表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/62

第60談

カッと目を見開く。


すると目の前には幼児になった泰然(師匠)がいる。

雪玲(シューリン)の腕の中に、すっぽりと収まる姿に見覚えがある。


雪玲(シューリン)達は上空から落ちている。


泰然(タイラン)が作っていた雲がなくなったのだから当然だ。斉天大聖が、峰花(フォンファ)が、空を飛び、追いかけてくる。


気にしないで欲しいと雪玲(シューリン)は手を振る。


助けてくれなくても大丈夫だ。なぜなら雲は容易く作れるものだ。それは解脱していない道士でも作ることができるのだから。


できると念じれば、それはいとも容易く可能になる。浮くと思えば浮く。そして、雲を作れると思えば作れる。


だが十耳(ジュウジ)魔王の術……逆成長の術を打ち破ることはできない。万姫(ワンチェン)の時でも無理だったのだから当然だ。ましてや、今の()()()は道士。まだまだ仙力が足りない。

だけど、できることもある。できると思わないといけない。


赤子の様になった泰然(タイラン)を空へと持ち上げる。懐かしい姿。万姫(ワンチェン)の時に、見た姿。


「逆成長しているなら、成長させてしまえば良いんだ!」


できると言う決意を込めて声をあげる。できなくてもやるしかない。いやできる。なぜなら過去の記憶がある。ずっとずっと見続けてきたんだ!この子の成長を!


目を閉じれば浮かんでくる。

初めて見た時は海を泳いでいた。鯨を獲って、自慢げだった。


母親と離れたくないと、ぐずった顔の可愛かったこと。


それからずっと見ていた。毎日飽きることなく、見続けた。


獲物を勇ましく狩る姿。両親に甘える姿。年相応の表情で友達と遊ぶ姿。


迎えに来た仙人に手を引かれて去る時の、両親に見せた寂しそうな顔。


崑崙山で初めて会った時に、照れて東王父の後ろに隠れたかわいい姿。


弟子として成長していく日々。

年々に大人になっていく。


言葉遣いが変わり、身長は追い越され、いつしか熱っぽい視線で見られる様になった。私にその気にはなかったけれど、いつか誰かにその視線を向ける日がくるかと思うと、寂しくも思えた。


今、その想いを全て力に変えて、この子を救う時が来た。今度こそ、ちゃんと救ってみせる!今の私には、丈夫な身体があるのだから!


雪玲(シューリン)泰然(タイラン)の周囲に光の粒が煌めき、更にザザザっと音を立てて花びらが集まる。桜のように儚げな花びらは、だけどもしっかりとした意志を持って泰然(タイラン)を取り囲む。そして暗闇に包まれた世界に、雪玲(シューリン)から一筋の光が迸り、更に一気に風が吹き、雲を飛ばし、太陽の光を地上へと届ける。


腐った大地は太陽の光を受けたところから、大地にしっかり根を生やす緑の草原が広がり、そしてかわいい花弁をもつ花々が咲き乱れていく。


雪玲(シューリン)を中心に、世界は浄化されていく。と同時に、花弁に包まれた泰然(タイラン)の身体も大きくなっていく。赤子から子供の大きさに、そして大人になり、更に雪玲(シューリン)の腕にかかる重さがなくなった頃、さぁっと緩やかな風が吹き、花びらを散らしていく。


そこには寸分違わない姿の泰然(タイラン)がいた。


雪玲(シューリン)?」


目を瞬く泰然(タイラン)は何が起きたのか分かっていないようだ。ただ、ただ不思議なそうな顔で雪玲(シューリン)を見ている。


雪玲(シューリン)は安堵の笑みを漏らす。


ほっそりと細くする瞳に、緩やかにあげる口元に、その表情全てに、泰然(タイラン)は見覚えがある。



「良かったわ……」


雪玲(シューリン)が言葉を漏らしたと同時に、雲が消えた。泰然(タイラン)が慌てて雲を作り、雪玲(シューリン)を抱きあげると、笑みを浮かべたまま気絶している。


「まさか……万姫(ワンチェン)さま?」

いつの間にか近くまで来ていた峰花(フォンファ)が驚愕の声を上げた。


やはりそうだったのか……泰然(タイラン)は息を飲み、ため息とともに応える。


「ああ、万姫(ワンチェン)様のようだ」


大地は穏やかな陽射しを受け止めた。十耳(ジュウジ)魔王の痕跡は何もない。栄華を誇った建物も。そして、彼自身の罪も全て消し去った様に。

今度こそ、残り2話です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ