現在、初出撃中!
社内放送が終わると、事務所から”千歳”ちゃんが、青い顔して走って来た。
「タケルさん!初出勤なのにスイマセンが、<ブレイク>が発生してしまいました。私達と一緒に、
<ゴブリン>を討伐してください!お願いします。」物凄く焦りながら、”千歳”ちゃんが言って来た。
「あの、”千歳”ちゃん、<ブレイク>って何?」俺は、”千歳”ちゃんに尋ねた。
「モンスターは、この世界と異世界を繋げている門<ゲート>から出現します。<ゲート>は、ある一定のモンスターを出現させると、自然消滅するのですが、<ブレイク>は自然消滅せずに、モンスターを出現させ続けます。私達”ハンター”の会社は、<アズナブル>から認定されると、<ハンターライセンス>を貰えます。すると、<アズナブル>から、支援金と武器に加工する、<マジーン鉱>を販売してくれます。ですが、
<ハンターライセンス>を貰う時に、担当エリアも振り当てられます。
<ブレイク>が発生した時に、近くに担当エリアがある”ハンター”会社は、全ての業務を停止し、担当エリアのモンスターを討伐、もしくは、<アズナブル>が来るまでの”足止め”をしないといけません。」
”千歳”ちゃんが教えてくれた。
「さっきの社内放送で、50体以上って言っていたけど、今はそれ以上の数になっているって事かな?」
俺は”千歳”ちゃんに聞いた。
「その通りです!ですから、担当エリアの<ゴブリン>を討伐しないと、大変な事になるんです!」
”千歳”ちゃんが、焦りながら答えた。
「俺は、誰の指揮下に入ればいいの?」俺は、再び”千歳”ちゃんに聞いた。
「えっと、第1班のお兄ちゃんの部隊か、第2班の”横田”隊長の部隊で良いと思うんですけど。」
”千歳”ちゃんが、答えてくれた。
「俺の班には、お前の様な、チームワークを乱すような人間は要らない。第2班に行け!」
いつの間にか、シスコン兄さんが会話に参加して来た。
「ちょっと!お兄ちゃん!!昨日の事を、まだ根に持っているの?」”千歳”ちゃんが、怒ってくれた。
「戦場で戦っている人間としての意見だ。俺の班に、お前は邪魔だ。第2班に行け!」
完全に、俺を嫌っている、シスコン兄さんが言い放った。
「いや、俺の班も、そんな奴は要らないんだが。はっきり言って邪魔だし。」
茶色い髪の、ソフトモヒカン男が言って来た。多分、こいつが”横田”なのであろう。
「あの、”横田”隊長。タケルさんを第2班に入れてください。お願いします!」
”千歳”ちゃんが、”横田”に俺の事を頼んだ。
「”千歳”ちゃんには悪いけど、俺、こいつ嫌いなタイプだわ。こいつを俺の班に入れるのは無理!」
”横田”は、あっさりと、俺の受け入れを拒否した。
本当に困った顔で、”千歳”ちゃんが俺を見ている。
「ああ、いいよ”千歳”ちゃん。俺は単独で戦った方が、効率が良いから。担当エリアまで、俺を連れて
行ってくれるかな?」俺は笑顔で、”千歳”ちゃんに提案した。
「”千歳”は、第1班の<バックアップ>だ!お前は、”五十嵐”さんの<サポート車>に乗せて貰って来い!
”千歳”も<サポート車>の1号車で現場に来てくれ!第1班と第2班の”ハンター”は、運搬用トラックに移動、
急げ!!」”千歳”ちゃんから、俺を遠ざけたいシスコン兄さんが色々、指示を出した。
<指揮車>の鍵は、事務所にあるので、俺と”千歳”ちゃんは事務所に急いで移動した。
事務所には青い顔をした、社長・”深雪”さん・”五十嵐”さんがいた。どうやら、”今井”は<サポート車>の2号車に乗るらしい。
「すいません、”五十嵐”さん!タケルさんを担当エリアまで、連れて来て下さい!私は1号車で出ます!」
”千歳”ちゃんは、自分の椅子に掛けてある青いジャケットを羽織りながら言った。ジャケットの背中には、
<(株)藤原モンスターバスター>の文字が入っていた。
「分かりました!本田さん、<サポート車>の3号車に乗ってください。」”五十嵐”さんも、ジャケットを
羽織りながら、俺に言った。
「タケルさん、”シゲ”さんの所に行って、武器を貰ってきてから来て下さい!」
”千歳”ちゃんはそう言うと、1号車の鍵を自分の机から出して、事務所を出て行った。
「”五十嵐”さん、俺は”シゲ”さんの所に行くので、先に<サポート車>に行って待っていて下さい。」
俺は、”五十嵐”さんにそう言うと、”シゲ”さんの元へ急いだ。
事務所を出て、工場に向かうと、シャッターの前で”シゲ”さんが両手に1本づつ、片手剣を持って
待っていてくれた。
「はいよ!タケル君。これが、君の片手剣だ!」”シゲ”さんが微笑みながら、片手剣を渡してくれた。
「ありがとうございます、”シゲ”さん!これで、戦う事が出来ます。では、行ってきます!」
俺は、”シゲ”さんにお礼を言い、<サポート車>で待つ”五十嵐”さんの元へ急いだ。
車庫に急ぐと、”五十嵐”さんの乗る<サポート車>しか残っていなかった。本当に会社の”ハンター”全員で、
討伐に向かったのだと知った。
「お待たせしました!準備が出来たので、担当エリアまでお願いします。」
俺は<サポート車>の助手席に乗り込み、”五十嵐”さんに言った。
「分かりました!出発します。」そう言うと、”五十嵐”さんは運転し始めた。やっぱり、
”あまり話し掛けるな”オーラを放っている気がする。
俺と”五十嵐”さんは無言のまま、十五分ほど走ると、会社の運搬用トラックと<サポート車>が見えた。
俺は到着すると、急いで第1班と第2班に合流した。
「遅いぞ!本田!!」俺の姿を見て、開口一番、シスコン兄さんが怒鳴って来た。
「すいません。遅れました。」とりあえず、俺は謝っておいた。
我が社の担当エリアを見てみた。オフィス街の道路の上下150メートルが、我が社の担当エリアらしい。
この平行世界の道路は、通常車線・追い越し車線・”ハンター”車線”が2本となっている。上下合わせると、
幅28メートルになる。
担当エリア内で停車している車は、窓を全て破壊されていて、血痕や犠牲者の姿が見えていた。そして、
道路にも、逃げ遅れた犠牲者が何名も横たわっていた。
<ゴブリン>達は、左右のオフィスビルに侵入しようと、玄関や窓を攻撃しているが、シャッターや社内の
バリケードで侵入出来ずにいた。
「かなりマズイ状況になっている。”一馬”どう、作戦を立てるんだ?」シスコン兄さんが、”横田”に
聞いていた。
どうやら、”横田 一馬”と言うらしい。このソフトモヒカン野郎の名前は。
「”志保”、現在、俺達の担当エリアに、何体の<ゴブリン>がいる?」”横田”が”今井”に聞いた。
名前を呼び捨てにしている所を見ると、”横田”が”今井”は恋人同士なのだろう。
「ちょっと待っててね。・・・現在、72体!」”今井”が答えた。
「・・・72体か、多いな。・・・本田、お前が1人で戦って来い。」”横田”が言った。
「・・・あの、何で俺1人なんですか?」俺は、”横田”に聞いた。
「お前が習得した、<真田双剣術>て、強いんだろ?だったら、1人で戦えるよな?」意地悪そうな笑みを浮かべながら、”横田”が言って来た。
”横田”の考えは分かっている。”横田”は、俺が”1人では戦えない”と言わせて、マウントを取って自分の
言いなりにしようとしている事を。だが、俺は魔王を倒した男、この程度のモンスターは余裕である。
「まあ、俺なら余裕ですね。”国峰”隊長と”横田”隊長では、絶対無理で絶対死にますけど、俺は<ゴブリン>共を全滅させられますよ。”国峰”隊長と”横田”隊長と違って、俺は強いですから。」
俺は堪忍袋の緒が切れて、シスコン兄さんと”横田”を挑発した。
「・・・お前、言ったからには、絶対に実行しろよ。」”横田”が怒りを抑えて、言って来た。
「ええ、良いですよ。逆に、”横田”隊長は弱いんですから、戦闘エリアに入って来ないで下さい。
足手まといなので。」俺は再度、”横田”を挑発した。
「!!いいから、さっさと1人で戦って来い!!」キレながら、”横田”が命令して来た。
俺は担当エリアの、一番手前の左端の<ゴブリン>達に向かって、走り出した。
集団の敵と戦う時の鉄則、自分の背後に敵を存在させない。今回の場合は、左端から右端に倒していき、右端に到着したら、左端に向かって敵を倒していく。どんなに強くても、背後からの攻撃は致命傷になって
しまう。しかも避ける事が出来ない。なので、自分の背後に敵を存在させない。
左端の<ゴブリン>達が、接近してくる俺を見て、奇声を上げている。”馬鹿な人間が、1人で来た”とでも
言っているのであろう。
俺は<ゴブリン>の手前10メートル位から、体を左右に”ゆらゆら”と揺らし始め、手前5メートルになると、<魔闘術>(バーニング)を発動させた。
自分の手前で”ゆらゆら”揺れながら走って来た人間が、消えたと思ったら、一瞬で目の前にいた。
最初に斬り殺された<ゴブリン>はそう思っただろう。
最初の<ゴブリン>の胸位の高さで、一瞬で間合いに入り、身体を下から上に伸ばしながら、同時に右腕を鞭のようにしならせて、<ゴブリン>の左わき腹から右肩まで、逆袈裟斬りする。後ろで呆けていた2体目に、左足を軸に180度回転し、首を左一文字斬りで飛ばす。右にいた事態を把握していない3体目に、地面を
蹴って間合いを潰し、右手と左手の片手剣で斬り込む、右手は首を、左手は胴を切断し、3体目は3つのパーツとなった。
4体目の<ゴブリン>が怒りの雄叫びを上げながら、両手で槍を突いてくる。俺は、槍先を左の片手剣で
逸らし、体勢を崩した<ゴブリン>の顔に、右足で足の裏で蹴る”喧嘩キック”を叩き込む。
4体目の体は、一緒に突っ込んで来ていた5体目と激しくぶつかり、5体目は激しく動揺している。
俺は間合いを詰めて、4体目を右肩から左脇に袈裟斬りにし、5体目の首を左一文字で斬り落とした。
6体目は、俺の斬り終わりを狙って来た。やはり<ゴブリン>集団戦になると、連携は中々の出来である。
6体目は、斬り終わりの俺の左腕を狙って来た。<ゴブリン>の剣先が左腕に触れる瞬間に、右足を軸に180度回転し、剣先を避けて、逆に一文字斬りで6体目の首を飛ばす。
7体目は、俺に恐怖し、斧を目茶苦茶に振り回していた。俺はゆっくりと7体目に近づき、あっさりと斧の
先端を、右手の片手剣で斬り飛ばす。”カシャーン”と左側に、斧の先端が落下する。自分の斧の先端を見た
<ゴブリン>が俺に視線を戻すと、右腕を振り上げていた俺が、脳天からまた下へ唐竹割りをした。
ようやく、道路の左端から、右端に討伐できた。
俺は、<フルメタルパニ○クふもっふ>のラグビーの回で、中国の”殺一警百”という言葉を
知った。”殺一警百”とは1人をむごたらしく殺しておいて100人に警告するという意味らしい。
これは異世界<アーシタ>でも、ゴーレムの様な疑似生命以外には、かなり有効だった。
7体の<ゴブリン>を血祭りに上げたが、まだ戦意を喪失しない<ゴブリン>もいたので、俺は最終手段を出す事にした。それは、”戦闘狂の笑顔”である。
初めて”ラムール”将軍に逢った時、俺は<ミディームの街>の代表からの救援要請を伝えようとしたが、
”ラムール”将軍は、俺が一騎打ちを申し込むと思い、この”戦闘狂の笑顔”を向けられた、俺が”死”を感じた
瞬間であった。
俺は<ゴブリン>達に、殺気を撒き散らし、歯と歯茎を見せて”戦闘狂の笑顔”を向ける。7体目の返り血を大量に浴びていたので、効果は抜群だった。
恐怖に駆られて、奇声を上げて逃走を始めた<ゴブリン>達を、俺は追撃し、次々に追い抜きざまに首を
刎ねた。<牛野屋>の”トラ”さんが教えてくれた、”損傷が少ないと買い取り価格が高い”という事を覚えていたので、最初の7体以外は、首を刎ねると決めていたのだ。
時折、遠くから矢を放ってくる<ゴブリン>もいたが、片方の片手剣で簡単に打ち払い、反対の方の片手剣で着実に<ゴブリン>の首を刎ね続けた。
十数体、担当エリアの反対にいた<ゴブリン>には逃げられてしまったが、俺は無事に担当エリアの
<ゴブリン>達を討伐できた。時間にして十二分。初出撃にしては、上出来だと思う。
俺は両手の片手剣を上下に何度か振り、血糊を飛ばしながら考えていた。
<牛野屋>の”トラ”さんが教えてくれた、”損傷が少ないと買い取り価格が高い”だが、最初の1体目、
3体目、4体目、7体目は、買い取り価格は低くなるのは確実だろう。
特に3体目と7体目は、”千歳”ちゃんが怒る位の低価格になってしまったであろう。
「・・・3体目は3つにバラバラだし、7体目は真っ二つだし、”千歳”ちゃんが見たら怒るだろうなあ。
<(株)藤原モンスターバスター>は、赤字だって言っていたし、少しでも買い取り価格が多い方が、
やっぱり良いなあ、調子に乗って斬っちゃったんだよなあ、”千歳”ちゃん許してくれるかなあ。」
”千歳”ちゃんに、どう許してもらおうか考えながら、”千歳”ちゃんの元に向かってトボトボと歩き出した。




