現在、お別れ中!
俺の宴は<アトランティー>の宮殿に来て、七日目の朝に急に終わりを告げた。
廊下を慌てた様子の足音が近づいてくる。
「起きろ、タケル!緊急事態だ!!」
俺が寝ている部屋の入口の布をめくり上げ、”グランディ”さんが飛び込んで来た。
「どうしたんですか?”グランディ”さん。緊急事態って何ですか?」
俺はバネ仕掛けの人形の様に、抱き枕になってもらっている”チルダ”と一緒に上半身を起こした
「・・・とりあえず、”チルダ”を布団に戻せ、そしてパンツを履け。タケルに来訪者だ!」
焦っていても、的確な指示を出す”グランディ”さん
「来訪者って、俺にですか?」朝が弱い”チルダ”はまだ眠ったままなので、左腕で背中を支えて右手で後頭部を撫でつつ、”グランディ”さんに聞いた。
「ドワーフの王”トト”様とエルフの王”グレミー”様だ。大広間で待っている。」
”グランディ”さんが教えてくれた。
「!!」”チルダ”を撫でる手が止まる。そして一瞬で思い出した。俺が馬車の御者に、三日経っても帰って来なかったら、<バルツブルーダー神殿>に帰るように伝えた事を。
「・・・あの”グランディ”さん、俺が<アトランティー>の宮殿に来て、今日で何日目でしたっけ?」
”チルダ”を起こさない様に、ゆっくり布団に戻しながら”グランディ”さんに尋ねた。
「今日で、・・・七日目の朝じゃないか?」”グランディ”さんは、右手で指折り数えて教えてくれた。
「・・・マズイ。」パンツの紐を締めつつ、俺は計算した。馬車の御者は四日目の朝に<バルツブルーダー神殿>に出発したとして、到着は五日目の朝。俺が帰って来ない緊急事態だとして、”グレミー”様が移動魔法を使った場合、約一時間で<アトランティ>族の集落に来るだろう。つまり、五日目と六日目の丸二日間も”トト”様と”グレミー”様を心配させた事になる。
「”グランディ”さん、”チルダ”の事を頼みます!」身支度を終えた俺は、部屋を飛び出して全速力で大広間を目指した。廊下を”キュッキュ、キュッキュ”鳴らしながら、何度か角を曲がり大広間の入口に着いた。
大広間に入ると、一段高いいつもの定位置に”ナディー”様が、”ナディー”様の前に”トト”様と”グレミー”様が植物の蔓を丸く編んだ敷物にあぐらで座っていた。
「おはようございます、”ナディー”様・”トト”様。”グレミー”様。」
平静を装いながら、俺は小走りに3人に近づき、”トト”様と”グレミー”様の少し後ろで正座して朝の挨拶をした。
「おお!無事だったか、タケル!」こちらに向き直り、笑顔で”トト”様が声を掛けて来た。
「タケル君、体は大丈夫かい?」”グレミー”様もこちらに向き直り、笑顔で声を掛けて来た。
「おはよう、タケル殿。ゆっくり眠れたかな?」楽しそうに、”ナディー”様が挨拶してきた。
内心ビビりながら、笑いながら3人に返事をして座ろうとすると、ちょこちょこちょこっと”イコリナ”が近づき、俺にも植物の蔓を丸く編んだ敷物を持って来てくれた。
「ありがとう、”イコリナ”。」俺は”イコリナ”にお礼を言った。”イコリナ”は”チルダ”と”マリーリ”と同じ18歳の美少女で、”Cの胸の双丘”の持ち主である。
「さて!タケル殿の話によれば、今回の”勇者”は絶望的に弱いので、タケル殿が代わりに魔王と戦う為になったと。そして”三種の神器”級の鎧と剣が必要になり、<ノーティラス鉱>が必要になったと。」
”ナディー”様が本題を切り出した。
「はい、<アトランティ>族の皆さんが、<ノーティラス鉱>が”神”の贈り物だとして大切にしている事も知っています。ですが”三種の神器”と同等の鎧と剣を製作には、どうしても<ノーティラス鉱>が必要なんです!」”グレミー”様が嘆願した。
「・・・分かりました。<ノーティラス鉱>を譲りましょう。」”ナディー”様があっさり承諾した。
「え!?」俺と”トト”様と”グレミー”様の声が重なった。
「タタル殿の命を守る、鎧と剣なのであろう。大袋で3つ必要とタケル殿から聞いているが、それで良いかな?」”ナディー”様が聞いて来た。
「はい!大袋で3つあれば大丈夫です!」”グレミー”様が答えた。
「それは良かった。それでは、<ノーティラス鉱>をここへ!!」
”ナディー”様が<ノーティラス鉱>を持って来る様に命じる。
<ノーティラス鉱>は輿に載せられて運ばれてきて、”トト”様と”グレミー”様の前に置かれた。
”ナディー”様が<ノーティラス鉱>の大袋に袋に近づき、大袋の口を開ける。
「さあ、”トト”様・”グレミー”様・タケル殿。これが聖地<ブルー・ル・ノーア>の中心部で採掘した、最高純度の<ノーティラス鉱>です。ご確認ください。」誇らしげに、”ナディー”様が言った。
”トト”様・”グレミー”様・俺は、急いで腰を上げ、<ノーティラス鉱>の元へ行く。
袋の中の<ノーティラス鉱>は、見事な黒金色をしていて、無数の小さい蒼い粒子が輝いていた。
「・・・素晴らしい!」”グレミー”様は感嘆した。
「お、おおおお!」これから<ノーティラス鉱>を加工できると思い、嬉しさで言葉が出ない”トト”様。
「・・・凄いな。」<ノーティラス鉱>の潜在能力に感心する、俺。
”ナディー”様は、俺たちの様子を見て満足の様子だった。
「あの、こんな高純度の<ノーティラス鉱>を譲って貰って、良いのですか?」”グレミー”様が尋ねた。
「タケル殿は、<トライアングルレオ>という危機から我らを救ってくれた。そして、もう1つの危機も。」”ナディー”様は、目を細めて右手で、自分のヘソの下あたりを愛おしそうに撫でまわした。
その様子を見て、”トト”様と”グレミー”様の笑顔が固まる。
「・・・タケル君、後で話があります。」固まった笑顔のままで、”グレミー”様が言う。
「タケル。帰ったら、鎧と剣が完成するまでミスリル鉱山で<ミスリル>の採掘だ。」
真顔で”トト”様が言う。
「・・・了解しました。」冷や汗が止まらない、俺が答えた。
”ナディー”様が、左側肩から腰に巻いている<アルジャージャ>の赤い鳥の羽毛の懐から、拳大の巾着を出してきた。鮮やかな蒼色に金の刺繍が入っている。
「これは、私個人からのお礼だ。」”ナディー”様が微笑みながら手渡してきた。
「”ナディー”様、これは何でしょうか?」俺はお土産の正体を”ナディー”様に聞いた。
「これは、タケル殿に盛り続けた<アトランティーの媚薬>だ。タケル殿は、我らの他にも好い女子がおるのであろう?是非、使ってくれ。1粒で丸一日効力があるから、分量には細心の注意を頼むぞ!」
”ナディー”様が満面の笑みで答えてくれた。
「あ、ありがとうございます。」俺は礼を言った。”トト”様と”グレミー”様の視線が痛かった。
「なに、タケル殿には、夢のような時間を与えてもらったからな。」また右手で自分のヘソの下あたりを愛おしそうに撫でまわし、左手を頬に当てて顔を赤らめる”ナディー”様。
”ナディー”様が言う、”夢のような時間”。それを可能にしたのは、<魔闘術>(バーニング)であった。
<魔闘術>(バーニング)は<HP>(生命力)を使う、この<HP>(生命力)を燃料にした方法は、肉体に関係する能力を飛躍的に上げる。その中には回復能力もあった。体力が半分位になっても怪我をしていない状態であれば、<魔闘術>(バーニング)を発動させ、大量に食料を飲み食いして二時間ほど爆睡すれば体力は全回復した。
戦闘中に、その場で大量に食料を飲み食いして二時間ほど爆睡する奴など戦場には居ない。俺がこの方法に気が付いたのは、ドワーフのミスリル鉱山で暴れていた<ブルデスニーゴ>を討伐した時に、二つの意味でお世話になっていた”ルルーカ”さんと一緒の時に気が付いた。いわば”裏ワザ”である。
俺は、”グランディ”さんが”チルダ”に宴に向けて、”鎮痛”&”催淫”効果のある薬湯、通称<生娘の薬>を与えている間に、”ナディー”様に提案した。
俺は、<魔闘術>(バーニング)を習得しているので、体力が100から0になるまで搾り取るのは辞めて、体力が100から50になったら、食事と睡眠をとらせて体力を100に戻す方が絶対にお得だと説明した。
”ナディー”様は納得し、俺は六日間<アトランティー>族の女性達と宴をつづけていたが、俺はすこぶる健康体であった。
俺は<アイテムボックス>を出現させて、<ノーティラス鉱>と<アトランティーの媚薬>を大切に中に入れた。
「タケル君、無事に<ノーティラス鉱>を譲って貰って嬉しい時に悪いのですが、悪い知らせです。」
俺が<ノーティラス鉱>と<アトランティーの媚薬>を入れ終わるのを見計らって、”グレミー”様が告げて来た。
「・・・うちの3バカが何かやらかしましたか?」俺は、”グレミー”様に尋ねた。
「いや、”勇者”殿達は三神官が特訓しているので、大丈夫ですよ。」
”グレミー”様の中では、塩谷達は3バカで通用するらしい。
「最後の四天王が、我々を探っているようです。出来れば、急いでタケル君の鎧と剣の製作に入りたいのですが。」”グレミー”様がチラリと”ナディー”様を見る。
「寂しくなるがしょうがない、タケル殿の鎧と剣をここに!」”ナディー”様が命じた。
大広間に、俺の<ファストールの鎧>と<ファストールの剣>が運ばれてきた。
「魔王を倒したら婿に来いとは言わないが、また自分の世界に帰る前に遊びに来てくれるのであろう?タケル殿。」<ファストールの剣>を渡しながら、”ナディー”様。
「もちろんです。俺は絶対に<アトランティー>族の皆に逢いに来ます。」
<ファストールの剣>を受け取り、<アイテムボックス>に入れる俺。
「色々と世話になったね、タケル。また遊びにおいで。」微笑みながら、<ファストールの鎧>の胴体部分を渡しながら、”グランディ”さん。
「はい!絶対に遊びに来ます。”グランディ”さんには色々とお世話になりましたし。」
俺の”色々”の意味を理解し、顔を真っ赤にする”グランディ”さん。
俺は胴体部分を<アイテムボックス>に入れた。
「次に遊びに来てくれる時には、もっと料理を覚えておくよ!」
<ファストールの鎧>の籠手部分を渡しながら、”マリーリ”。
「楽しみにしているよ、”マリーリ”。」俺は籠手部分を<アイテムボックス>に入れた。
「今度来たら、お姉ちゃんにいっぱい甘えていいからね♪タケル君。」<ファストールの鎧>の腰部分を渡しながら、”エレクート”さん。
「その時は、いっぱい甘えさせてもらうよ。”エレクート”姉ちゃん。」
この時、”エレクート”さんは24歳。当時の俺は23歳だった。”エレクート”さんは妹分ばっかりだったので、弟分が欲しかったらしい。その結果、俺は”弟認定”された。
「とりあえず、”膝枕”はよろしくね!”エレクート”姉ちゃん。」
俺は腰部分を<アイテムボックス>に入れた。
「今度来たら、<アトランティーの森>を案内します。美味しい果物が沢山あるので!」
<ファストールの鎧>の足部分を渡しながら、”イコリナ”。
「ありがとう、”イコリナ”。<アトランティー>の果物は全部美味かったから、楽しみにしているよ!。」俺は足部分を<アイテムボックス>に入れた。
「・・・・・」<ファストールの鎧>の兜を両腕で抱きしめていた”チルダ”は下を向いて無言だった。
「・・・”チルダ”。」俺は”チルダ”の頭を優しく撫でた。”チルダ”とは<アトランティー>族の集落に来て、一番思い出があり世話になったからだ。
「俺、頑張って魔王”ジュドー”を倒しく来るからさ。今度来た時にもう一度俺に、<感謝の舞>を見せてくれないかな?」俺は”チルダ”の頭を優しく撫でながら言った。
「・・・はい。その時は必ず、タケルさんに<感謝の舞>をお見せします。」”チルダ”は少し寂しそうに笑い、<ファストールの鎧>の兜を両手で差し出した。
「・・・いってらっしゃい。タケルさん。」”チルダ”は少し涙ぐんでいた。
「いってきます。俺は絶対に帰って来るから、待っててよ”チルダ”。」俺は両手で<ファストールの鎧>の兜を受け取り、笑いながら”チルダ”に言った。そして、<ファストールの鎧>の兜を<アイテムボックス>に入れた。
「・・・・・」”チルダ”は服の腰の部分を握りしめ、無言で頷いた。俺はそんな”チルダ”が愛おしくて、また頭を優しく撫で続けた。
「・・・タケル君、名残惜しいのは分かりますが、そろそろ行きましょう。タケル君の鎧と剣を急いで製作しないといけませんからね。」”グレミー”様が切り出した。
「・・・了解しました。」俺は最後に”チルダ”の頭を優しくポンポン叩き、返事をした。
そして俺達は、宮殿の大広間から宮殿の庭へと移動した。
「<アトランティー>族の皆さん、本当にお世話になりました!」俺は最後に、<アトランティー>族の皆に挨拶をした。”チルダ”は泣いていて、”マリーリ”と”イコリナ”が慰めているのが見えた。心が痛んだ。
「タケル君、”トト”様、私の近くに寄ってください。」”グレミー”様はそう言い、右手を空に向けて呪文を唱え始めた。
「<風の王、ウイーン・ダーム!汝の偉大なる翼を我がもとへ、彼方へ行ける羽を我に、”ホウ・オージ・フーウ・サーン”!!>」呪文を唱え終わると、俺達の体は5メートル位に浮上して風の魔法障壁が張られた。
「タケル君、最後に<アトランティー>の皆さんに挨拶を。」”グレミー”様が言ってくれた。
「また絶対帰って来るから!みんなお元気で!!」俺は<アトランティー>族の皆に手を振りながら言った。<アトランティー>族の皆も手を振ってくれていた。”チルダ”も泣きながら手を振っていてくれた。(”チルダ”やっぱり君は良い子だ、心がほっこりした。)俺は心の中でそう思った。
俺達は<バルツブルーダー神殿>へ向けて飛び立った。