしたが、左腕が動かない。どうやら、左肩と左の二の腕を爆発でやられたらしい。<ファストールの剣>を使って、何とか立ち上がると
パリン!と耐火の護符のペンダントが、俺の胸元で砕けた。残りは1個になった。
「大丈夫か!タケル!!」”プルーツ”さんが、俺に聞いて来た。
「・・・・・」俺は無言だった。
俺は<ファストールの剣>を地面に着き刺し、右手で動かなくなった左手を掴む。そのまま、<ファストールの兜>の右のこめかみ部分の兜の一部を左手で掴ませた。左腕で顔面をガードして、左目だけ出ている状態になった。
俺は右手で、地面に刺さった<ファストールの剣>を引き抜き、大きく息を吸った。
「この!!くそオオカミがああああああ!!!!」俺は左目を血走らせ、<イーフリット>に突進した。
悶絶して、動けなくなっている<イーフリット>の左側の首の切り傷、俺が一番最初に付けた傷に、弾丸の様に身体ごと<ファストールの剣>を突き立てた。下を向いていたが、頭頂部と右腕に返り血が大量に掛かったが、構わなかった。
ギャウウウウウウ!!!悲鳴を上げながら、<イーフリット>が俺を睨んでいるのが分かった。
不意に体が浮いたと思ったら、地面に叩き付けられた。何度も何度も地面に叩き付けられたが、俺は右手の
<ファストールの剣>を放さなかった。地面に叩き付ける度に、<ファストールの剣>が<イーフリット>に深く刺さって行くのを感じたからだ。俺は両目を閉じ、口には笑みが浮かんでいた。
ボキャ!!俺の右耳の近くで、変な音がしたので見てみると、俺の右肘が変な方向に曲がっていた。
次の瞬間、俺の身体は空中に投げ出されて、地面に落ちた。そして、パリン!と最後の耐火の護符の
ペンダントが、俺の胸元で砕けた。
「・・・マズイな、これは。」俺はうつ伏せで倒れていた。体が動かないので、顔を動かすと、
<イーフリット>と目が合った。
「・・・ヤバイな、これは。」少し諦め気味に、俺は言った。<イーフリット>が俺に向かって、火球を撃ち出そうとしているのが見えたからだ。
「<風の王、ウイーン・ダーム!汝の偉大なる翼の旋風を我が元に、死を呼ぶ疾風を我が敵に!!
”フェーリ・オーガス・キナン・ダヨーネ・フーウ・サーン”!!>」両手を広げ、”グレミー”様が呪文を
唱えた。
”グレミー”様の前に、2メートル位の三日月形の風の刃が5枚発生した。三日月形の風の刃は高速回転し
始めて、<イーフリット>の右の腹に突撃して行った。
バシュ!バシュ!バシュ!バシュ!バスン!
<イーフリット>の右の腹を、高速回転した風の刃が次々に斬り裂いて行った。
<イーフリット>は、激痛で痙攣をして動けなくなっていて、悲鳴すら上げられない状態だった。
最後の5枚目の風の刃が、左の腹の傷と繋がり<イーフリット>は、胴体から真っ二つになった。
ギャウ!それが、<イーフリット>の最後の叫び声だった。
俺は、<イーフリット>の最後の叫び声を聞き、<イーフリット>の体が黒くなってボロボロと崩れ去るのを見届けて、俺は安心して気絶した。




