現在、初出勤中!
「は~い、タケルさん。起きてくださ~い。朝ですよ~。」
”千歳”ちゃんが、寝ている俺の肩を”ゆさゆさ”揺すって、起こしている。
”千歳”ちゃんが2階に来た事も、部屋に入って来た事も気が付かないほど、俺は熟睡していたらしい。
「・・・んん、今起きるので、先に行っていて下さい。」俺は布団の中でそう言った。
「は~い、ダメで~す。皆そう言いま~す。」”千歳”ちゃんはそう言って、俺の布団を勢い良く剥いだ。
そして、硬直して無言で部屋を出て、トトトトトと急いで階段を降りて1階に行ってしまった。
「・・・?何で無言?」俺は訳が分からず、上半身を起こした。
(<認めたくないものだな、若さ故の過ちというものを>)シ○ア大佐の言葉が脳裏に浮かぶ。
上半身を起こして分かった。灰色のトレーナーのズボンの前が、俺の”小太刀”で大きくなっていたのだ。
「・・・マズイ。不可抗力だが、これは非常にマズイ。」”千歳”ちゃんが無言になった理由は分かった。
異世界<アーシタ>で、後悔しても時は戻らない事を何度も経験して来たので、顔を洗って、黒のジャージに
着替えて、俺も1階に降りて行った。
1階に降りると、耳まで真っ赤にして、下を向いている”千歳”ちゃん、少し困った顔の”深雪”さん、渋い顔を
した社長が、掘りごたつで待機していた。
掘りごたつの上には、”鮭のみりん焼き”・”玉子焼き”・”ホウレン草のおひたし”・きゅうりの一夜漬”け”・
”大根と豆腐とネギの味噌汁”・”大盛りのご飯”が俺の席に並んでいた。
「おはようございます。お待たせして、スイマセン。」俺は3人に、朝の挨拶をした。
「おはよう、タケル。まあ、席に着きなさい。」社長が挨拶して来て、俺に着席を求めて来た。
「・・・タケル。私は”千歳”ちゃんの叔父だ、”千歳”ちゃんを護る義務がある。”千歳”ちゃんが2階から降りて来てから、ずっと様子がおかしい。いったい何があった?」真剣な顔で、社長が聞いて来た。
(本当の事を言ったら、マズイだろうなあ。若い男の生理現象なので、不可抗力です!)と思い。
チラリと”千歳”ちゃんを盗み見る。
”千歳”ちゃんは、耳まで真っ赤にして、下を向き、体を小さく”プルプル”震えさせていた。何か可愛い。
「えっと、ですね。”千歳”ちゃんが起こしに来てくれたんですけど、俺が寝ぼけていて。」
「寝ぼけていて!?」社長が俺に、次の言葉を促していた。
「俺が寝ぼけて、”新婚さんみたいだね”と言ったら、顔を真っ赤にして、1階に降りて行ってしまいました。」俺はとっさに嘘を付いた。
「あら、あら。」何故か嬉しそうに、”深雪”さんが呟く。
「!!・・・すまなかったな、タケル。私の勘違いだった、朝から済まない。」社長が俺に謝罪した。
「いえ、年頃の娘さんに、不用意に”新婚さんみたいだね”と言った、俺も悪いので。」
俺は苦笑しながら言った。
「さあ!問題は解決したので、朝ご飯にしましょう。」”深雪”さんが、場を締めた。
ちらりと”千歳”ちゃんを見ると、いつもの笑顔で胸の前で、両手を合わせていた。やはり可愛い。
”鮭のみりん焼き”を食べ、”玉子焼き”を食べると、昨日の晩御飯と時と味が違った。
「昨日の晩御飯の時と、”玉子焼き”の味が違いますね。昨日は”出汁”が、今朝は”砂糖”がちょうど良い
塩梅ですね!」俺は思わず、味の違いを口に出していた。
「今朝は、”千歳”ちゃんが”玉子焼き”を作ってくれたのよ♪」嬉しそうに、”深雪”さんが言う。
”千歳”ちゃんが、”きゅうりの一夜漬け”をポリポリ食べながら、俺を見ている。
「昨日の晩御飯の時も思ったけど、”千歳”ちゃんは良いお嫁さんになれるよ。」俺は率直な意見を言った。
”千歳”ちゃんが、”きゅうりの一夜漬け”をポリポリ食べながら、微笑みながら照れていた。
「・・・タケル。その台詞は無意識で言っているのか?それとも、意識して言っているのか?
どっちなんだ?」社長が聞いて来た。
「もちろん、意識して言っていますよ。”女性の良い所は口に出して言え、言わなくても分かるなんて
男の妄想だ”って、”モンシアーノ”さんが言っていましたしね。」俺は”人生”の先生の名を出した。
俺には、”人生”の先生が3人いる。1人目は、”剣術”の先生である”ラムール”将軍、2人目は、”体術”の先生である”ドムント”先生、3人目は、”女性への接し方”を教えてくれた<アルビオ騎士団>で元・一番の女好き、
現・愛妻家の”モンシアーノ”さんだ。
異世界<アーシタ>に召喚された時、俺は漫画・アニメ・ゲームが好きなインドア派で、年齢が彼女いない歴の男だった。魔王”ジュドー”を討伐するのに一か月間、<ホワイトベス城>の<アルビオ騎士団>で戦闘の基礎を教わっていたが、”モンシアーノ”さんには、”女性への接し方”を色々と叩き込まれていた。
「”モンシアーノ”さんって、初めて聞く名前ですね。」”鮭のみりん焼き”を食べながら、”千歳”ちゃんが言う。
「召喚された当時、俺はインドア派で人見知りだったから、初対面との人と話すのが苦手だったんだよ
。だから、愛妻家の”モンシアーノ”さんに、初対面の人と話す方法を、色々と教えてもらったんだよ。」
俺は、<アルビオ騎士団>で元・一番の女好きという、事実を隠して言った。
「ほら、魔王を倒す旅って、魔王を倒すだけじゃなくて、地域で暴れているモンスターを倒さないといけないんだよ。その為に各国が、”勇者パーティー”に支援金を出してくれている訳だし。ただ、俺の”勇者パーティー”は、俺しか働かないから、自分で情報収集しないといけなかったんだよ。あの時は、戦闘力と会話力は同じ位、重要だと思い知ったよ。」俺は、"大盛りのご飯”を食べながら言った。
「そうだな、情報収集は大切だな!分かるぞ。」”ホウレン草のおひたし”を食べながら、社長が言う。
「・・・本当にそれだけですか?何か大切な事を言っていない気がするんですけど。」
”大根と豆腐とネギの味噌汁”を飲みながら、”千歳”ちゃんが”ジト目”で聞いて来た。
「・・・えっと、本当に、初対面の人と上手に話せる”コツ”を教わっただけで、他は特に。」
俺は、内心汗をかきながら、”千歳”ちゃんに嘘を言った。
「・・・・・・・・・・本当は?」
少しの沈黙の後、”千歳”ちゃんが、”きゅうりの一夜漬け”をポリポリ食べながら、”千歳”ちゃんが
”ジト目”で俺を見ながら言った。
「・・・”女性への接し方”が9割に、”初対面の人への接し方”が1割です。」
俺は”千歳”ちゃんのプレッシャーに負け、口に運ぶ”玉子焼き”を止めて、正直に話してしまった。
「・・・ふ~ん、”女性への接し方”が9割ですか、多いですね。」
”玉子焼き”を食べながら、”ジト目”で”千歳”ちゃんが言う。
「ふふふふふ、”千歳”ちゃん、まるで”新婚”の奥さんみたいね♪」何故か嬉しそうに、”深雪”さんが言った。
瞬間、”千歳”ちゃんの顔は真っ赤になり、朝ご飯を食べるのを再開し、俺への追撃は無くなった。
俺は、”深雪”さんに頭を下げて礼をした。”深雪”さんは、何故か嬉しそうに微笑んでいた。
朝ご飯を食べ終わると、俺と”千歳”ちゃんは、社長と”深雪”さんより出社時間が早いので、食べた食器を台所の流しに運んで水に浸して、出社準備を始めた。”千歳”ちゃんは1階の洗面台へ、俺は2階の洗面台へ移動した。
「何で、”モンシアーノ”さんの事、バレたんだろう。”女の勘”か?”ニュ○タイプ能力”か?」
俺は歯磨きしながら、何故バレたか考えたが、分からなかった。
俺は身一つで出社できるので、1階に行くと”千歳”ちゃんが玄関で待っていた。社長と”深雪”さんに出社する
挨拶をし、俺と”千歳”ちゃんは<(株)藤原モンスターバスター>へ出勤した。
出勤途中で、やっぱり”モンシアーノ”さんの事を聞かれたが、”千歳”ちゃんに言える事が3割、、”千歳”ちゃんに言えない事が7割だったので、言える事が3割の中の”表の格言”を出勤中にずっと教えていた。
会社に到着すると、会社員専用の駐車場エリアに軽自動車を駐車し、俺と”千歳”ちゃんは駐車場に降りた。
”千歳”ちゃんは俺をまず、事務所に連れて行った。そして、事務所に入ると、2名の女性がいた。
1人は、昨日は挨拶が出来なかったが、社長と”深雪”さんと一緒に仕事をしていた女性。もう1人は机でスマホをしている女性だった。
「おはようございます!”葵”さん、”志保”さん。」”千歳”ちゃんは二人に挨拶した。
「おはようございます、”国峰”さん、”本田”さん。」
昨日、事務所にいた女性が、近くに来て挨拶してくれた。
「初めまして、”本田”さん、”五十嵐 葵”と申します。よろしくお願いします。」
”五十嵐”さんが、挨拶してくれた。
「初めまして、”五十嵐”さん、昨日は挨拶できなくて、スイマセンでした。本日から、よろしく
お願いします。」俺も、”五十嵐”さんに挨拶した。
”五十嵐 葵”さん、黒い髪・黒い目をして身長は175センチ位、腰まであるストレートヘアーで丸目で
メガネ・”Cの胸の双丘”の持ち主。俺の勘では年齢は25.26歳位だと思う。
気の所為か、”あまり話し掛けるな”オーラを放っている気がする。
「えっと、あちらが、”今井 志保”さん。」スマホを見て、こちらを見ない女性を”千歳”ちゃんが紹介した。
「えっと、初めまして、”今井”さん。本日から、よろしくお願いします。」俺は、”今井”さんに挨拶した。
「は~い、よろしく~。」スマホから目を離さず、手を振って挨拶して来た。
”今井 志保”、俺は性格の悪い奴には興味が無いので、この女性の事はどうでもよくなった。
”千歳”ちゃんは次に、事務所の左にある工場へ俺を連れて行った。工場のシャッターの前に2人の男性がいた。1人は社長と同じくらいの男性、もう1人は30代半ば位の男性だった。
「おはようございます!”坂木”工場長、”シゲ”さん。」”千歳”ちゃんは、2人に挨拶をした。
「おはよう、”千歳”ちゃん、そっちの新人も、おはよう。」
”坂木”工場長は、俺と”千歳”ちゃんに挨拶をした。
「おはようございます、”坂木”工場長、本田 猛です。本日から、よろしくお願いします。」
俺は、”坂木”工場長に挨拶した。
”坂木 良”さん、<(株)藤原モンスターバスター>の工場長。
通称”おやっさん”と呼ばれているらしい。
「俺、”万場 茂”よろしくね、本田君。皆からは、”シゲ”って呼ばれているから、本田君も俺の事は、
”シゲ”と呼んでくれるかな?」気さくに、”シゲ”さんが挨拶してくれた。
「分かりました。本日から、よろしくお願いします、”シゲ”さん。俺も”里”では、”タケル”と呼ばれていたので、”タケル”と呼んでください。」俺も”シゲ”さんに挨拶した。
「”里”って、タケル君は、どこから来たの?」”シゲ”さんが聞いて来た。
「俺は、群馬の隠れ里から来ました。<真田双剣術>を伝承する隠れ里です。」
俺は、”シゲ”さんに”設定その1”を言った。
「へ~!やっぱり、”奥義”とかってあるの?」”シゲ”さんが聞いて来た。
「”龍闘気”って”奥義”があります。」俺は、”シゲ”さんに答えた。
”龍闘気”とは、<魔闘術>(バーニング)の事である。<魔闘術>(シャイニング)は、魔力を感知して、<アズナブル>が来ると困るので、”千歳”ちゃんと相談して、<魔闘術>(バーニング)を使用する事にしたのだ。
「・・・もしかして、見せて貰えたりする?」”シゲ”さんが、期待を込めて聞いて来た。
「いいですよ。誰か1枚、名刺を持っていますか?」俺は、”シゲ”さんの願いに応じた。
「あ!私、名刺持ってる!!」”千歳”ちゃんが、嬉しそうにスーツの内ポッケから、名刺ケースを出した。
「それじゃあ、名刺を1枚出して、3人で名刺の柔らかさを確認して。確認が終わったら、俺の指に
挟んで。」おれは、右手を”チョキ”の形にして、待機した。
”千歳”ちゃん・”シゲ”さん・”坂木”工場長は、名刺の柔らかさを確認すると、”千歳”ちゃんが、俺の指に名刺を挟んだ。
「よ!」俺は、”龍闘気”=<魔闘術>(バーニング)、発動した。剣や鎧を強化するように、名刺を強化した。
「端は切れるので、注意して、堅さを確認してください。」俺は、3人に注意した。
「!!堅い!本当に堅くなっています!!」”千歳”ちゃんが興奮気味に言った。
「凄いね!コレ!!戦闘中に、剣や鎧に使うの?」”シゲ”さんも、興奮気味に聞いて来た。
「そうですよ。あと、体全体にも使います。<真田双剣術>は、普通の状態で使うと、骨折したり、
筋肉断裂したり、肉体が持たないので、肉体を強化する為に使ってます。」
俺は、もっともらしい嘘を”シゲ”さんに言った。
「いいのか?俺達に”奥義”を簡単に見せちまって。」名刺をいじりながら、”坂木”工場長が聞いて来た。
「”職人”は怒らせるな。”職人”は俺達の剣と鎧を作ってくれる。”職人”を怒らせると、命が無いと思え。
これは、俺を育ててくれた。育ての親の言葉です。」俺は、大嘘を言った。
名刺を”千歳”ちゃんの掌の上に戻し、”パチン!”と指を鳴らして、”龍闘気”=<魔闘術>(バーニング)を解除する。途端に、名刺は普通の柔らかさに戻る。
「おおおおおお!」元に戻った名刺をいじり、”千歳”ちゃん・”シゲ”さん・”坂木”工場長は良い
リアクションで、驚いてくれた。
”千歳”ちゃん・”シゲ”さん・”坂木”工場長の興奮が収まると、”シゲ”さんが、俺の”戦闘服”を持って来てくれた。
黒いレザースーツに、額と頬と後頭部を護る黒い<ヘッドギア>、胸と腹を護る黒い<ボディープロテクター>、肘と前腕と手首と手の甲を護る黒い<アームプロテクター>、腰側面を護る黒い<ウエストプロテクター>、膝と脛と足首と足の甲を護る黒い<レッグプロテクター>、黒のコンバットブーツ。
これが、<(株)藤原モンスターバスター>の戦闘服である。
俺が戦闘服を着ると、今度は事務所の右にある、ハンターの待機所に連れて行かれた。
「はい、ここがハンターの待機所です。タケルさんは、勤務時間の通常時は、ここで待機しているか、訓練場で訓練をしているかしていて下さい。私は、通常時は事務所か営業に出てしまっていますが、
困った事があったら、遠慮せずに事務所に来て下さい。私か”深雪”さんが対処します。」
”千歳”ちゃんは、俺を1番端の6人掛けのテーブルに案内して、そう言って事務所に行ってしまった。
ハンター待機所には、6人掛けのテーブルとイスが、左右に5卓づつ、計10卓あった。
俺は目立たない様に、右側の1番手前のテーブルに着席していたのだが、ハンター待機所にいる
”ハンター”全員が、俺を見ている気がした。
(やっぱり、気まずい!昨日、シスコン兄さんを倒しちゃったから、部下の”ハンター”達が怒ってるのかな?)
そう思っていたら、社内放送が流れて来た。
「”我が社の担当するエリア付近で、<ブレイク>発生!対象モンスターは<ゴブリン>、現在の確認されている数は、50体以上。我が社の”ハンター”は全員、<ゴブリン>の討伐に向かって下さい。繰り返します、
我が社の”ハンター”は全員、<ゴブリン>の討伐に向かって下さい。”」
社内放送が終わると、ハンター待機所にいた全員の”ハンター”が、緊張した顔になっていた。




