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徘徊

作者: 鍵閉太郎

その日の深夜は、よい風が吹いていた。

雨上がりだというのに、全く湿り気はなく、むしろキンと冷たく爽快で、柔らかい肌触りをしていた。

私は徘徊をする。

そこに目的はなく、思想すらない。

その日はたまたま深夜に出掛けたが、そういったことをするのは大概昼間と決まっていた。

単純に怖かった。深夜は足下すら覚束ないし、何より暗い。一寸先は闇。外灯はほぼなかった。


歩き続けて十分余り、小さな林の前へ来た。今まで散々探索してきた場所であった。しかし、昼間とは違って何だか陰気な、狭苦しい印象を受けた。星空の下に全長百メートル越えの、毛むくじゃらの怪物が寝そべっているようにも見えた。

私は逡巡(しゅんじゅん)し、幾分かその林の前で立ち尽くしていた。ある程度、暗闇に目が慣れてきたところで、私はついに腹をくくり、その林の中へと足を踏み入れた。


私は呑み込まれてしまったのだ。もう、後戻りは出来ない。そう思うと背筋がヒヤリとしたが、歩みを止めることは出来なかった。今にも、私の背中目掛けて飛び付いてくる得体の知れないモノを想像した。葉ずれの音にいちいち恐怖し、交互に覗く足下を(しげ)く気にしていた。周りを見渡すことはしなかった。ただ、ひたすらに前だけを見て進んでいた。風が不規則に私の肌を撫で付け、虫はしきりにチリリと(わら)う。今にも、今にも私を刺し殺そうと、陰に潜み気を伺っているモノの息遣いが聞こえた。私は自然、動悸を速めた。それとは対照的に、恐ろしくゆったりとした深呼吸を一つ、二つ、三つとした。


やがて、チロチロと水の流れる音が聞こえ始めた。いつしか、左方(さほう)に拓けた小川があった。私はそこで、初めて周りを見渡した。鬱蒼と繁る林、しかし、その空間は割合明るく、月明かりに照らされた植物達はシャワシャワと体を揺すぶり、知らん顔をして立ち尽くしているのだった。私は、にわかに孤独を感じた。安らぎにも似た平穏の孤独。

木々の葉ずれは生きている証、草花の揺らめきは情念の起伏、小川のせせらぎはすれ違いのせめぎ合い。なんだ、皆そうなんだ。私は、土を軽くにじり踏みしめるとほっとして、再び歩き始めた。

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