現在、連行され中!
尻もちをついて、右足に大きく怪我して血を流している少女に左手を差し伸べたが、震えているだけでリアクションしてもらえずに、俺は気まずくなり左手を引っ込めた。
改めて尻もちをついている少女を見てみた。
<アトランティー>族特有の小麦色の肌・蒼い髪・蒼い目をして身長は165センチ位、ストレートのミディアムヘアーで丸目・”Cの胸の双丘”の持ち主。俺の勘では年齢は17.18歳位だと思う。
古代ローマの女性戦士の様な、左肩が露出した白い服・皮のベルト・皮の籠手・脛まである皮のサンダル・皮の胸当てを装備していた。
少女は、俺が怖いのか右足の傷が痛むのか分からないが、小さく震え続けて涙を流していた。
右足の傷を見ると、太ももから脛にかけて大小様々な傷があり、風魔法による鎌鼬の傷と思われる。両手で太ももの傷を抑えているが、出血は多く両方の掌は赤く染まっていた。
俺は自分の<アイテムボックス>に、俺のお手製の<ハイ・ポーション>を大量に入れているので、少女に渡そうと左手を横に向け、<アイテムボックス>を呼び出そうとした。
「動くな!”チルダ”から離れろ!」と怒鳴られ、俺は動きを止めた。
どうやら、尻もちの少女の名前は”チルダ”というらしい。
俺を怒鳴りつけた女性を見る。”チルダ”と同じ、小麦色の肌・蒼い髪・蒼い目をして身長は175センチ位、ストレートのロングヘアーでツリ目・”Dの胸の双丘”の持ち主。俺の勘では年齢は27.28歳位だと思う。
先ほどの戦闘で<トライアングルレオ>の攻撃を”魔法障壁”で防ごうとした、リーダーの女性だ。
両刃の片手剣を俺に向けて、ちらりと”チルダ”を見て、「”チルダ”大丈夫かい?」姉御口調で安否を心配していた。”チルダ”は無言でコクコクと頷く。
「あんた誰だい!<トライアングルレオ>を倒してくれたのは感謝するが、ここで何をしている!」
リーダーの女性が俺に詰問してくる。”チルダ”と同じ年齢位の少女達が、俺に向けて弓を引いている。
「・・・・・」俺は答えられなかった。”最強の剣と鎧を作るので<ノーティラス鉱>を盗みに来ました。”なんて言えるはずもなかった。
「何で、何も答えない!!」リーダーの女性は少し怒り始めた。
「・・・ううう」”チルダ”が痛みに耐えかねて、うめき声を上げ始めた。俯いて表情は見えないが、体が小刻みに震えているのは、激痛に耐えている証拠だ。
「”チルダ”!」右足の怪我が想像以上に酷かったことに気付き、片手剣を放り出し”チルダ”に駆け寄るリーダーの女性。”チルダ”の右足は血塗れになり、下には血溜まりが出来ていた。かなり深く切り裂かれてしまったのであろう。
「<アイテムボックス>の中に、<ハイ・ボーション>が大量に入っている。その子と怪我をしている子達に使いなよ。」弓を引かれている状態だったが、左手を横に向け<アイテムボックス>を出現させ、<ハイ・ポーション>を1個取り出し、リーダーの女性に向けて軽く放り投げる。
驚いた表情で<ハイ・ポーション>を両手でキャッチするリーダーの女性。急いで<ハイ・ポーション>の蓋を取り、”チルダ”に飲ませた。
<ハイ・ポーション>を飲んだ”チルダ”の右足は白く光り、逆再生の様に傷が治癒していく。1分後には怪我をする前の状態に戻っていた。”チルダ”とリーダーの女性は治癒能力の高さに驚いていた。
俺は<ファストールの剣>を地面に置き、<ハイ・ポーション>を10個ほど<アイテムボックス>から取出し、<ファストールの剣>の横に置いて2メートルほど離れて、両手を胸の高さに上げて待機した。
その様子を見てリーダーの女性は、弓を引いている少女以外に<ハイ・ポーション>を取りに来させて、”チルダ”以外の怪我をしている少女達を治療させた。
「<ハイ・ポーション>を分けてくれた事には感謝する。だが、あんたを見逃す事は出来ない!」
リーダーの女性が言ってきた。
「俺の名前は、本田 猛。女神”サリース”に召喚された、勇者パーティーの”戦士”だ。」
正直に話すしか道は無いと俺は思い、自分の身分を明かした。
「あたしの名前は”グランディ”だ。勇者パーティーの”戦士”様がこんな所に何の用だい?」
リーダーの”グランディ”がさらに詰問してきた。
「魔王”ジュドー”を倒す為に、新しい最強クラスの剣と鎧が必要になったんだ。」俺は正直に答えた。
「新しい最強クラスの剣と鎧?初代”勇者”様用に作った、”三種の神器”はどうしたんだい?”三種の神器”があるのに、何故、新しい剣と鎧が必要となる?おかしいだろ。」”グランディ”が正論を言った。
「今回の”勇者”の塩谷が、絶望的に弱いんだ。”三種の神器”を装備しても、一瞬で魔王に殺される。だから、俺が新しい最強クラスの剣と鎧で魔王と対決して、魔王を瀕死状態にし、”勇者”の塩谷に聖剣で首を切り落とさせる計画なんだ。はっきり言って、ここに居る少女達の誰でも良いから一対一で戦ったら必ず負ける。俺の首をかけてもいい。それ位、今回の”勇者”の塩谷は絶望的に弱いんだ。」俺は正直に言った。
「あんたの言い分と目的は分かった。つまり、新しい剣と鎧を作る為に<ノーティラス鉱>を盗みに来たという訳かい?」”グランディ”が俺の目を真っ直ぐ見ながら問いかけてくる。
「・・・すまない、その通りだ。俺は”勇者”ではなく”戦士”だ。魔王にトドメを刺せる”勇者”ならともかく、”戦士”の俺は捕まったら命は無いのだろう?俺は魔王を倒して自分の世界に戻りたい。父さん、母さん、チビクロに逢いたいんだ。」俺は本音を語った。
「<ノーティラス鉱>の盗みは大罪だ。だが、<トライアングルレオ>を倒し、傷を負った我々を治療してくれたのもまた事実。だから、この件に関しては族長”ナディー”様に判断を仰ぐ。武装を解除して、大人しく連行されてくれないか?」”グランディ”が提案してきた。
「了解した。武装を解除する。」俺は提案に素直に従い、<ファストールの鎧>を外して、後ろ手に縄で縛られて連行されることになった。
<アトランティー>族の集落に向けて歩き出した時、ちょこちょこっと”チルダ”が寄ってきて。
「ありがとう。」と言い。またちょこちょこっと行ってしまった。
(”チルダ”良い子だ、心がほっこりした。)俺は心の中でそう思った。