現在、死亡フラグ成立中!
公衆トイレを出ると、俺は気付いてしまった。公衆トイレ入り口の左側に水道がある事に。
”渇き”の限界を迎えていた喉が”ゴクリ”と喉を鳴らす。
「・・・何でこんな所に水道が、・・・水がある・・飲める。」
俺の体と右手が水道に勝手に近づいていく。水道の蛇口30センチの所で右手を握りこむ。そのまま、
”ゴッ!”と額に拳を叩き込む。若干強かった所為か、少し足に来た。
「第一目的・コカコーラ!コカコーラ一択!!」
そう喝を入れ、後ろ髪を引かれながらもコカコーラの自動販売機目指して走り出した。
自動販売機に少しでも早く着きたかったが、<魔闘術>(シャイニング)と全力疾走はしなかった。もしも俺の全力疾走している姿を、誰かが目撃してしまった場合に都市伝説化しそうだと思ったから。
俺がもしも目撃したら、”ネコTマッスル”と言う妖怪名を付けるだろう。そうならない為に、軽く流す程度に俺は走った。それでも、腰に巻いた長袖はずっと水平を保っていたので、かなりの速さは出ていたのであろう。
遊歩道を疾走しながら、車道を挟んだ左斜め前に、小さくコカコーラの自動販売機が見えてきた。
俺は自動販売機の一番近くの遊歩道から車道に出る出入り口で一度停まり、左右を確認した後に急いで自動販売機の前に駆け寄った。
俺は急いで、ジーンズの右前のポケットに入れた財布を取出し、財布の小銭入れ部分から100円玉二枚を取出して、景気よく自動販売機の投入口に入れた。
「GO!」 チャリチャリン!・・・・・・カシャシャーン!!、100円玉二枚が返ってきた。
「あれ!?もう一度!GO!!」
チャリチャリン!・・・・・・カシャシャーン!!、再び100円玉二枚が返ってきた。
「あれ!!ダメか!?」しかたなく、100円玉二枚を小銭入れ部分に戻し、今度は500円玉で行く。
「GO!」 チャリン!・・・・・・カシャーン!!、500円玉が返ってきた。
「・・・・・」無言で500円玉を小銭入れ部分に戻し、今度は1000円で行く。
「は~い、ゆっくり食べてね~。」
小さい子供に食べ物をあげるような口調で、お札投入口に1000円札を入れる。
ウイイイイン・・・・・ウィウィイイイイイイン。 ドガン!!
「俺のコオオオラアアアアア!!」
お札投入口から返ってきた1000円札を見て、思わず叫びながら小銭投入口辺りを殴ってしまった。
「ちょっと!!」左側から女性の声が聞こえた。
赤い髪・赤い目をして身長は160センチ位、腰まで届くストレートで丸目・”Bの胸の双丘”の持ち主。俺の勘では年齢は19.20歳位だと思う。青のトップス・白のパンツ・サンダルを装備していた。
「私もこれから、ジュースを買うんですけど!そんなに乱暴に扱ったら、自販機が壊れちゃうんですが!!」少し太い眉を少し上げながら、赤い髪の女性が正論を言って来た。
「え、・・・いや、すいませんでした。お先にどうぞ。」
俺は謝罪し、急いで自動販売機の前から車道を渡り、遊歩道の出入り口で待機した。先ほどの小さい子供に食べ物をあげるような口調を赤い髪の女性に聞かれた可能性が高いので、恥ずかしかったので距離を取りたかったのだ。
赤い髪の女性は、訝しげな顔をしながら俺に一礼して、自動販売機でジュースを買い出した。赤い髪の女性が商品取出し口に屈んだ時に、それは始まった。
甲高いサイレン音と、アナウンスが始まったのだ。
「”<アズナブル>から周辺の住民の皆様へ、先ほど異世界より帰還した”勇者”が逃走しました。特徴は黒い鎧・黒いマント・黒い大きな剣を装備しております。逃走した”勇者”は大変危険です。発見しても絶対に近寄らないで下さい。発見したら<アズナブル>本部、もしくは巡回している<アズナブル>職員に連絡してください。以上<アズナブル>から皆様へ緊急放送でした。”」
頭の中が真っ白になった。<アズナブル>と言う”キーワード”は聞きたくなかった。
体がガタガタ震え出した。高度400メートルの高さ・強風の寒さでの震えとは違う、”原始の恐怖”、絶対的な”死”に対する体の震えが起きていた。
震える左腕の肘を右の掌で抑えようとしたが、全く治まらなかった。両足も完全に震えていた。
「あの!大丈夫ですか?」
車道の向こう側から、赤い髪の女性が両手でコーラを持ちながら、俺を心配して聞いて来た。
「え!・・・あ、はい!俺は大丈夫です。」俺は挙動不審な返事をしてしまった。
見知らぬ、しかもかなり怪しい俺を心配してくれるのは、赤い髪の女性が心優しい証拠であろう。
俺は、赤い髪の女性の心優しさを見込んで、”ある事”の確認の為に質問をしようと考えた。
「あの、すいません!今からかなり馬鹿な事を質問したいのですが、答えて貰えませんか?俺の人生がかかっているんです!」俺は赤い髪の女性に、質問に答えてくれる様にお願いした。
「えっと、はい。まあ、いいですけど。」
赤い髪の女性は少し不審がっていたが、俺の質問に答えてくれるらしい。
「では、三年前から今まで総理大臣は代わっていない、代わっている。どっちですか?」
俺は最初の質問を、赤い髪の女性に尋ねた。
「えっと、五・六年はずっと同じ総理大臣だけど。」赤い髪の女性は、素直に答えてくれた。
「では!現在の総理大臣の名前を教えて下さい。嘘偽りなくお願いします。俺の人生がかかっているので!」俺は真剣な顔で、次の質問を赤い髪の女性にした。
「はあ!?」明らかに疑った声が、赤い髪の女性から発せられた。
「分かってます!自分がかなり馬鹿な事を質問しているのかくらい。それでも、俺の”命”に係わる事なんです。お願いします!嘘偽りなく答えてください。この通りです!!」
俺は両手を胸の前で合わせ、腰を90度曲げた”最敬礼”で、赤い髪の女性にお願いした。
「・・・まあ、いいけど。」俺の必死さが伝わったのか、赤い髪の女性は質問に答えてくれるらしい。
「ありがとうございます!」”最敬礼”の状態のまま、俺は礼を言った。
「”大泉 純一郎”。今の総理大臣は、”大泉 純一郎”よ。」赤い髪の女性は答えてくれた。
俺は”最敬礼”のまま固まってしまった。赤い髪の女性が教えてくれた”大泉 純一郎”は、俺が聞きたくなかった、もう一つの”キーワード”だったからだ。
<アズナブル>と”大泉 純一郎”、この2つの”キーワード”は俺に”死刑宣告”をしている様なものだ。
俺に”死亡フラグ”が立ってしまった。