現在、痴話(ちわ)喧嘩中!
「あの、大丈夫ですか?」俺は驚いて固まってしまった、赤い髪の女性に声を掛けた。
「え、ええ。ちょっと驚いただけだから、もう大丈夫。」
硬直状態から回復して、赤い髪の女性は苦笑して答えた。
「あの、すいません。あなたのお名前を教えてもらえませんか?」
俺は足元のコーラを左手で拾い、赤い髪の女性に名前を尋ねた。
「灰原 恵よ。よろしくね、本田さん。」今度は笑顔で、”恵”さんは答えてくれた。
「さっき<アズナブル>の子が探していたのって、もしかして本田さん?」”恵”さんが聞いて来た。
「多分そうですね。ただ、俺は自分の世界に帰って来たと思っていたので、<アズナブル>から逃げたのではなく、大勢の視線から逃げたんです。光の柱の中から出てきた俺は、鎧と剣を装備した得体の知れない人間でしたから。捕まったら警察か研究室に送られると思って逃げたんです。」俺は出現時の心境を語った。
「やっぱり私達の世界と、本田さんの世界って違うの?」再び、”恵”さんが聞いて来た。
「そうですね、まず俺達の世界にはモンスターが出現しません。そして、帰還した”勇者”も居ないので魔法も存在しません。俺達も<アーシタ>で、この世界の”事を聞いた時は驚きましたけどね。」
俺は”恵”さんに説明した。
「”恵”さん、俺はもう女神”サリース”の所為で、自分の世界には帰れません。今から異世界<アーシタ>での事を説明するので、納得してくれたら、俺の存在を秘密にしてくれませんか?俺は<アーシタ>で、自分の世界に帰る為に、三年間も1人で戦って来たんです。ここで死ぬのは嫌なんです。」
俺は”恵”さんにお願いした。
「いいわよ。異世界の話を聞かせて頂戴。」”恵”さんは快諾してくれた。
「それじゃあ、自動販売機に来る途中にあった東屋で説明させて下さい。あと、コーラの残りを飲んで良いですか?魔王と1人で三日三晩も飲まず食わずで戦っていたので、かなりの空腹なんです。」
俺は再び、”恵”さんにお願いした。
「それは構わないけど、魔王を倒したら普通は凱旋パレードとか国を挙げてのお祭りとかしなかったの?」
”恵”さんがもっともな意見を言って来た。
「俺もそう思っていましたよ。召喚された<ホワイトベス城>まで色々な国で祝ってくれると思っていましたし、お世話になった人にお礼を言おうと思ったのに、魔王を倒してたった三分で<アーシタ>から、召喚された空間に移動させられてしまったんですよ。女神”サリース”によって。」
俺は指を3本立てて、”恵”さんに話した。
「その女神”サリース”って、酷くない?」”恵”さんは少し怒っていた。
「酷いですよ、召喚された時だって<ホワイトベス城>ではなく、5キロも離れたモンスターが大量にいる森に出現させられたから、出現して三分で1人、大トカゲに食べられてしまいましたからね。」
俺は再び指を3本立てて、”恵”さんに話した。
「大変だったのね、本田さん。遠慮しないで、コーラを飲んで。」”恵”さんから許可が出た。
俺は残りのコーラを飲む為に、再びキャップを外し、コーラのペットボトルの口を、俺の口に持って行き、
一気に傾けた。”ゴッゴッゴッゴッゴ!!”と喉を鳴らして、コーラの残りを胃袋に流し込む。
”ぷはっ”と口を離す。そしてやっぱり、俺の口から”グエエエプウ”という、大きな”ゲップ”が出てしまった。
”しまった”と思い、恵さんを見ると、”恵”さんの顔は少し引いていた。
「すいません。」先ほども言えなかった謝罪の言葉を、”恵”さんに言った。
それから俺と”恵”さんは、異世界<アーシタ>の料理やエルフの森、ドワーフの集落の話をしつつ、
東屋へ向かった。
到着した東屋には、長テーブルが1つ、長椅子が西側と東側に一つずつあり、俺は西側に座り、”恵”さんは東側に座ってもらった。
「まずはこれを見てください。これが俺の世界の日本のお金です。」
俺は財布から、5000円が1枚、1000円が3枚、500円が1枚、100円が3枚、50円が1枚、10円が3枚、5円が2枚、1円が4枚の計8894円を長テーブルの上に並べた。
「へ~!見せて見せて!!」”恵”さんは目を輝かせ、東側の椅子を立って西側の俺の横にちょこんと座り、熱心に俺の世界の日本のお金を見ていた。
「へ~!本田さんは、本当に平行世界の日本からやって来たんだね!」
1000円札を表裏をひっくり返しながら、”恵”さんは笑顔で言って来た。
「そこで何やってんだよ、”恵”!!そいつ誰だよ!!」車道の方から怒声が聞こえてきた。
車道の方を見ると、黒い<ママチャリ>に乗った赤い髪の男が、俺を物凄い目で睨みつけていた。
「・・・えっと、”恵”さん、もしかして車道で俺を睨んでいるのは、”恵”さんの彼氏さん?」
俺は焦りながら、”恵”さんに聞いた。
「うん、そう。私の彼氏の三橋 保典よ!お~い!保典~!」
”恵”さんは彼氏さんに、楽しそうに手を振っていた。
彼氏の”三橋”さんは、<ママチャリ>を降りて、<ママチャリ>を押しながら俺達のそばに来た。
三橋 保典さん、赤い髪に赤い目をして身長180センチ、ショートヘヤーのツリ目、白のスウェット・
黒のデニムパンツ・黒い靴を装備していたが、ツリ目は怒りでさらにツリ目になっていた。
「”恵”!!なんだよコイツ!!お前、こんな変な格好の奴が好みなのかよ!!」
彼氏の”三橋”さんが、大激怒しながら、俺を指差し怒鳴る。
「はあ!?私が”保典”以外を好きになると思っているの!!私が浮気しているって疑っているの!!」
”恵”さんは椅子から立ち上がり、顔を真っ赤にして瞳に涙を浮かべながら、”三橋”さんに怒鳴り返した。
マズイ、俺の所為でこの2人が喧嘩するのはマズイのだが、それ以上にマズイのは<アズナブル>の”勇者”が騒ぎを聞きつけて、この場所に来る可能性があるのがマズイ!
「・・・あの、”恵”さんは、行き倒れていた俺を・・」俺も椅子から立ち、フォローを入れようとした。
「うるせえ!!テメエは黙っていろ!!」俺のフォローは”三橋”さんの怒鳴り声に潰された。
「なんなのその態度!!本田さんは本当に苦労してここに来たのに、人としてどうなの!!」
俺のフォローを遮った事に対して、”恵”さんが”三橋”さんに怒鳴った。
(何故だろう、俺はこの2人の声をどっかで聞いた事がある。)二人の怒鳴り合いを聞きながら、
俺は何故か、二人の声に聞き覚えがあった。
「いいか!”恵”!!俺もお前以外の女を好きになる事は、絶対に無い!!<アズナブル>の緊急放送を聞いて、ジュースを買いに行って帰って来ない”恵”を、俺がどんな気持ちで探し回ったと思う!やっと見つけたと思ったら、知らない男と一緒にいたのを見た、俺の気持ちはどうだと思う!いいか、”恵”、この周辺には、逃亡した”勇者”が潜伏・・・」
「はーーい。」俺は軽く右手を上げて、今度は俺が、”三橋”さんの言葉を遮った。
「・・・なあ、俺は今、大事な事を言っているんだが。」”三橋”さんが怒りを抑えながら言った。
「本田さんなのよ、その逃亡した”勇者”って。」
(俺もお前以外の女を好きになる事は、絶対に無い!!)の言葉を聞いて、冷静さを取り戻した”恵”さんが言う。
「・・・えっと、何で”恵”は逃亡した”勇者”と一緒にいるんだ?」”三橋”さんは混乱し、”恵”さんに尋ねた。
「はい、コレ!」”恵”さんは、手に持っていた1000円札を”三橋”さんに手渡し、素早くぴゅっと背中に回り、両腕を”三橋”さんの腹筋に回して抱きついた。
「・・・心配かけてごめんなさい。スマホを部屋に忘れました。私も”保典”以外の人を絶対に好きになる事は
ありません。本当に、心配かけてごめんなさい。」
小さく震えながら、”恵”さんは”三橋”さんの背中に抱き着きながら謝罪した。
「ごめん、俺、”恵”の事になると、すぐに頭に血が上っちまう。本当にごめん。」
”三橋”さんは上を向きつつ、背中に抱き着いている”恵”さんに謝罪した。
蚊帳の外状態で、俺は約十分間ほど”二人の世界”見せ付けられていた。
東屋の西側の長椅子に俺、東側の長椅子の右に”三橋”さん、左に”恵”さんが座っている。
”三橋”さんは、長テーブルの上に並べられている、俺の世界の日本のお金を手に取って調べて、俺が平行世界の日本から来た事を信じてくれたらしい。
「本当に、大変失礼な事を言って、すいませんでした!」
突然、”三橋”さんが長椅子から立って、俺に頭を下げて謝罪してきた。
「いいんですよ。俺も”三橋”さんと同じ立場だったら、絶対に怒り狂った状態になっていたと思いますから。」
俺は苦笑しながら、”三橋”さんの謝罪を受け入れた。
「ありがとうございます!」もう一度俺に頭を下げ、”三橋”さんは長椅子に着席した。すかさず、”恵”さんが”三橋”さんの右腕に自分の左腕を絡ませて、体を密着させた。
「では、俺の異世界<アシータ>の旅の話をさせてもらいます。」俺は二人に旅の出来事を話しだした。
”勇者”から”戦士”にされた事、俺以外の3人がまったく戦わない事、無実の罪で4回投獄された事、
”勇者”が弱すぎて、俺が魔王と1対1で戦う事になった事、計画通り魔王を瀕死にしたが”勇者”がトドメを刺せなかった事、魔王を倒したら自分の世界じゃない平行世界に帰還された事、その他諸々。
俺の旅の出来事を聞いた後の、2人の表情は暗かった。
「・・・すいません。俺達の世界の塩谷が、本田さんに大変ご迷惑をかけたようで。」
”三橋”さんが、右下の遊歩道を見ながら謝罪してきた。
「・・・思った以上のクズっぷりだったわね。同じ世界の人間として恥ずかしいわ。」
”恵”さんが、左下の地面の落ち葉を見ながら、感想を言って来た。
「まあ、魔王”ジュドー”が魔王竜に変化した後、1発目のブレスで塩谷が、2発目のブレスで真下と平本が消滅した時は、天罰が下ったと思ったので、もういいですよ。」俺は二人にフォローを入れた。
「でも、<アーシタ>の王様達って、馬鹿なの?いくら”勇者”の言った事だとしても、よく自分で考えれば嘘だと分かるのに、本当に馬鹿だとしか言いようが無いわ。」”恵”さんが怒りながら言った。
「・・・多分、塩谷が異世界に来た時に、俺と同じで”特殊スキル”が付与されたんだと思います。何か塩谷と話していると、塩谷の言っている事が全て正しく感じるんですよ。”特殊スキル”<言い包め>とか、自分に都合の良い方向に相手を従わせる、謎の”特殊スキル”だと思います。」俺は前々から考えていた事を言った。
「まあ、モンスターは本田さんが倒して、ドロップしたお金やアイテムは3人がネコババして、倒した本人の本田さんが、文句が言えなかったというのは、かなり異常ですもんね。」”三橋“さんが同意してくれた。
”グウウウウウウ” 俺の腹が突然鳴った。
「・・・そっか、本田さん、魔王と三日間戦っていて、コーラ以外なにもお腹に入れてないんだっけ。」
”恵”さんが思い出して言った。
「本田さん、”牛丼”好きですか?すぐ近くに、大学の先輩達がバイトしている”牛丼屋”があるんですが、もし”牛丼”好きだったら、先ほどのお詫びに奢らせて下さい。」”三橋“さんが言った。
「1杯じゃ足りないでしょ。私も本田さんに奢ってあげる。」笑いながら、”恵”さんも言った。
「ありがとう、二人とも。俺、とっても腹が減っていたので助かるよ。」俺は二人に礼を言った。
<ママチャリ>に”恵”さん、俺と”三橋”さんが徒歩で”牛丼屋”へ向かう事になった。
「さあ!いくわよ保典!」<ママチャリ>に乗りながら、”三橋”さんの腰を軽く叩く”恵”さん
「ああ、行こうか”恵”!」笑いながら、”三橋”さんが答える。
「!!」今の二人のやりとりで、ようやく気が付いた。この2人の声に聞き覚えがあったのを。
”恵”さんは”リ○”、”三橋”さんは”ガウリ○”の声にそっくりだったのだ。
<スレイヤ○ズ>俺が好きだった小説とアニメ。まさが平行世界で、この2人の声を聴けるとは。
俺は<スレイヤ○ズカップル>がじゃれ合いながら、”牛丼屋”へ向かうのを微笑みながら付いて行った。




