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第一級の賢聖士  作者: 松木 希江琉
第2章 最初の廊下
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第13話 出発

田舎だが伝統ある高校に進学した安楽土あらと せい

色々あって結局帰宅部に収まり、友だちもできて1年が過ぎようとしていた3学期のある日、いつものように友達の斉藤さいとう 高志たかしと購買で買った昼食とともに空き部室に行くと偶然あるものに気づく。

それは表紙全体が薄茶色に変色した大正時代の化学の教科書だった。

何気なく手にとってみると、小さなノートのような切れ端に複雑な化学式のようなものが書き記してある。それをまじまじと見ていた次の瞬間---。

「さて、そろそろ決まったかの?」


「はい、決まりました。“絶望の廊下”からお願いします。」


「ホーホッホ!絶望からか‼それを最初に選んだのは…青くんで2人目じゃの。よいよい、それが君の選択なのじゃから。それから挑戦中にできた仲間は次の絵画にも引き継がれる。あと細々したことはサポアニに教え込んでおるから、遠慮なく訊いてみると良い。

では心の準備はいいかな?絶望の廊下の戸を開くぞ、あらポチッとな。健闘を祈るぞよ。」


「はい、ありがとうございます‼行ってきます!」


教室の後ろの戸が青白く光り始めた。僕はゆっくりと戸を開けて廊下に進んだ。廊下に入った瞬間、入ってきた戸は閉じられ、消えてしまった。


前を向くと広い!廊下なのか?まっすぐ直線で幅は教室の2倍以上ありそうだ。想像していたのとはまるで違う。

床は大理石のような感じで前にテレビで見た外国の美術館のようだ。ただ絶望だからか、照明は暗い。薄暗いライトが数カ所あり、絵画だけははっきりと見えるようにスポットライトが当たっている。そして5、60m位先かな、突き当りに戸が見える。あれが出口なんだな、きっと。ちょっと行ってみようかな。


まっすぐ歩き出すと最初の絵画が右手に見えてきた。あとで戻って観るとして出口の戸に…あれ?進めない。

透明な、弾力のあるなにかにボヨンと弾かれた。


「それ以上は進めないわ、青くん。」


え?声の主はどこ?上から声がしたようだけど何もない。


「下よ、耳悪いの?」


ん?あ、いた!うす茶色で尻尾が白いウサギちゃん!サポアニだ!かわいい!


「何ジロジロ見てるの。変態?まぁ、ムリもないわね、初めてだもんね。」


「あ、ごめん、ここ音がよく反響するみたいでわからなかった。君は…初めてじゃないの?」


「君ではなくてノノカ。ネザーランド・ドワーフの血統証付き。それと初めてよ、サポートするのは。」


「ねざーらんどどわ…?ごめん、あんまり知識ないんだ。家で飼ってるうさぎは母がもらってきた雑種らしいから。」


「雑種と一緒にしないで!失礼だわ。もう一度言うわね、あたしはネザーランド・ドワーフのノノカ。ピーターラビットのモデルになったオランダ生まれのうさぎ。覚えた?」


「うん、覚えたよ。ネザーランド・ドワーフのノノカちゃん。僕は青。これからよろしくね!」


「ちゃんは嫌だな~。ノノカでいいわよ。あたしもそうするから。いいでしょ?これから長い付き合いになるんだから。」


「も、も、もちろんだよ。で、早速だけどこのボヨンとした壁みたいなのは何?」


ノノカは飛び上がったかと思うとヒョイヒョイっと青の肩に乗って話し始めた。


「これは“解錠の仕切り”と言って、手前の絵画の挑戦が成功すると消えるようになってるの。簡単に言うと順番に挑戦を成功させなさい、さらに逃げることは出来なよ、ってこと。」


「なるほどね。うまく出来てるんだな~。それともう一つ、ここは僕がいた世界とどう違うの?」


「ここは並行へいこう世界よ。パラレルワールド、ともいうわね。わかりやすく言うと青のいた世界と基本的な部分はほとんど同じなの。絵画によって時代背景は変わるけどね。だからもし青と同じ時代の絵画に入ったとしたら青の家もあるわ。そこで寝泊まりもできたりする。ただ絵画の中の本人は一時的にいなくなる、といか青と融合するの。そうじゃないと同じ人間が2人なっちゃって、わけわからなくなるでしょ?」


「ふむふむ、聞けば聞くほどよく出来てる。なんだかワクワクしてきたぞ。じゃあ最初の絵画を観てみようかな。」


青は絵画の前に立ち、じっくり眺め始めた。


女の子が机に座って、ノートパソコンを見ながら泣いている…。手で顔を覆っているからどんな顔かはわからない。説明書きには“ネットの恐怖 死を選ぼうか悩み泣く中学2年の女生徒 1999年 古泉源二 作”と書いてある。


「これって、よくSNSとかでディスられたことを絵にしてるのかな…。ノノカ、どう思う?」


「そうかも知れないわね。まぁいいじゃない、最初の挑戦行くわよ。ポチッ!」


「あー‼僕が押したかったのに‼」


ボタンが押されて数秒経つと、青とノノカは白い粒子のように分解され絵の中に吸い込まれていった。



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