第23話 父を知る人
田舎だが伝統ある高校に進学した安楽土 青。
色々あって結局帰宅部に収まり、友だちもできて1年が過ぎようとしていた3学期のある日、いつものように友達の斉藤 高志と購買で買った昼食とともに空き部室に行くと偶然あるものに気づく。
それは表紙全体が薄茶色に変色した大正時代の化学の教科書だった。
何気なく手にとってみると、小さなノートのような切れ端に複雑な化学式のようなものが書き記してある。それをまじまじと見ていた次の瞬間---。
3人はかよさんの店の前にいた。
ノノカは「ポンっ」と言って、女の子の姿になった。
美姫はびっくりして
「え~‼あなたがノノカちゃん⁉かわいい~!なんでいつもうさぎなの?この方が断然かわいいじゃない!」
青が
「あのですね、それは斯々然々で…。」
「そうなんだ~。このお店のときだけなんてもったいないな~。ねぇ、一緒に写真撮っていい?可愛すぎる~。」
美姫はそう言うとスマホを出し、ノノカとにっこり笑って写真を撮った。
ノノカが
「あのね、美姫ちゃん。がっかりするといけないから話しておくけど、あたしはサポアニだからこの世界では映るけど、元の世界に戻ったら写真から消えちゃうかも…。」
「えぇ~⁉そんなの許さない!許されない‼柳生先生と交渉する‼」
(美姫さんって意外とみいはあなんだな…。)
と青は心のなかで呟いた。
改めて青は店を眺め、
「あれ、なんか前に来たときと変わってるね。少し豪華になった気がする。」
ノノカが
「そうよ。絵画をクリアするごとに扱える品も多くなるし、ときにはお金では買えないものもあるんだよ!」
「ノノカ、お金では買えないものって、例えばなに?」
「それはプライスレスよ!ふふん。」
(答えになってないじゃん…。なんかどっかで聞いたことあるな。)
と思いながら入り口をくぐった。
「はいはい!いらっしゃいませ~!」
奥からかよさんの元気な声が聞こえてきた。
かよさんはノノカの前に立つと
「あら、ノノカちゃん、そちらのきれいなお嬢さんは?」
「合志美姫ちゃん。青の高校の先輩だよ~。美姫ちゃん、こちらはこのお店の女将、かよさんだよ~。」
「合志…、え、もしかして…。お父さんの名前、賢人さん?」
かよは着物の袖に手を入れ、その袖で口を隠しながら申し訳無さそうに美姫に言った。
「そうです。ご存知なんですね、父のこと。私が4,5才の頃この世界に来て命を絶ったと聞いています。」
と合志は気丈に答えた。
「そうね。あたしが最後に会ったのは10…12年前かな。19枚目の絵画の時だったと思う。あと少しで全部終わるから、財宝とともに家に帰るんだって嬉しそうに話してたわ。あ、こんなこと言っちゃいけなかったかしら…。」
「大丈夫です。父は物静かだったけど、家族思いの優しい人だった、と母から聞いています。私は幼くて今は一緒に撮った写真でしか顔がわかりませんけど。いつも抱き抱えられていたのを覚えてます。」
「なんか、悪いこと言っちゃったわね。もし…、もし美姫ちゃんが聞きたいなら、私の知ってる限りの事は話せるけど…。」
「そうですか…。ねぇ、青、ノノカちゃん、私かよさんと2人で話してもいいかな?そんなに時間はかけないから。」
青は
「もちろんいいですよ。僕らは買い物してますので。あ、必要なものがあったら教えてください。選んでおきますから。」
「ありがとう。じゃあ私に似合う服をワンピとジーンズの2通りで選んでおいて。青には難しかもしれないからノノカちゃん、お願いね。」
「まかせてっ!ゆっくり話してね。」
かよと美姫は奥の部屋に行き、青とノノカはカートを転がし買い物を始めた。
青はちょっと疑問に思って言った。
「ノノカ、この世界って、今僕たち以外に行方不明者を含め20人以上いるわけだよね?同時にこのお店を使うことってないのかな?」
「青鋭いね、気がついちゃった?では教えてしんぜよう。このお店は全部で絵画の枚数だけあるのだけど、かよさんは1人なのね。だからかよさんはお店の奥にある『いつでもどこでもお客さんが来ているお店に行ける引き戸』を使って移動できるのよ。でも最近かよさんも大変らしいからセルフレジの導入を申請してるんだって。わかった?」
「そ、そうなんだ。ま、まぁ僕らの世界もセルフレジ増えてきてるからね。不思議ではないかな。ハハ…。
かよさん以外に店員さん雇えばいいのにね。」
「人件費削減よ‼」
「えぇ…。」
2人が買い物をしていると、奥からすすり泣くような声が聞こえてきた。




