現在、交渉中!
俺は走りながら、2本の片手剣を回収して”五十嵐”さんと”若本”社長の元へ向かった。
先程の叫び声と、空を飛ぶ白い自動車を見ていたらしく、2人とも顔が青かった。
「2人とも、大丈夫ですか?」俺は2人に声を掛けた。
「ありゃあ、何だねえ!自動車が空を飛んでたけどお!!」”若本”社長が、渋い声で驚いていた。
「・・・多分、<バニング・ドッグ>よりヤバイ奴がいると思います。<ミノタウロス>と同等かそれ以上のモンスターが、あの交差点の左側に。」俺は気配を探り、2人に言った。
「<ミノタウロス>のランクは”D・プラス”ですよ!だとしたら、<オーバーゲート>が起こった事に
なります!」”五十嵐”さんが、焦って言った。
「<オーバーゲート>って、何ですか?」俺は、”五十嵐”さんに聞いてみた。
「今回、<バニング・ドッグ>はランク”F”のモンスターでした。<ゲート>は同じランクのモンスターしか
出現させません。ですが、ごく稀に1つ上のランクのモンスターを出現させる場合があります、それが
<オーバーゲート>です。ですが、”E”じゃなくて”D”のモンスターが出現しました。2つ上のモンスターが
出現したんです!こんな事例は初めてです!!」”五十嵐”さんが、焦って言った。
「まあ、大丈夫ですよ。そのモンスターの近くに、5人の気配がしますから、<アズナブル>の”勇者”達だと
思いますし。」俺は2人に言った。
「本当かい!<アズナブル>の”勇者”達が来ているのかい!」顔を明るくして、”若本”社長が言う。
「はい、来てますよ。”五十嵐”さん、ランク”D”って、”勇者”が相手をする最低ランクでしたよね?」
俺は笑顔で、”五十嵐”さんに聞いた。
「はい!ランク”D”は、”勇者”が相手をする最低ランクです!」笑顔で、”五十嵐”さんが答えた。
「だから大丈夫ですよ、”若本”社長!大丈夫、大丈・・・」
ドゴオン!・・・・・・グチャア!!
モンスターがいる交差点で、左側のビルの2階の隅を破壊して、人間が落下して道路の
真ん中に転がっている。
「・・・あの高さから受け身無しか、マズイな。」俺は思わず呟いた。
ドガアアアアン! ヴォオオオオオオオ!! ドガア! ドゴオ!
魔法による爆発音とモンスターの咆哮。破壊音と共に、左側のビルが破壊されていく。
爆煙の中から、4人の”勇者”が飛び出して来た。バスターソードを持った、蒼い髪の男と金髪の男が
モンスターを牽制している。地面に落下した”勇者”に急いで駆け寄り、回復魔法をかける桃色の髪の女性と、その2人をガードするように、モンスターの方向に魔法の杖を構える、緑の髪の男。
「・・・駄目だな。あの倒れている”勇者”が攻撃の主力っぽいな。これじゃあ、アイツは倒せない。」
俺は、爆煙の中から出て来たモンスターを見て言った。
<サイクロプス>、身長8メートルで1つ目、全身筋肉隆々で右手に棍棒を持っている。
先程から、蒼い髪の男と金髪の男の剣士が炎系の魔法を放っている。どうやら2人は”魔法剣士”らしい。
だが、全身筋肉隆々の<サイクロプス>には効いていない。
ここは市街地である。最初の1発目の魔法は、中級の火炎系の魔法を放ったのであろう、かなりの爆音と爆煙を俺は見たが、それ以降は下級の火炎系の魔法を放っている。多分、1発目は<サイクロプス>にダメージは与えられたが、周囲の建物にも大ダメージを与えてしまったのだろう。
<サイクロプス>を討伐しても、破壊された建物のオーナーからの苦情は必須なので、蒼い髪の男と金髪の男の剣士は、周りに被害の出ない下級の火炎系の魔法を放っているだと思う。
蒼い髪の男と金髪の男の剣士は、”魔法剣士”なので剣に魔法を付与した”魔法剣”も使えるはずだが、小型の
<ゴブリン>や中型の<バニング・ドッグ>を倒す事は出来ても、大型の<サイクロプス>に致命的な
ダメージや首を斬りおとす程の威力は無いのであろう。大型の<サイクロプス>に致命傷を与えられるのは、道路に倒れている赤い髪の”勇者”だけなのだろう。
「本田君!これ、本当に大丈夫なのお!?」”若本”社長が渋い声で聞いて来た。
「すいません、あの倒れている赤い髪の”勇者”が復活しないと、<サイクロプス>を倒すのは不可能かと。」
俺は目を反らしつつ、”若本”社長に答えた。
「さっきと言っている事が違う!大丈夫だって言ったじゃないかあ!!」”若本”社長が渋い声で怒った。
「・・・予想外としか言えません。すいません。」俺は、”若本”社長に謝った。
「本田君は、アイツと戦ってくれるよね?」すがる様な目で、”若本”社長が聞いて来た。
「すいません、”ハンター”はランク”E”までしか戦えないんです。<サイクロプス>は”D”です。」
俺は頭を下げて、”若本”社長に謝った。
「”五十嵐“君!何とかならないの!!」今度は”五十嵐”さんに、”若本”社長が聞いた。
「すいません、”若本”社長。特例はありますが、”ハンター”はランク”D”とは戦闘出来ません。ランク”D”は
”勇者”の範囲なので、”ハンター”は戦闘出来ないのです。ご理解ください。」
”五十嵐さんは頭を下げて、”若本”社長に謝った。
「そんな、親父から受け継いだ会社が、親父と一緒に世界中から集めた、一流の楽器が壊されちまう!」
”若本”社長が震えながら言う。
「・・・・・」俺と”五十嵐”さんは、何も言えなかった。
「これじゃあ!<バニング・ドッグ>倒せても、<サイクロプス>倒せなきゃ、意味が無い!!」
泣きながら、”若本”社長が叫んだ。
「あ!<サイクロプス>なら、俺は倒せますよ。」俺は言った。
「!!!」”若本”社長と”五十嵐”さんが固まった。
「・・・本田君、さっき倒せないって言っていなかったっけ?」怒りを抑えて、”若本”社長が言う。
「いえ、”戦えない”とは言いましたが、”倒せない”とは言っていません。」俺は答えた。
「待って下さい!”若本”社長!!本田さんと話すには”コツ”がいるんです!!」
俺に掴みかかろうとする、”若本”社長を抑えて”五十嵐”さんが言う。
「本田さん!何で<サイクロプス>を倒せるのに、戦えないんですか?ランク”D”だからですか?」
”五十嵐”さんが、厳しい顔で聞いて来た。
「今朝、”千歳”ちゃんに、ランク”D”と戦うと、<アズナブル>に睨まれて、<ハンターライセンス>”B”が
貰えなくなるから、戦うなって釘を刺されたばかりだから。」俺は答えた。
「なるほど、本田さんの言い分は分かりました。」プルプル震えながら、”五十嵐”さんが言った。
「いや!ほら!!昨日、”千歳”ちゃんの兄の”国峰”隊長に殴られて、血を流して気絶してしまったみたいだし、真夜中に社長と”伊吹 翔”選手の世界タイトルマッチで大はしゃぎして、”深雪”さんに見つかって怒られるし。」俺は、”五十嵐”さんの様子に焦って言い訳をした。
「!!・・・”千歳”さんと、はしゃいでいたんじゃないんですか?」”五十嵐”さんが言った。
「?・・・”千歳”ちゃんは、”カツカレー”を作ってくれて、俺と”千歳”ちゃんと社長と”深雪”さんで夕食を
食べた後、後片付けをして帰りましたが?”千歳”ちゃんもボクシングが好きなんですか?」
俺は答えた。
「いえ!何でもありません。話を続けて下さい。」”五十嵐”さんは、少し赤くなって言った。
「それで、俺と社長は20分間も台所で正座させられて、”深雪”さんに”ハンターの心得”を叩き込まれました。朝ご飯の時には、”深雪”さんは普通だったので安心したんですが、通勤の時に”千歳”ちゃんに”ハンターの
心得”と、”ハンターライセンス”の重要性と女性に対するセクハラについて釘を刺されましたよ。昨日と今日で、俺は信頼度が急降下しちゃったんですよ。出勤の時に言われた事を破っちゃあ、”千歳”ちゃんは絶対に
激怒しますよ。」俺は、困った様に言った。
俺が話し終わると、”五十嵐”さんが俺の両肘を両手で”ガシッ”っと掴んだ。
「大丈夫です。私が”千歳”さんを説得するので、絶対に怒られません。大丈夫なので倒しましょう。」
”五十嵐”さんが笑顔で言った。ただし、目は全然笑っていなかった。
「え、えっと、うん。」俺は焦って、曖昧な返事をした。
「”千歳”さんは絶対に、困っている人を見捨てる人は嫌いだと思います。”若本”社長!”若本”社長は、今、
困っていますよね!!」顔を”ぐりん”と”若本”社長に向けて、”五十嵐”さんが言う。
「え!ああ!困っているよう!!俺と親父が作り上げた会社が危険に晒されて、本当に困っているよう!!」ウンウン頷きながら、渋い声で”若本”社長が答えた。
「ほら!”若本”社長が困ってますよ!!だから、倒しましょう!」笑顔で、”五十嵐”さんが言った。
「ん~、だだ。」俺は少し困っていた。
「ただ、・・・何?・・・」笑顔を固まらせた、”五十嵐”さんが言った。
「俺、<アズナブル>が何か言ってきても、俺は言い返せないよ。頭悪いから。」俺は答えた。
「大丈夫です!私が論破します!」自信を持って、”五十嵐”さんが言った。
「ん~・・・じゃあ、倒しちゃおっか!」難しい問題が解決したので、俺は決断した。
「倒しちゃいましょう!」笑顔で”五十嵐”さんが言った。
「倒してくれると、有難いいい!!」渋い声で”若本”社長も言った。
俺は、<サイクロプス>の現在地を確認した。、”若本”社長のビルの2つ隣まで接近していた。
<アズナブル>の”勇者”達は、右側のビルの前の歩道を、俺達の方に向かって逃げていた。
先頭が金髪の剣士、真ん中が赤い髪の男と、両脇で支える桃色の髪の女性と緑の髪の男、後方を蒼い髪の剣士で逃げていた。
<サイクロプス>の攻撃を、車道と歩道の間の街路樹と駐車された自動車を盾にして、<アズナブル>の
”勇者”達は、何とか攻撃を受けない様にしていた。
「”若本”社長、今、<サイクロプス>の前のビルの社長とは仲が良いですか?」
俺は、”若本”社長に聞いた。
「ここら辺の社長とは、全員仲は良いよ!でも、何でだい?」”若本”社長が答えた。
「<サイクロプス>を倒す技には、”高さ”が必要なんです。なのでビルの壁を走って、踏み出さなければ
いけないのですが、踏み出した時にビルに亀裂が入ると思うんです。」俺は言った。
「大丈夫!修理費なら俺が持つし、ビルの社長にも、俺が謝っとくから、大丈夫!」”若本”社長が言った。
「ありがとうございます。」そう言って、俺は右手の片手剣を逆手に左の片手剣を順手にした。この技は、
魔王竜と変化した”ジュドー”を倒した技だ。
魔王竜”ジュドー”は、聖剣<ヴェスパード>で首を切り落とすしか倒せない。しかし、聖剣<ヴェスパード>で首を切り落としても、首の切り口と胴体の切り口から触手が伸びて、お互いを引っぱり合ってすぐに首が
くっつき、倒せなかった。倒すのには、首と胴体が離れている時間が必要だった。
俺は戦闘中に解決方法を考えて、この技を作り上げた。魔王竜”ジュドー”が、俺にぶつける為に、空中に出現
させた大岩を足場に、魔王竜”ジュドー”に接近する為に、左足で思いっきり踏み込む。そして、右手に
逆手にした<ボルクドテッカー>を、左手に聖剣<ヴェスパード>を順手にして、上半身を限界まで左に
捻じる。さらに、<魔闘術>(シャイニング)と<魔闘術>(バーニング)の合わせ技、強敵に対する、
超短期決戦用<魔闘術>(ゴッド)を発動する。
<魔闘術>(ゴッド)は、<HP>(生命力)と<MP>(魔力)を馬鹿みたいに消費するが、
<魔闘術>(シャイニング)・<魔闘術>(バーニング)の数倍の能力が出せる。
魔王竜”ジュドー”が間合いに入ると、捻じった上半身を戻す勢いを、右手の<ボルクドテッカー>に乗せて、
魔王竜”ジュドー”の首に叩き込む。”ジュドー”の首の2/3が斬り込めた。
<ボルクドテッカー>を振り抜く勢いを、腰を中心にして回転し、左手の聖剣<ヴェスパード>に乗せて、魔王竜”ジュドー”の首に叩き込む。”ジュドー”の首を切断する。だが、首の切り口と胴体の切り口から触手が
伸びて、体と首をくっつけようとする。
俺はさらに腰を中心に回転して、空中にある”ジュドー”の首に右の回し蹴りを叩き込み、”ジュドー”の首を
十数メートル蹴り飛ばし、魔王竜”ジュドー”に勝利した。
俺は、<魔闘術>(バーニング)を発動して、<サイクロプス>に向かって走り出した。
<サイクロプス>は<アズナブル>の”勇者”達に夢中で、俺の接近に気付いていなかった。俺は悪い顔で
”ニヤリ”と微笑んだ。
<サイクロプス>が暴れているビルの前に建っている、街路灯の柱に俺は接近して、柱を破壊しない様に
飛び蹴りを入れて、その反動でビルの2階の窓と3階の窓の間にあるコンクリートに着地する。そして、
悪いとは思ったが、3階の窓を斜め上に壁走りして、3階の窓と4階の窓の間にあるコンクリートに行き、
<サイクロプス>の正面まで移動した。
<サイクロプス>はまだ、<アズナブル>の”勇者”達に夢中で、俺の正面いる事に気付いていなかった。俺は
足元のコンクリートを、左足で思いっきり踏み込む。”ビシリ”と亀裂が入る音がした。
俺は、上半身を限界まで左に捻じり、<魔闘術>(バーニング)を上乗せして発動する。
<サイクロプス>に接近し、捻じった上半身を戻す勢いを、右手の片手剣に乗せて、<サイクロプス>の首に
叩き込む。・・・・・俺の予想外の事が起こった、一撃で<サイクロプス>の首が切断出来てしまった。
予定が狂ってしまった俺は、腰を中心にして回転して、斬撃から急いで左の後ろ回し蹴りに変化させて、
<サイクロプス>の鼻っ面に叩き込む。俺は蹴った反動を利用して、後方に回転しながら猫の様に、
四足で着地した。
ズウウウウン! ドン!ゴロゴロ!! ブッシャアアアア!!
<サイクロプス>の巨体が、俺の反対側に倒れて、蹴った頭が地面に落ちた。そして、吹き出した血が
<サイクロプス>の頭を血に染めた。
「・・・<バニング・ドッグ>の方が、厄介だったじゃん。」俺は四つん這いで呟いた。
俺は”やれやれ”と言いながら立ち上がり、気付いてしまった。急いで、”五十嵐”さんと”若本”社長を見る。
”五十嵐”さんと”若本”社長は、俺の方に小走りに向かって来ていた。
「こっちに来ちゃ駄目だ!”五十嵐”さん!!」俺は”五十嵐”さんを止めた。
ビクリとしながら、”五十嵐”さんと”若本”社長がその場に立ち止まる。
「”毒”ですか?それとも”呪い”ですか?」不安そうに、”五十嵐”さんが聞いて来た。
「いや!<サイクロプス>の”腰ミノ”の中の”凶悪なモノ”が見えているので、”五十嵐“さんは近づかない方が
良いかと、今朝、”千歳”ちゃんが言っていた、セクハラってこれの事でしょ?」
俺は真面目な顔で答えた。
「ソレは、男性の強力な”精力剤”や、男性の”使用不可能になったモノ”を復活させる薬になるモノなので、
大丈夫です!」俺の横に来て、”凶悪なモノ”をちらちら盗み見ながら、”五十嵐”さんが言う。
「いや!本当に助かったよ。本当に倒せるとは、驚いたねえ!!」
”凶悪なモノ”をちらちら盗み見ながら、”若本”社長が渋い声で言う。
「まあ、俺は<真田双剣術>の使い手ですから。」俺は笑いながら言った。
「!!本田さんの、<真田双剣術>は高速移動して、相手を倒すスタイルなので、他の”ハンター”がいると実力が発揮出来ません。なので、私と本田さんの第3班で今回挑ませてもらいました。説明が遅れて
スイマセンでした。”若本”社長。」
チャンスとばかりに、”五十嵐”さんが営業トークをする。
「そっか、いきなり怒鳴ってすまなかったね、2人とも。お詫びに、<虎屋>の”どら焼き”を御馳走するよ。
モンスターの回収が終わったら、ロビーで一緒に食べよう!」”若本”社長が、お茶に誘ってくれた。
「ありがとうございます!俺、”龍闘気”を使いすぎて、腹が減っていたんですよ!助かります!!」
俺は笑顔で答えた。
「”龍闘気”って何です?」”五十嵐”さんが聞いて来た。
「”龍闘気”は、<真田双剣術>の”奥義”です。自分の命を使って、付与魔法を使っている感じかな。
身体能力と武器の攻撃力・鎧や盾の防御力を爆発的に上昇させるんですよ。使いすぎると死にますが。」
俺は笑って答えた。
「諸刃の剣なんですね、でも、本当にランク”D・プラス”の<サイクロプス>を倒すなんて、本当に
すごいです。我が社、始まって以来の大物ですよ!」”五十嵐”さんが、笑いながら言った。
「あ~、やっぱり、<ミノタウロス>と同じランク”D・プラス”だったんですか、ランク”D・プラス”って、
どれくらいで売れるんですか?」俺は、”五十嵐”さんに聞いてみた。
「すいません、私も”勇者”の領域のランク”D”のモンスター価格は知りません。でも、社長なら、知り合いの方に聞いて、知っているかもしれません。」笑いながら、”五十嵐”さんは言った。
「よっし!<サイクロプス>と<バニング・ドッグ>を回収して、”若本”社長の<虎屋>の”どら焼き”を御馳走になりましょう!」俺は、”五十嵐”さんに提案した。
「はい!すぐに<キューブ>を起動して、<サイクロプス>と<バニング・ドッグ>を回収します!」
笑いながら、”五十嵐”さんは腰の左のホルダーに収納されている<キューブ>を取り出そうとした。
「テメエ!!俺の獲物を、勝手に横取りするんじゃねえ!!」
俺は、ぶるぶる震える真紅の刀身を向けられて、怒鳴られた。




