現在、再遭遇中!
俺は結局、”千歳”ちゃんに良い言い訳が見つからないまま、第1班と第2班の”ハンター”のいる場所まで帰って来てしまった。何故か、第1班と第2班の”ハンター”が俺を見て、道を開けてくる。すると、血相を変えて、
”千歳”ちゃんが駆け寄って来た。
「タケルさん!大丈夫ですか!!血が、血が、血が!!」何故か、”血が”を連呼している”千歳”ちゃん。
「!!・・・ああ、大丈夫。これ<ゴブリン>の返り血だから。」
俺は、”千歳”ちゃんに良い言い訳を考えていて、7体目の返り血を拭くのを忘れていたのだ。だから、
第1班と第2班の”ハンター”が俺を見て、道を開けたのだと知った。
俺は両手の片手剣を地面に置き、腰の後ろに付けている<医療パック>の中から、ハンドタオルを出して、
顔に付いている、返り血を拭き取った。
「ほら、俺自身はどこも、怪我していないよ。」俺は、笑いながら”千歳”ちゃんに言った。
「本当ですか?」そう言って、時計回りに俺の体を、上下にちょこちょこと見て回った。
ポニーテールがちょこちょこ揺れて、小リスみたいで、なんか可愛い。
「良かった!本当に怪我はありませんね!」そう言って、ようやく笑顔になってくれた。
俺は、そんな笑顔を見て、言い訳せずに素直に謝ろうと思った。
「・・・”千歳”ちゃん、大変言いにくい報告があります。」俺は、腹を決めて切りだした。
「え!何ですか?ちょっと怖い。」そう言って、少し身構える”千歳”ちゃん。
「実は、<ゴブリン>達に恐怖を与えようと、1体目から7体目まで、派手に斬り殺しちゃったんだよ。
特に、3体目と7体目は買い取り価格が付かない位に。申し訳ない!!」
俺は、正直に”千歳”ちゃんに話した。
「・・・えっと、大丈夫ですよ。」すまなそうに、”千歳”ちゃんが答えた。
「ん!?<牛野屋>の”トラ”さんが、”損傷が少ないと買い取り価格が高い”って言っていなかった?」
俺は、”千歳”ちゃん尋ねた。
「えっとですね、<ブレイク>の時は、”ハンター”会社は全ての業務を停止します。なので、<ブレイク>の
収拾後には、”ハンター”会社の1日の純利益分が、<アズナブル>から支給されます。そして、倒した
モンスターも、”損傷が少なく倒す”よりも”一秒でも早く倒す”になるので、モンスターの遺体は全て、”損傷が少ない状態”とカウントされ、買い取り価格は通常の1.5倍です。だから今回、我が社は大黒字です!タケルさんが、1人で戦ってくれたので、<ポーション>の消費も0だから、今回の出費は、ガソリン代位です!」満面の笑顔で、”千歳”ちゃんが答えた。
「・・・<ポーション>って、高いの?」再び、俺は”千歳”ちゃんに尋ねた。
「そうですね、我が社で使っている<ポーション>は1本が10万円位しますね。<ブレイク>の時は、全員が最低1本は使用するので、今回は400万円が浮きました。」嬉しそうに”千歳”ちゃんが言った。
(じゃあ、シスコン兄さんは、1本10万円もする<ポーション>を、俺との勝負の為に、なんの躊躇も
無く、飲み干したのか?それは、”千歳”ちゃんも怒るよな。)
「そうなんだ、お役に立てて良かったよ。それで、ちょっと”千歳”ちゃんにお願いがあるんだけど、片手剣の血糊は取れたんだけど、<ゴブリン>の脂が取れないので、いらない布とか”千歳”ちゃんは持っていない?」俺は、鞘に片手剣を納める前に、刀身を綺麗にしたかったので、”千歳”ちゃんに聞いてみた。
「確か、お正月の挨拶回りで貰った、タオルが<サポート車>にあったと思うので、取ってきます!」
そう言うと、”千歳”ちゃんは<サポート車>へ急いで行ってしまった。
「よう!ご苦労だったな!」俺の後ろから、”横田”が声を掛けて来た。
俺は、この”横田”が”勇者”塩谷と同じ”下手に出ていると、いつまでも調子づく”タイプだと、出撃前に分かったので、頭を押さえつけようと思った。
「これは、我が社の作戦参謀の”横田”隊長。初出撃の俺に、72体もの<ゴブリン>を1人で倒せとの、前代未聞の奇策はお見事でした。お蔭で俺は、死にそうでしたよ。次、<ブレイク>が起こったら、1人で”横田”隊長が見本を見せて下さいね!」
俺は振り返ると、皮肉たっぷりの言葉を”横田”に笑顔で送った。もちろん、目は笑っていない。
「!!・・・いや、俺の冗談を真に受けて、行ってしまったお前が悪いんだろ?」
かなり動揺しながら、”横田”は言った。この手のタイプは、”自分はよく人を攻撃するが、自分は攻撃された事が無い”というやつで、攻撃されると、かなり打たれ弱い事を、俺は知っていた。
「”冗談”!?正気ですか?”横田”隊長。会社の全ての業務を停止して、”ハンター”全員で<ブレイク>を命懸けで収拾しようとしているのに、”冗談”?俺達が到着した時には、犠牲者も出ているんですよ!”横田”隊長、
あなたに”常識”はありますか?”倫理観”はありますか?もう、人として終わってませんか?」
俺は”正論”で”横田”を口撃した。これは兄弟子の”ガイアス”さん、”マーシュ”さん、”オルガー”さんの
”蒼い三連星”譲りである。
「く・・・・」”正論”を言われて、言い返す事が出来ない”横田”。
「反論が無いという事は、全て肯定するという事ですね。以後、気を付けて発言してください。一応、
”隊長”っていう役職に就いているんですから。」俺は、”横田”にトドメを刺した。
「”一馬”、もういい。第2班を指揮してくれ。」横から、シスコン兄さんが”横田”に助け舟を出した。
”今井”に寄り添われながら、”横田”が担当エリアによろよろと向かっていく。これで二度と、俺に生意気な口を利いて来ないであろう。
「本田、あまり調子に乗るなよ。お前は新人で、ただの俺の部下だという事を。」
厳しい顔で、シスコン兄さんが俺に言って来た。
「俺は、”国峰”隊長にも言いたい事があります。昨日も今日も”戦場で戦っている人間”と言いましたが、
何で、”横田”隊長が無謀な作戦を言ったのに、止めなかったのですか?普通に考えて、1人で72体の
<ゴブリン>と戦うなんて、無謀以外ありえないでしょうが!お蔭で俺は、死にそうになったんですよ。
”国峰”隊長には、戦局を見る能力が無いのですか?自分と相手の戦力差が分かりませんか?だから昨日、何度も俺に負けているんでしょう?そんなんじゃあ、いつかは部隊を全滅させる事態になりますよ!」
俺は、シスコン兄さんにも口撃を仕掛けた。
「・・・もういい。」苦虫を潰したような顔で、シスコン兄さんが呟いた。
「”もういい”という台詞は、俺が言うべき言葉であって、”国峰”隊長が言う言葉ではありません。勝手に言わないで下さい。」俺の口撃は続いた。
「!!・・・俺は忙しいんだ!!」そう言って、シスコン兄さんは逃げて行った。
入れ違いに、”千歳”ちゃんが帰って来た。正月用のタオルを2つ持っていた。
「お兄ちゃんと、何かあったんですか?」”千歳”ちゃんが不安そうに聞いて来た。
「”国峰”隊長と”横田”隊長が、渋々だけど”ご苦労様”だって、渋々だけど。」俺は、大嘘を付いた。
「もう、お兄ちゃんたら、素直じゃないんだから!」苦笑しながら、”千歳”ちゃんが言った。
”知らぬが仏”とは、多分、この事だと思った。
「はい!タケルさん、タオル。片手剣も大事だけど、タケルさんの<ヘッドギア>と髪の毛も大変な事になっていますよ。」そう言って、透明な袋からタオルを出して、”千歳”ちゃんがタオルを渡して来た。
「ありがとう、・・・マズイ、<ヘッドギア>の内側まで、血が入っている。通信機能は大丈夫かな?」
思いのほか、<ヘッドギア>が血塗れになっており、”坂木”工場長と”シゲ”さんの怒った顔が浮かぶ。
髪の毛をタオルで拭き、<ヘッドギア>も拭いていると、我が社の運搬用トラックの後ろに、一回り大きい
トラックが停車した。
「タケルさん!あのトラック<アズナブル>のトラックですよ!」”千歳”ちゃんが緊張した顔で言った。
「何で、<アズナブル>が我が社に来ているんだ!?」俺は、突然<アズナブル>が来た事に、混乱した。
「多分、担当エリアに、モンスターが大量にいる場所へ、助太刀して回っていると思います。」
”千歳”ちゃんが、教えてくれた。
<アズナブル>のトラックから、5人の黒いレザースーツに白いプロテクターを装備した、男女が降りて
来た。そして、先頭の黒髪をボニーテールにした女性が話しかけて来た。
「お疲れ様です!私は<アズナブル>所属、<チーム侍>のリーダー、”神田 薫”、この現場の責任者は
いらっしゃいますか!」”神田”さんが、開口一番そう言った。
俺と”千歳”ちゃんの横を、凄い勢いでシスコン兄さんが通り過ぎて行き、”神田”さんの前へ行った。
「お疲れ様です!<(株)藤原モンスターバスター>現場責任者の”国峰 弘”です。」
シスコン兄さんが、右手で敬礼して言った。
「お疲れ様です。・・・戦闘はまだ始まっていないみたいですね。」
”神田”さんも、右手で敬礼したが、後半は少し怒ったような口調だった。多分、シスコン兄さんの装備が、全く汚れていなかったので、未だに戦闘をしていなかったと思われたのだろう。
「いえ!戦闘は終了しました。我が社の”ハンター”が1名で72体の<ゴブリン>を討伐して、現在は、遺体の
回収作業中です!」”神田”さんの怒りに気付き、慌てた様にシスコン兄さんが報告した。
「!!・・・1名で72体の<ゴブリン>を討伐したのですか?」少し驚いて、”神田”さんが聞き返して来た。
「はい!あの”ハンター”が<ゴブリン>を討伐した者です。」シスコン兄さんが、俺を指差しながら言った。
”何て事をしやがる!”と思いつつも、”神田”さんと目が合ったので、軽く会釈をした。
「あああ!!!」突然、女性の声が聞こえた。
声の方を見ると、<チーム侍>のメンバーの少女だった。この少女には見覚えがあった、平行世界で初めて
遭遇した<アズナブル>の少女”勇者”だった。彼女は俺を指差しながら、近づいて来た。
「あなた!あの時はよくも・・」彼女が続きの台詞を言う前に、俺は一瞬で間合いを詰めて、右手で彼女の口を軽く抑えた。そして、左手で人指し指を立てて、自分の唇の前に持って行き、”内緒”のポーズを取った。
「俺の発作の事は、会社に言わないでくれ!ようやく念願の”ハンター”に成れたんだ。今日が、初めての出撃
なんだ、俺の”ハンター生命”を消さないでくれ!」俺は、少女”勇者”だけに聞こえる大きさで言った。
少女”勇者”は驚いて、目を白黒させていた。多分、少女”勇者”は、”よくも私に、逃亡した”勇者”の嘘情報を
教えた”と言ったと思う。その台詞を他の<アズナブル>の”勇者”に聞かれるのは、非常にマズイ。
行方不明になった”勇者”の近くに居た俺、1名で72体の<ゴブリン>を倒した俺、勘の良い<アズナブル>の”勇者”がいたら、俺を怪しむだろう。それだけは避けたかった。
この少女”勇者は、初めて会った時に”発作で倒れていた”という設定で会っているので、心優しい少女”勇者は、俺の事を誰にも言わないだろうと、かなり下衆な算段で口止めした。
「”燕”から、手を離せ!」視線を向けると、俺と”燕”ちゃんの近くに”神田”さんが接近していて、腰の日本刀を抜刀して、正眼に構えていた。
”神田”さんの装備している日本刀は、どうやら”魔剣”らしい。日本刀から、目視できる位の冷気が溢れている。そして、”神田”さん自身もかなりの腕前を持っているらしい。だが、それ以上に、”ヤバい奴”がいる。
そう思った瞬間、俺は左肩を引っ張られて、反対に向かされた。
ドゴ! 「グフ!」 ドザア!
反対に向かされた俺の左の頬に、いやに体重と腰の回転の効いた、シスコン兄さんの右ストレートが
叩き込まれた。
俺は、”神田”さんと”燕”ちゃんの中間辺りに、うつ伏せで倒れ込んだ。これは好機だった。
俺は地面にうつ伏せたまま、嫌だったが、本当に痛くて嫌だったが、殴られた左頬の口の中の頬の肉を、
思いっきり奥歯で噛んだ。当然の如く、血が溢れて来た。俺はその血を全力で吸い出し、口の中に溜めた。
「私の部下が大変、申し訳ございませんでした!以後、二度とこの様な事が起こらない様に指導しますので、御容赦下さい。」姿は見えないが、シスコン兄さんが”神田”さんと”燕”ちゃんに謝っているらしい。
カキン! 「私は、”燕”から手を放してくれれば、それで良い。」 「・・・私も、もう大丈夫です。」
姿は見えないが、”神田”さんは納刀し、俺を許してくれた。”燕”ちゃんも動揺しながら、俺を許してくれた。
「ありがとうございます!おい、本田!!お前も起きて、お二人に謝罪しろ!!」
シスコン兄さんが、俺に謝罪をさせ様としたが、俺は無視した。俺は口の中の血を吸いだすのに必死だった。
「おい!本田!!さっさと起きろ!!」業を煮やした、シスコン兄さんが俺の<ボディープロテクター>の襟の後ろの部分を持ち、強引に俺の上体を上げた。
襟の後ろの部分を持たれ、脱力状態の俺は両膝立ちになり、両手はだらりと下がり顔は下を向き口から血を、”ドパパパパ”と吐いた。
「う!!」 「きゃああああああ!!」 「うわ!!」 ベシャ!
”神田”さんが短い悲鳴を上げ、”燕”ちゃんが盛大に悲鳴を上げる。シスコン兄さんが驚いて、俺が吐いた血溜りに、俺を顔面から落とす。ここまでは、俺のイメージ通りに事が進んだ。だが、俺はミスをした。
「タケルさーん!タケルさーん!」うつ伏せなので見えないが、泣きながら”千歳”ちゃんが近づいてくる。
「ダメだ!頭を強く打ったから、動かしては駄目だ!」 「放して!タケルさーん!タケルさーん!」
”神田”さんが、俺に駆け寄る”千歳”ちゃんを制止し、”千歳”ちゃんは制止を振り切って、俺に駆け寄ろうと
しているみたいだ。
(・・・マズイ!!<ゴブリン>なんか比較にならない位に、非常にマズイ!!後で全部、演技でした。
なんて言ったら、”千歳”ちゃん、顔を真っ赤にして、両手を握りしめて俺に殴りかかって来るだろう。非常事態とはいえ、”千歳”ちゃんの心配を裏切った事になるし、どうしよう・・・。)うつ伏せで、俺は焦っていた。
「”燕”!!回復魔法だ!急げ!!」 「りょ、了解!!」
”神田”さんが、”燕”ちゃんに回復魔法を俺に使う様に、促してくれた。それを聞いて、再び口の中の傷から、血を全力で吸い出して溜めていた血が要らなくなったので、吐き出した。これが悪かった。
「また吐血したぞ!急げ!!」 「了解!!」 「タケルさああん!タケルさああん!」
再び吐き出した血を、目撃してしまった”神田”さん、再び回復魔法を促される”燕”ちゃん、
泣いた声から、悲痛な声になってしまった”千歳”ちゃん。状況が悪化してしまった。
(・・・これ、一週間は口も利いてくれないし、目も合わせてくれないレベルだ。土下座か?
土下座が正解なのか?)俺はうつ伏せで、”千歳”ちゃんへの謝罪方法を考えていた。
俺の頭の近くに、両膝を着く音がした。”燕”ちゃんの回復魔法が始まるのであろう。
「<癒しの女神、タ・ナーヒよ!慈愛の眼差しを、この者に与えよ!”ナー・ルット・クン・シュキーヨ”!!>」”燕”ちゃんの詠唱が終わると、白い光に全身が包まれていた。日向の様な心地よい温かさがした。
俺が口の中に作った傷の痛みが消えた。舌で傷を確認すると、傷は綺麗になくなっていた。<魔闘術>
(バーニング)を使用した時に、消費してしまった体力も回復していた。凄い魔法の腕前だと思った。
俺は血溜りの中から、両腕を使って、座り込んだ状態になった。次の瞬間、左からタックルみたいな勢いで
”千歳”ちゃんが抱き着いて来た。
「タケルさん!大丈夫ですか?痛くないですか?気持ち悪くないですか?」
”千歳”ちゃんが、顔を涙でべちゃべちゃにしながら、俺に聞いて来た。
(異世界<アーシタの女神>”モモス”よ、<アーシタ>を救った、俺が初めてあなたに願います。どうか
”千歳”ちゃんが、俺の事を嫌いになりません様に。お願いします。)俺は本気で願った。
「・・・大丈夫、痛くないよ。口の中が血生臭いだけ。」俺は”千歳”ちゃんを刺激しない様に答えた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」下を向いて、泣きながら”千歳”ちゃんが、謝りだした。
どうやら、”口の中が血生臭い”が失敗だったらしい。
「・・・彼も大丈夫らしいし、我々は他のエリアの救援があるので、これで我々は失礼します。撤収!急げ!撤収だ!!」”神田”さんが指示を出し、<チーム侍>は、物凄い速さで、この修羅場から逃走した。
「立てますか?タケルさん。会社に帰って”CT”を撮りましょう。」
俺を支える様に立たせて、”千歳”ちゃんが言った。
「いや、それは”五十嵐”さんに任せて、”千歳”は・・・」シスコン兄さんが、”千歳”ちゃんに話し
掛けようとした。
「誰の所為でこうなったと思うの!お兄ちゃんが、思いっきり殴ったからこうなったんでしょうが!」
”千歳”ちゃんが、猫同士の喧嘩の時の様な殺気を放ちながら、シスコン兄さんに言った。
シスコン兄さんは、沈黙して俺達を見送った。
俺と”千歳”ちゃんは、<サポート車>に乗り込み、<(株)藤原モンスターバスター>へ向かった。
担当エリアから1キロ位離れた所で、赤信号に引っ掛かった。
「・・・あの、”千歳”ちゃん、ちょっといいかな?」俺は覚悟を決めて、謝ろうとした。
「・・・何でしょう。」身体をビクリとさせて、”千歳”ちゃんが答えた。
「・・・あの、物凄く心配してくれたけど、あれは全部演技です。スイマセン。」
俺は正直に言ってしまった。
「・・・え!?」”千歳”ちゃんは、目を丸くしていた。次の瞬間、車の運転レバーを”駐車”にし、
サイドブレーキを引き、怒りで顔を真っ赤にして、両手で俺に殴りかかって来た。
「私が!どんなに!心配したと!思っているです!本当に!本当に!心配!したのに!!」
泣きながら”千歳”ちゃんは、俺を殴り続けた。普通に殴られても当然なのだが、俺の頭蓋骨をあの勢いで
殴ると、”千歳”ちゃんの両手が骨折するので、両腕で衝撃を吸収しながらガードをした。
シートベルトが効いていたので、”千歳”ちゃんは、あまりこちら側に来れなかったが、疲れて辞めるまで俺は
殴られ続けた。”千歳”ちゃんの心配を裏切った事に対する、当然の報いだった。
「・・・ごめん、”千歳”ちゃん。あの状況だと、これしか方法が無かったんだ。”燕”ちゃんだけなら、
なんとかなった。でも、”神田”さんと”アイツ”。あの2人が連携を取ったら、俺は確実に死んでいた。だから、あんな演技をしてでも切り抜ける必要があったんだ。」俺は、疲れた殴るのを辞めた”千歳”ちゃんに言った。
「・・・・・」”千歳”ちゃんは、下を向いたまま無言だった。
少しして、”千歳”ちゃんは車の運転レバーを”運転”にし、サイドブレーキをもとに戻して<サポート車>を発進させた。気まずい無言の時間が始まった。
また少し走ると、赤信号に引っ掛かった。俺は、もう一度”千歳”ちゃんに謝ろうとした。
「・・・あの、”千歳”ちゃん。本当にごめん、”千歳”ちゃんが本当に心配してくれていたのは、物凄く
嬉しかったし、ありがたかった。そして、”千歳”ちゃんの心配を裏切った事は、本当に悪かったと
思っているよ、スイマセンでした。」俺はもう一度、”千歳”ちゃんに謝罪した。
「・・・・・」”千歳”ちゃんは、こちらを見ずに正面を見ていた。やっぱり怒っているのであろう、当然の事だと思う。あんなに心配していてくれたのだから。
信号が青になり、<サポート車>は発進し、気まずい無言の時間が続いた。
しばらく走ると、また赤信号に引っ掛かった。俺は、無視されるの覚悟で”千歳”ちゃんに謝ろうとした。
「・・・ごめん、”千歳”ちゃん。俺は生き残りたかっただけなんだ。生きて、”千歳”ちゃんの料理をずっと
食べたかっただけなんだ。本当にごめん。」無言の重圧に耐えられず、俺の口が無意識に、言葉を紡いだ。
「・・・・・」”千歳”ちゃんは、無言のままであった。
信号が青になり、<サポート車>は発進し、またしばらく走ると<(株)藤原モンスターバスター>に
到着してしまった。
車庫に<サポート車>を駐車し、俺はシートベルトを外して車を降りようとした。
「・・・今日の晩御飯、何が食べたいですか?」そう”千歳”ちゃんが言った。
「!!!!」俺は驚いて、急いで振り返り、”千歳”ちゃんを見る。
「今日の晩御飯、何が食べたいですか?タケルさん。」そう”千歳”ちゃんが、微笑みながら言った。
「許して・・・くれるの?」おずおずと”千歳”ちゃんに、俺は尋ねた。
「今回だけです。次はありません。それで、何が食べたいんですか?」
少し怒った顔を作って、”千歳”ちゃんが言った。
「”カツカレー”、俺は”千歳”ちゃんが作った、”カツカレー・中辛”が物凄く食べたいです。」
俺は、許してくれた事が嬉しくて、泣きそうになった。
「それじゃあ、”深雪”さんに頼んで、今晩は、”カツカレー”にしましょう。」
そう言って、”千歳”ちゃんは車を降りた。
「さあ、社長と”深雪”さんに報告に行きましょう!」
<サポート車>の助手席に回って来た”千歳”ちゃんが、いつもの笑顔で言って来た。
「そうだね、心配しているから、早く報告しに行こう。」俺も笑顔で、”千歳”ちゃんに答えた。
俺は広い駐車場に出ると、<アーシタの女神>”モモス”に、感謝の祈りを捧げた。




