第12話 挑戦説明 その2
田舎だが伝統ある高校に進学した安楽土 青。
色々あって結局帰宅部に収まり、友だちもできて1年が過ぎようとしていた3学期のある日、いつものように友達の斉藤 高志と購買で買った昼食とともに空き部室に行くと偶然あるものに気づく。
それは表紙全体が薄茶色に変色した大正時代の化学の教科書だった。
何気なく手にとってみると、小さなノートのような切れ端に複雑な化学式のようなものが書き記してある。それをまじまじと見ていた次の瞬間---。
「では廊下について説明しよう。それぞれの廊下には両側に5~12枚の絵画が飾られておる。そして各絵画には説明書きがあり、その横にボタンが付いておる。
そのボタンを押すと絵画の中に入り込め、挑戦が始まる。
間違ってほしくないのは、挑戦は必ずしも戦闘、ということではない。多くは謎解きじゃ。
そして常に1人で挑戦する、ということでもない。
出会った者と仲間の契を交わせば何人でも仲間にできる。が、当然その仲間も養わなければならないのじゃ。
ここまではわかったかえ?」
なるほど。絵画に入って問題を解決する、ということか。
「はい、大筋はわかりました。あとお伺いしたいのは、野望、欲望、絶望の廊下の違いですが、教えていただけますか?」
「もちろんじゃ。
野望をクリアすると自分のみならず、世界の人たちに幸福をもたらすことができる。だから3つの廊下の内最も絵画の枚数も多く、クリアするのも時間が掛かるし、一番難しいと言って良いじゃろう。
欲望はクリアすると充足感に満たされる。一緒にいた仲間も同じ気分が味わえる。ただ戦闘が最も多い。つまり仲間もそれなりの能力を持った者を集めなければならないのじゃ。
絶望は自分が絶望するわけではない。絵画の中の世界がすでに絶望状態にあるのじゃ。なのでそれを幸福に導いてあげれば良い。簡単に聞こえるがこれがなかなか…。対処の仕方によっては自分も絶望感に駆られることになるじゃ。
どうじゃ、理解できたかの?」
「なんとなく…。では最初は野望を選ばないほうが良いのですね?」
「そうじゃな。できなくはないが、まずはこの世界に慣れるのた方が良いじゃろう。」
「では欲望か絶望か…。自分で決めるわけですね?」
「うむ。もう少し情報がほしいかね?」
「いいえ、考える時間がほしいです。大丈夫ですか?」
「それは構わん。ただこの教室には半日以上はいられんぞよ。それまでに決めておくれ。」
「わかりました。では少し時間を下さい。」
正直ここに来るのにビビっていたけど、今はものすごく冷静になってる。
どちらにしようか…。
「あ、忘れておった。これを1つあげよう。」
と言って先生は1つのアメ玉をくれた。
「なんですか、これは?」
「ここにしかない、“あまり空腹にならないキャンデー”じゃよ。今舐めてもいい。効果は1つの廊下中ずっと続くんじゃ。なかなかええじゃろう?」
「ありがとうございます!実は腹ペコだったんです。」
「そうじゃろう。まさかあの部室が立ち入り禁止になるとは思っていなかったからの。カッカッカ!」
「知ってたんですか!まぁそうですよね。だったら1日伸ばして欲しかったです。」
「いや、あれでいいんじゃ。あとで分かるが青くんはあの立ち回りの中でかなり強力な力を得た。これからが本当に楽しみじゃ。」
本当は先生の正体を訊きたかったが、きっと今は教えてくれないだろうと思って訊かなかった。




