現在、コーラを一気飲み中!
最悪だ、よりにもよって塩谷の世界に来てしまうとは。まだ、真下・平本の世界だったら生き残れる可能性があったのに、この塩谷の世界では生き残れる可能性は”ゼロ”だ。
(お前ら別世界から来た”勇者”も、俺の世界の秩序を乱す”侵略者”扱いになるから、武器と鎧取り上げられて死ぬまで”勇者”達の戦闘訓練に付き合わされるぞ。)初めて召喚された者同士で話した時に、塩谷が言った言葉が蘇る。
俺は自分のいた元の世界では無く、塩谷のいた絶対に殺される平行世界に来てしまった事に絶望した。
「ねえ!あなた大丈夫!?」
”最敬礼”のまま固まってしまった俺を心配して、赤い髪の女性が車道を渡って俺のすぐ横に来てくれていた。
「・・・え!・・・ああ、心配かけてすいません。もう大丈夫です。」
俺は姿勢を戻し、心配してくれた赤い髪の女性に礼を言い、遊歩道の出入り口から、走って来た遊歩道を西に向かって歩き出した。
「ねえ!コーラは!?コーラ買うんじゃなかったの?」
俺が自動販売機を叩きながら叫んでいたので、コーラが欲しいのを知っていた赤い髪の女性が聞いて来た。
「・・・いえ、もういいんです。使えない事も分かりましたし。」
俺は赤い髪の女性の方を見ず、左手を軽く上げて遊歩道を西に向かって歩いて行こうとした。しかし、足がもつれたのかバランスを崩した。体が傾いていくのが分かるが、上手く体が動かない。顔面衝突を防ぐため両手を遊歩道に着こうとしたが、両手が上手く動かない。結果、俺は遊歩道に顔面を強打した。
”ドゴ!!”とっさに顎を引いたので、鼻から落ちるのは防げたが、遊歩道に打ち付けた額はかなり痛かった。
「・・・ぐう!何で、何で上手く体が動かない。」
俺は立とうとして、両手両足を使おうとしたが上手くいかなかった。両肩から先が感覚が無く、股関節から先の感覚もなかった。俺は突っ伏したまま、もがいていた。そして、心がだんだん冷めて行った。
「・・・そうか、そういう事か。」
俺はこの感覚を知っている。<ダイクーン城>で無実の罪で3回目に投獄された時に、両腕をハンマーで潰された時に味わった”絶望”という感覚だ。
「・・・ははは、はははっはっはあ。」あの時と同じ様に、渇いた笑いと涙が出てきた。
あの時、俺の両腕を治す為に、前人未到の地下迷宮から古代の霊薬を取って来てくれた、”ラムール”将軍と三人の兄弟子は居ない。強力な助っ人どころか、知り合いすら居ない。希望がどこにも見つからない。
心がさらに冷めて行くのが分かる。立ち上がる事すら無意味に思えてきた。
「ねえ!大丈夫!?ねえってば、しっかりしてよ!」
しゃがみ込んで、俺の右の肩を両手で掴んで揺すり、大声で呼びかけている赤い髪の女性がいた。
「・・・はい、・・・もう大丈夫です。」倒れた状態から、俺は顔を右に向けて力なく答えた。
「どこが大丈夫なのよ!ほら,立って!どっか痛いの?それとも病気なの?」
そう言うと、赤い髪の女性は身長160センチ位なのに、身長185センチの脱力した俺の重い体をなんとか”胡坐”状態にして、体中に付いた砂を手で払ってくれた。
「ねえ、本当に大丈夫?救急車を呼ぶ?」
座って同じ視線の高さのまま、赤い髪の女性は本気で心配してくれていた、こんな筋肉隆々でパッツンパッツンの服を着た、得体の知れない俺の為に。
「・・・はい、もう本当に大丈夫です。三日間位飲まず食わずだったので、御心配をおかけしてすいません。」俺はとっさに嘘をついた。三日間位飲まず食わずだったのは本当だったが、1人になりたかった。
「なんだ!だからあんな必死だったのね。はい、これコーラ。あなたにあげる。」
赤い髪の女性は、安堵しながら膝の横に置かれたコーラを、両手で俺に差し出してきた。
「え!・・・あの、俺はお金持ってません。」赤い髪の女性の予想外の行動に、頭が混乱した。
「いいから、ほら、コーラが温くなっちゃうよ。」笑いながら、またコーラを俺に勧めてくれる。
動く事を諦めていた俺の左手が自然に動いて、コーラのペットボトルを赤い髪の女性から受け取った。
動く事を諦めていた俺の右手が自然に動いて、コーラのペットボトルのキャップに手をかけていた。
赤い髪の女性を見ると、微笑みながら頷いてくれた。
俺はペットボトルのキャップを捻った。”プシッ”という音と共に、炭酸が抜ける。
懐かしい、三年ぶりに聞く、本当に懐かしくずっと聞きたかった音だった。
俺はさらにキャップを回し、外れたキャップを右手で握りこんだ。そして、左手に持ったコーラのペットボトルの口を、俺の口に持って行き、一気に傾けた。
口の中に、少し薬っぽいが強い甘みと強炭酸が広がる。コーラが口から喉に行くと、強炭酸が喉を焼いた。痛いやら、嬉しいやら、懐かしいやらで涙が出てきた。キャップを握りこんだ右手にも力が入る。
一気にペットボトルの半分ほどを胃袋に流し込み、”ぷはっ”と口を離す。そして不覚にも、俺の口から
”グエエエプウ”という、大きな”ゲップ”が出てしまった。
俺は、コーラをくれた赤い髪の女性に”すいません”と謝罪しようとした瞬間。
「大丈夫ですか!!」
土手の上のサイクリングコースから、別の女性の声に遮られてしまった。




