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第55談

斉天大聖の号令の元、神仙達は一斉に十耳(ジュウジ)魔王の元へ向かった。


「遠くから攻撃しろ!」

「油断するな!」

神仙達はそれぞれに声を掛け合い、空を駆ける。


赤い鎧を身につけた神仙が上空から十耳(ジュウジ)魔王に向けて矛を飛ばす。矛は神力でグングンと大きくなり、十耳(ジュウジ)魔王の身体を貫く勢いだ。


だがその攻撃を受ける十耳(ジュウジ)魔王には余裕がある。妖力を全身に走らせると矛は、十耳(ジュウジ)魔王の身体に当たることなく弾かれる。そして矛自体が溶けるように腐っていく。


「武器で攻撃するな!神器が通じない!」

赤い鎧の神仙が仲間に警告する。


その隙を狙って、十耳(ジュウジ)魔王の肩から生えた鰐が身体を伸ばし、大きく口を開いた。一気に宙を飛び、そして赤い鎧の神仙を喰む。


「ああ――!」

その姿を見た雪玲(シューリン)が声を上げる。と同時に赤い鎧の神仙は煙の様に姿を消した。獲物を無くした鰐は十耳(ジュウジ)魔王の身体に戻っていく。食べ損ねたと悔しげな顔をして。


「師匠!神仙は大丈夫なんだよね?」


「ああ、神仙は特殊な術で危険が生じると自動的に神界に戻ることができる。だから大丈夫だ」


雪玲(シューリン)がほっと息を吐くと、峰花(フォンファ)が重い口を開く。


「だけど仙人である妾達にはできないことよ。だから……気をつけてね」


「そうだ、特に雪玲(シューリン)はまだ解脱していない道士だ。死ぬ身体だから、特に注意しろ」


ふたりの視線の意味が分からないほど、雪玲(シューリン)は馬鹿じゃない。心配されている、大事に思われていると思うと、ついつい口がニヤけてしまう。


「えへへへへ〜。危なくなったら師匠を盾にするよ」


「そうね、それが良いわね」

峰花(フォンファ)は笑う。


「ああ、そうしろ」

泰然(タイラン)は本気でそう言っている。


ここにいて良かったと、ここまで来れて良かったと雪玲(シューリン)は笑う。色々経験したけれど、落ち着くべきところは、やはりここらしい。


「さて、では行きましょう。神仙ばかりに手柄をたてさせるわけにはいかないわ」


「ああ、敵討だ」

「あいよ!あたしも頑張るよ」


視線を合わせ、一斉に十耳(ジュウジ)魔王に向かう。雪玲(シューリン)泰然(タイラン)の後ろから顔を出す。まだ雲を出せない雪玲(シューリン)泰然(タイラン)にくっつくしか空を飛ぶ術はない。


「うさぎちゃん、ぴょんぴょん〜。師匠……十耳(ジュウジ)魔王は、あたしがやっつけた蛇妖怪委蛇(いだ)と同じように本当の姿は兎じゃないの?あたしは大きい兎と戦いたかった」


「元は兎だろうが、年経た大妖怪だ。あらゆる生き物を取り込んだ今の姿が、やつの本性なのだろう」


「じゃあ、あれが一番強い状態ってことかぁ。弱点ってあるのかな?」


「弱点を探るために、師父は神仙達にあらゆる場所を攻撃させているんだろうな」


確かに神仙たちはむやみやたらに攻撃しているように見える。だがその攻撃のどれもが十耳(ジュウジ)魔王の身体には届かない。すべて妖気の壁で止まっている。


「じゃあ、これはどうだ!」


斉天大聖の声が暗い空に響く。黒い雨雲を弾き飛ばす勢いで、如意金箍棒が伸びていき、そして十耳(ジュウジ)魔王の妖気の壁を突破し、さらに十耳(ジュウジ)魔王の身体に突き刺さる。


「きさま……」

如意金箍棒は十耳(ジュウジ)魔王の身体を貫くことはできなかった。だが突き刺さった場所を中心に、斉天大聖の対魔の気が熱をもって広がる。


ジュッと焼けながら十耳(ジュウジ)魔王は如意金箍棒を持つ、するとその腕が見る間に赤く染まっていく。身体もだ。だがそれに構わず十耳(ジュウジ)魔王は如意金箍棒を持ち上げる。こうなると斉天大聖と十耳(ジュウジ)魔王の力比べとなる。斉天大聖は更に押し、十耳(ジュウジ)魔王も押し返す。


「今のうちに攻撃しろ!」

斉天大聖の号令の元、神仙達が一気に攻撃を加える。多勢に無勢だ。斉天大聖に集中している十耳(ジュウジ)魔王にはなす術がない。


「あまり攻撃は効いていないようね……では、これではどうかしら?」


神仙達の攻撃を分析した峰花(フォンファ)は瓢箪を取り出す。瓢箪の中には坊主の霊がいる。十耳(ジュウジ)魔王の元となった兎を可愛がった坊主の霊が。


峰花(フォンファ)は印を組み、坊主の霊力を取り出す。そしてその力に自分の仙力を混ぜ合わせ、光をまとう蝶々を作り出す。


「隠は陽に弱いわ」

ふふッと笑うと、蝶々を十耳(ジュウジ)魔王へと向かわせる。ざざざっと舞い散る木の葉のように蝶々は群れを成し、十耳(ジュウジ)魔王の元へと向かっていく。妖気の壁をすり抜け、十耳(ジュウジ)魔王が咄嗟に口から放った炎を避け、その身体にビタビタとくっ付いていく。


「ぎぇあああああ――――」


十耳(ジュウジ)魔王の叫び声が響く。その隙を見て如意金箍棒が十耳(ジュウジ)魔王の身体を穿つ。神仙達は己の力を最大限に発揮し、ある者は術で、ある者は武器で次々に十耳(ジュウジ)魔王を攻撃していく。その度に十耳(ジュウジ)魔王の身体から取り込んでいた妖怪達が消えていく。やっと解放されると言わんばかりに。


せめて一撃でも喰らわそうと泰然(タイラン)は双刀を分裂させる。空に広がる刀は、大粒の雹が地上に落ちる勢いで、十耳(ジュウジ)魔王の元へと飛んでいく。そして次々と刺さる刀に、泰然(タイラン)は手応えを感じる。


それは泰然(タイラン)だけではないのだろう。皆が次々と当たる攻撃に歓喜の声をあげている。代わって十耳(ジュウジ)魔王の悲鳴が世界に響く。それはまるで勝利を示す楽器のようだ。


「勝利は目の前だ!」


誰が叫んだか分からない言葉が空間を支配する。大妖怪十耳(ジュウジ)魔王はここで滅する。その勢いで世界が赤に染まる。

3連休で終わらせる……予定です!

よろしくお願い致します。

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