現在、緊急避難中!
周りの景色は光の所為でまだ見えないが、足元に見なれたアスファルトが見えてきた。
どうやらちゃんと自分の世界に帰ってこれたらしい。
数秒もすると徐々に光も収まって来て、外の景色が見え始めてきた。
最初に目に飛び込んできたのは、二車線の車道で停止線の前でちゃんと停止している自動車であった。
左右に目を配ると、同様に停止線の前でちゃんと停止した自動車達が見えた。
この状況から察すると、俺は交差点のド真ん中に出現させられたらしい。
(あのポンコツ女神め!よりにもよってメチャクチャ目立つところに出現させやがって!)
心の中で女神”サリース”に文句を言っていると、歩道で信号待ちをしている人々から拍手が来た。
そして何故か、「お帰り」とか「お疲れ様」とか「おめでとう」などの労いの言葉も来た。
俺はかなり動揺した。普通、交差点のド真ん中に光が発生して、光の中から右手に大きな剣を持ち黒い鎧を着た得体のしれない人物が出てきたら、大体は驚き恐怖するはず。それなのに、得体のしれない人物に対して人々は労いの言葉を投げかけ、スマホで録画、もしくは写真撮影をしている。得体のしれない人物に対して、歓迎ムードを醸し出しているのである。
普通の人間なら嬉しい歓迎ムードなのだが、俺には何故か嫌な予感がした。異世界<アーシタ>で培われた俺の危機察知能力が、一刻も早くこの場を離れろと警告しているのような気がした。
俺は歓迎ムードを壊さない様に、俺は正面の自動車に対して姿勢を正して一礼した。すると湧き上がる歓声と拍手。さらに右左に向けて一礼ずつ、最後に後ろに向けて一礼した。
最後に一礼した頭を下げた状態ままで、俺は装備している鎧に魔力を流し込んだ。俺の魔力に反応して、鎧の縁に刻印された小さな呪文が緑色に発光し風魔法が発動する。頭を下げた状態の姿勢のままで50センチほどアスファルトから浮上すると、驚きの声とより多くの歓声と拍手がした。
頭を下げた状態から姿勢を戻し、大空を見上げる。鎧にさらに大量の魔力を流し込み、体の周りに球状の魔法障壁を作り出す。そしてバレーボールの高速の直上トスの如く、交差点に集まっていた人達が俺の姿を見失うほどの速さで、遥か上空まで緊急避難した。