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第47談

結界を壊した峰花(フォンファ)は、ふぅっとため息をつく。他人の気に同調して術を使うのは骨が折れる。額にかかる汗を拭うと、瓢箪の中の坊主が話しかけてきた。


《大丈夫ですか?》


「ええ、大丈夫よ。それより十耳(ジュウジ)……の気配は分かる?」


《あの子は嘆いている様です。私の声も届きません》


「……そう」


誰もが十耳(ジュウジ)魔王を殺そうとしている中で、この坊主だけが彼を救えないかと模索している。それが正しいかどうか、峰花(フォンファ)には分からない。


目の前では神仙達と妖怪達が争っている。神仙達に向かっていく妖怪達は、理性がないように見える。狂気の姿で向かって行っては消滅している妖怪は、火に飛び込む蛾のようだ。焼かれていることを、喜んでいる様にすら見える。


だが全ての妖怪達が狂っているわけではなさそうだ。なぜなら峰花(フォンファ)にむかってくる牛の姿の妖怪は、まともそうに見える。


「こんなところで、この様な美女に出会えるとは」


舌なめずりをする牛の妖怪は、舐めるように峰花(フォンファ)を見ている。その肩にトントンと当てている矛は、峰花(フォンファ)の身体など簡単に貫きそうだ。


ブンっと力任せに妖怪が矛を振る。その鋭い切先は峰花(フォンファ)の身体を両断するかのような勢いだ。一瞬、その矛は峰花(フォンファ)の華奢な身体に刺さった……かのように見えた。だがそう見えたのは一瞬で、峰花(フォンファ)はふわりと空を飛ぶ。


花びらが舞うようにひらりと飛んだ峰花(フォンファ)は、その羽衣を牛の妖怪へと飛ばす。ただの布が鋭い刃物となり、妖怪は真っ二つにされた。峰花(フォンファ)は続け様に素早く印を結び、フッと息を吹きかける。その吐息とともにチチッチと火花が飛び散り、妖怪の身体に引火する。炎の渦が一気に巻き上がり、牛の妖怪の大絶叫が空に響き渡る。


「つまらない男に用はないわ」


橙色の唇が愉悦に満ちた笑みを見せた。その先には、狂った妖怪達が恐怖も持たず、佇んでいた。




◇◇◇




泰然(タイラン)の雲は迫り来る妖怪達を縫って飛ぶ。右に左にと避けながら飛び、それでも迫ってくる妖怪は双刀で切り伏せられる。雪玲(シューリン)泰然(タイラン)に背を向け、背後を守る形を取っている。子供だと侮って迫る妖怪を、譲ってもらった棍で突く。すると妖怪は燃えてしまうのだ。自分でもどういう原理か分からない。だけどやろうと思えば、できると思えば、なんでもできるのだ。深く考えないで、どんどんと突く。


ギョロっとした一つ目の妖怪は、腕が3つ、指が7本ある。さらに足は4本ある。長さがバラバラな足ではバランスを取るのは難しいのだろう。一応、雲をまとって飛んでいるがヨロヨロしている。その妖怪が情けない掛け声と共に、ヌンチャクを飛ばしてきた。それをヒョイっと避けたら、泰然(タイラン)も避けた。どうも師匠は後ろにも目がついているらしい。


おおっと感心していると、さらに追撃がある。ひょいひょいと避けて、泰然(タイラン)も避けれるか試していると、双刀が飛んできて、雪玲(シューリン)の目の前の妖怪を突き刺した。


「ありり?」

「お前……真面目に戦え!」

「すごーい!師匠かっこいい!」

雪玲(シューリン)の声がワントーン上がる。


泰然(タイラン)はため息で応えて、印を結んだ。すると雪玲(シューリン)泰然(タイラン)の周辺には、剣が大量に現れた。空間を覆い尽くすかのよう剣の群れが一気に空を走り、妖怪達を追撃していく。


「おお!すごーい、すごーい!」

「このまま、館まで行くぞ!」


「あいよ〜!がんばれ、がんばれ、し・しょ・うー!」


雪玲(シューリン)の呑気な声が戦場に響き渡った。




◇◇◇




「おう、おう、呑気なもんだ」


斉天大聖はひと言漏らしたと同時に、如意金箍棒を身体に沿わせてぐるっと回ると、周囲の妖怪達が霧散していく。ついでとばかりに風を巻き起こし、奥にいる妖怪達を後ろへと飛ばす。さらに印を組み、息を吹きかけると、斉天大聖を取り囲むように炎が立ち上がる。両腕を大きく広げると、その動きに合わせて炎が飛び、先にいる妖怪達を焼く。悲鳴をあげてのたうち回る妖怪達を尻目に、斉天大聖は門を潜る。


「一番乗りだ」


ニヤリと笑って進む先、建物には妖怪達の気配がしない。いや、しないわけではない。ただ2匹だけしか気配がしない。


十耳(ジュウジ)魔王と……誰だ?」


片眉をあげて、ずがずがと歩いていくと、背後に気配を感じた。弟子とその弟子の気配だ。


「師父!この気配は……」


「1匹は十耳(ジュウジ)魔王だな。もう1匹は……女か?妻の1人か?」


「こんな広い屋敷にふたりなんて贅沢だ!」

泰然(タイラン)の雲からぴょんと降りて、雪玲(シューリン)が斉天大聖の横に並ぶ。


「つまり他の妖怪達は、この屋敷から出て戦っているということですね」


泰然(タイラン)雪玲(シューリン)の横に並び、目を細めて建物の中を探る。見る先は真っ暗だ。十耳(ジュウジ)魔王の濃い妖気で千里眼も効かない。


「戦っているのか……戦わされているのか……もしくは逃げ出しているのか……」


顎を摘みながら斉天大聖は泰然(タイラン)雪玲(シューリン)を見る。これから建物に入ろうと言うのだ。


十耳(ジュウジ)魔王はどこかな〜?兎ちゃ〜ん、ぴょんぴょん」


雪玲(シューリン)が額に手を当て、鼻歌混じりに屋敷に入った時、声が聞こえた。

美しい声。優しい声。人の心をとろけさせるような、少し低い甘い声。


「……翠蘭(スイラン)姐姐(ネーサン)?」


雪玲(シューリン)の瞳が大きく開いた。

毎日12時に投稿します。

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