現在、晩御飯中!
俺は、住む所が見つかるまで、社長のお宅に居候する事になった。就職するまで、シスコン兄さんも
”千歳”ちゃんも、社長宅に住んでいたらしい。今、俺はシスコン兄さんが使っていた2階の部屋を、
使用している。
「・・・何とか就職できたが、明日からマズイな。」俺は、溜息をつきながら呟いた。
あの後、シスコン兄さんに3本勝負とゴネられたのだ。よっぽど、妹の”千歳”ちゃんの目の前で負けたのが、
悔しかったのであろう。
2本目、「始め!」社長の号令で、今度はシスコン兄さんが、ダッシュで間合いを詰めてくる。
俺の目前で、右から左へフェイントをかけつつ、死角から右腕一本の鋭い突きを、俺の喉めがけて
突いて来た。
俺は右に軽くサイドステップし、シスコン兄さんのバスターソードの先端から1/3位の所に、俺の右手の片手剣の刃を宛がい、左側にシスコン兄さんの突きを流す。そして、突きを流されて、体勢を崩した
シスコン兄さんの無防備な腹へ、左の片手剣で左一文字斬りする。
ドムス!! 「グブゲ!」
俺の左の片手剣に確かな手ごたえを感じ、カエルが潰れた様な、変な声がシスコン兄さんの口から洩れた。
シスコン兄さんは、右手のバスターソードは離さなかったが、左手と両膝は地面に着いていた。
「勝負あり!勝者、本田!!」社長が、再び勝ち名乗りをしてくれた。
これで終わったと思ったら、<ポーション>を使って、シスコン兄さんが3本目を挑んできた。
「その<ポーション>、経費じゃ落ちないからね!」と”千歳”ちゃんが怒ったのを覚えている。
3本目、「始め!」社長の号令で、今度はシスコン兄さんが、またダッシュで間合いを詰めてくる。
俺の目前で、バスターソードを両手で持ち、素早く・細かく打ち込んできた。だが、俺は、無数に打ち込んできたバスターソードを、左手の片手剣のみで斬撃を流した。シスコン兄さんは苛立ち、一歩下がって両手で持った突きを俺の眉間へと打ち込んできた。
ガキイン!! ドムス!! 「ブゲル!」
俺はシスコン兄さんの突きに対して、左の片手剣を下から、右の片手剣を上から、勢いよく交差させて、
バスターソードの真ん中位を捕らえて左側に引っ張る。同時に、引っ張られて体勢を崩したシスコン兄さんの無防備な腹へ、右足で強烈な蹴りを叩き込む。また、カエルが潰れた様な、変な声がシスコン兄さんの口から洩れた。
「勝負あり!勝者、本田!!」社長が、本日3回目の勝ち名乗りをしてくれた。
懲りもせず、5本勝負にシスコン兄さんがしようとしたが、”千歳”ちゃんが激怒し勝負は流れた。
俺は、当面の着る服と日用雑貨を買う為に社長に連れ出され、現在は社長宅の2階で晩御飯待ちである。
「・・・よく考えると、シスコン兄さんって”国峰”隊長なんだよね。」
俺は、溜息をつきながら呟いた。
<(株)藤原モンスターバスター>は、20名から形成される”ハンター部隊”が2つある。第1班をまとめる
隊長が、”千歳”ちゃんの兄の、”国峰 弘”である。第1班が20名・第2班が20名・休日の予備ハンター10名、会社の半分近くの”ハンター”達の前で、俺は第1班の隊長を、完膚なきまでに叩きのめして
しまったのである。
「・・・ヤバイな、絶対に第1班の”ハンター”には嫌われたな、絶対に。」明日の出社が、少し憂鬱になった。
1階で、社長が晩御飯が出来たと呼ばれたので、気分を切り替えて1階に降りて行く。
1階の居間に行くと、掘りごたつの布団無し状態の上には、”にくじゃが”・”肉入り野菜炒め”・”玉子焼き”・”キュウリとカブの塩もみ”・”なめこと豆腐とネギの味噌汁”・”大盛りのご飯”が俺の席に並んでいた。
「お替わりもあるから、いっぱい食べてね。」微笑みながら、社長の奥さんの”深雪”さんが言った。
「”深雪”さんは、料理上手だから期待していいよ。”味噌汁”は私が作ったんだから、残さないでね。」
”千歳”ちゃんが、微笑みながら言った。俺が心配で社長宅に来てくれたらしい。
「ごめんなさい、お兄ちゃんが何度も勝負を挑んで。迷惑だったでしょう。」
”千歳”ちゃんが、少しシュンとしながら言って来た。
「俺は気にしていないよ。妹の前で負けてしまって、兄として、ムキになっちゃったんだと思うよ。」
俺は苦笑しながら、”千歳”ちゃんに言った。
「もう!いつまでも、”妹離れ”出来ないお兄ちゃんなんだから!私も、もう20歳なんだから、心配しなくても大丈夫なのに!」少し怒りながら、”千歳”ちゃんが言った。
「まあまあ、”弘”にとっては”千歳”ちゃんは、いつまで経っても可愛い妹なんだよ。十年前に、まだ10歳
だった”千歳”ちゃんを護る為に、高校卒業後に”ハンター”にしてくれと頼んで来た”弘”の目は真剣だったよ。」
微笑みながら、社長がフォローを入れた。
「それは、本当にありがとうって言いたいけど。今日の勝負はやりすぎよ!」
少し不満げに、”千歳”ちゃんが言った。
「まあまあ、それ位にして、ご飯を食べましょう。」”深雪”さんが、場を締めた。
三年振りの家庭料理、”深雪”さんと”千歳”ちゃんが料理上手なのもあるが、本物の”醤油”・”味噌”・”ごま油”の味に感激し、舌鼓を打った。
「<アーシタ>のごはんって、どんな味だったんですか?」
”玉子焼き”を頬張りながら、”千歳”ちゃんが聞いて来た。
「城や貴族の家は、”香辛料”がたっぷり使われていて、かなり”スパイシー”だったよ。”香辛料”は高いから、王様や上級貴族は見栄で大量に使うので、俺には辛すぎたよ。逆に庶民は、”塩”がメインの味付けだったよ。その土地の”調味料”もあるけど、俺には薄味だったよ。それでも、庶民の方々には感謝しているよ、食べ物が少ないのに俺達に分けてくれたんだから。」
”にくじゃが”の”じゃがいも”を食べながら、俺は答えた。
「旅をしている時は、どうしていたんだ?やっぱり自炊をするのか?」
”ごま油”の効いた”肉入り野菜炒め”をバリバリと食べながら、社長が聞いて来た。
「いえ、”勇者パーティー”で行動している時は、”黒パン”と”干し肉”と”水”の3つです。」
”にくじゃが”の”豚肉”と”しらたき”を食べながら、俺は答えた。
「・・・確か、”僧侶”の方は女性じゃなかったかしら?」
”キュウリとカブの塩もみ”をパリボリ食べながら、”深雪”さんが尋ねて来た。
「全然、料理してくれませんでした。逆に、かなり独創的な料理をすると、恋人の”魔法使い”が言っていたので、食べる機会が無くて良かったです。」”なめこと豆腐とネギの味噌汁”を食べながら、俺は答えた。
「まあ、俺1人の時は、<なんちゃって”醤油”>と<なんちゃって”味噌”>で、ちゃんと料理していましたけどね♪」”にくじゃが”のお替わりを貰いながら、俺は言った。
異世界<アーシタ>には、不思議な植物が生えている。<アーシタ>の人間には、嫌われ者の”雑草”だったが、俺には神が与えてくれた”調味料”だった。
きっかけは、<ポーション>作りだった。俺は、”僧侶”の平本に嫌われていて、回復魔法や解毒魔法を旅の途中で1回もかけて貰った事が無い。なので、自分の傷を癒すには、<ポーション>が必要だった。
<ポーション>の材料となる<薬草>を森で探していると、体が傷だらけの所為で上手く動かず、前のめりに盛大に転んでしまった。両手を地面に着いたので、顔面は打ち付けなかったが、右手が変な草の実を潰してしまった。右手の掌を見てみると、黒い水の様な汁が付いていた。それは、懐かしい香りをしていた。
俺は左手の人差し指で、右手の黒い水の様な汁に触り、舐めてみた。”生醤油”の味がした。”だし”は効いていないが、確かに”醤油”の味がした。後で<アーシタ>の人に、この実の名前を聞いたら、<ソイソの実>と言うらしい。
俺は驚き、嬉しくなった。<アーシタ>の味付けは、”スパイシー”か”薄味”の両極端で、中間の味付けが無かったからだ。俺は他にも”調味料”なる実を探した。そして、何種類かの実を発見した。
”鰹節”の味がする<ブシカオの実>、”昆布の出汁”の味がする<コブダの実>、”味噌”の味のする
<ミソミの実>、”砂糖水”の味のする<アマイスの実>、”みりん”の味のする<ミリリーの実>、”ごま油”の味のする<セサーユの実>、”菜種油”になる<カノラーユの実>が見つかった。
”調味料”の実は、本体の草から切り離すと一日は持つのだが、二日目になると腐った様な、すえた臭いを出す。これは、俺の<アイテムボックス>に、”調味料”の実を入れても防げなかった。
<アイテムボックス>は、食材の鮮度を守ってくれる。肉や野菜などは大丈夫だったが、”調味料”の実
だけは何度やってもダメだった。そこで、”調味料”の実同士を調合して、なんちゃって”醤油”を作り、一度火を通し、冷ました物を<アイテムボックス>に入れると、鮮度が保たれていた。
俺は、一番美味しい、<なんちゃって”醤油”>の配合を試した。結果、<ソイソの実>5個と<ブシカオの実>3個と<コブダの実>3個が、一番美味しい<なんちゃって”醤油”>になった。
<ミソミの実>5個と<ブシカオの実>3個と<コブダの実>3個が、一番美味しい<なんちゃって”味噌”>になった。俺は異世界<アーシタ>で、初めて味噌汁を飲んだ人間になった。
「つまり、タケルさんは1人で美味しい物を食べていたんですね。」
目を細めて微笑みながら、食後のお茶を飲みつつ”千歳”ちゃんが言った。
「俺が傷だらけで、<ポーション>を作っている時に、”高級娼館”や”高級ホテル”の泊まって、
快楽を貪って、美味しい物を食べていた3人に、俺の”調味料”を使う権利無しです!」
俺は、”大盛りのご飯”を食べながら言った。
「まあ、確かにそうだな。」食後のお茶を飲みつつ、社長が賛同してくれた。
「働かざる者、食うべからずですよ」食後の、”苺みるく”を”深雪”さんが持って来てくれながら言った。
「タケルさんは、”特殊スキル”<芸術>で料理できるんでしたっけ?」
”苺みるく”の苺と格闘しながら、”千歳”ちゃんが尋ねて来た。
「まあ、お陰様で、お金が無い時に、食堂や酒場で働かせてもらったよ。」
俺も”苺みるく”の苺と格闘しながら、質問に答えた。
「・・・タケルさんの恋人やお嫁さんになる人は大変だね。」ポツリと”千歳”ちゃんが呟いた。
「何で?美人の恋人や嫁さんが、俺の為に作ってくれた料理の方が、俺が作った料理よりも、何倍も価値が
あるし、嬉しいじゃん。」俺は、”苺みるく”の苺と夢中になりながら、格闘していた。
シスコン兄さんより、手強い苺だった。
”千歳”ちゃんが顔を赤くして、無言になった事を俺は知らなかった。そんな”千歳”ちゃんを社長と”深雪”さんが、微笑みながら見守っていた事を、”千歳”ちゃんは知らなかった。
楽しい晩御飯が終わり、後片付けが終わると、”千歳”ちゃんは自宅に帰って行った。
俺も、社長と”深雪”さんに就寝の挨拶をして寝る事にした。俺はすぐに泥のように眠った。
よく考えれば、魔王と三日三晩戦った後、最初の安心した眠りだった。




